臨時世界ハンター会議⑬~臨時世界ハンター会議当日~

臨時世界ハンター会議が開かれる日を向かいました。

しかし、澄人は別の問題を抱えているため、会議に出席しておりません。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 臨時世界ハンター会議当日の朝。


 俺は会議よりもある約束を守らなければならなくなったため、居間でテレビに映る臨時世界ハンター会議の様子を眺めていた。


 会議を開くように催促をしたのは俺だが、2代目破壊王であるじいちゃんが存命である以上参加する意義がない。


(3代目破壊王の二つ名が欲しかったけど、先代が存命中は襲名されないからな)


 今回の臨時会議で俺の目的が達成されることがなくなったため、ボーっとテレビを眺めていると玄関の方から声が聞こえてきた。


「グッドモーニング!!」


「スミト! 居るのよね!?」


 二つ名を持っているハンターの二人が朝から家へやってきたようだ。


 これだけではどちらかわからない片方の声もあるが、凛とした響の声からしてマネージャーであるヘレンさんはわかる。


 今の期間は予定がびっちりと入っている二人が時間ピッタリに着くなんて凄いと思っていると、居間の扉が開いた。


「二人とも早いですね」


「当然よ。私の面倒を押し付けちゃったんだもの」


 銀河の歌姫と呼ばれるソニアさんが胸を張って答える。


 隣に立っているヘレンさんの表情を見ると、少し疲れているように見えた。


「それで、彼に手紙は渡してもらえた?」


「もちろん、直接手渡したわ……読む前にその場から離れたけどね」


 俺の質問にヘレンさんはそう答え、ため息をつきながら言葉を続ける。


「離れてから何かを壊す音が聞こえたから内容は読んでくれたと思うわ」


「それは良かったです」


「でも、本当にこれでよかったの? 私達の問題だし……手紙を渡すだけじゃ……」


 ヘレンさんが申し訳なさそうに言うが、俺は首を横に振ってから笑顔を向ける。


「いえ、問題ありません。ありがとうございます」


「そ、そうなの……それなら良いんだけど」


「それよりも、今日はよろしくお願いします」


「ええ、任せて」


 俺が頭を下げると、ヘレンさんが照れくさそうに笑いながら手をひらひらと動かした。


「それなら私はスミトにハグをして元気付けるわ! えい!」


 ヘレンさんとの真面目な雰囲気を壊すように、ソニアさんが後ろから思いっきり抱き締めてくる。


 しかし、言葉とは裏腹に優しく包み込むような抱擁だった。


(この人のスキンシップの多さにも慣れたな……ん?)


 俺の首筋に顔をうずめながらソニアさんの体が震えていることに気付く。


 どうやら泣いているようだった。


「ど、どうかしましたか?」


「ごめんなさい……あなたを巻き込んでしまって……」


 その声には後悔の色がありありと感じられた。


 彼女の涙で首元が濡れるが気にせず口を開く。


「ソニアさん、巻き込んだなんて言わないでください」


「だって……」


「俺は巻き込まれたんじゃないですよ」


 俺は体を捻り、正面からソニアさんを見つめ、目を合わせて微笑みかけた。


「俺は家族を守るために行動をしているだけです」


「……っ!!」


「だから、そんな風に思わないで下さい」


「……うん」


 ソニアさんの目から大粒の涙が流れ落ちる。


 彼女はそれを拭おうとはせずに、泣き顔のまま何度も小さく縦に頭を振っていた。


「もう大丈夫。落ち着いたわ」


 ソニアさんが目を擦りながら離れると、ヘレンさんが目を赤くしながらハンカチを差し出す。


「ほら、これ使いなさい」


「ありがとう……」


 ソニアさんはそれを受け取り、両目からこぼれている涙を拭いてからヘレンさんへと返した。


「ふぅー……よし、もう平気よ!」


 ソニアさんが両手で頬を叩き、気合いを入れ直してから宣言する。


 その様子を見てヘレンさんも安心したのか、いつも通りの笑みを浮かべていた。


「さて、約束の時間までまだ余裕があるわね」


「そうですが、俺は早めに現地で待っていようと思います」


 ヘレンさんの言葉を受けて立ち上がると、ソニアさんが服の裾を引っ張ってくる。


「ねぇ、行く前にキスをしてあげようか?」


「えっと……どうしてですか?」


「自分のために戦ってくれようとしている人にお礼をしたくなるのは当然でしょう? ね?」


 ソニアさんの有無を言わせぬ迫力に負け、ヘレンさんへ視線を送ると苦笑いをしながら肩をすくめられた。


「ソニア、頬にしておくのよ? 唇だと後が怖いわ」


「わかっているわ」


「あの、別にそこまでしてもらう必要はないんですけど」


「いいのよ。私がしたいんだから」


 ソニアさんが楽しげに笑うと、俺の顔を両手で挟み込み、そのままゆっくりと近づいてくる。


 そして互いの吐息がかかる距離になると、ソニアさんが優しく微笑んだ。


「頑張ってきてね」


「はい」


 俺は短く返事をすると、ソニアさんが軽く触れるだけの優しいキスを頬へしてくれた。


「行ってきます」


 俺達は居間から出て玄関へ向かう。


「ああ、そうだ。これを持っていてくれ」


 靴を履いて外へ出ようとすると、ヘレンさんから封筒を渡された。


「これは?」


「ジェイソン・ホワイト……4代目覇王についてまとめた資料だ。受け取ってほしい」


 ヘレンさんはこんなことしかできなくてすまないと言って、悔しそうにキュッと唇を固く結ぶ。


 その表情を見て俺は首を横に振ると、笑顔を向けてから口を開いた。


「ヘレンさんは充分過ぎるくらい色々としてくれています。これ以上を望むのは欲張り過ぎですよ」


「だが……」


「ヘレンさんたちが安心して清澄ギルドにいられるように頑張ってきます」


 そう言うと、ヘレンさんが少し呆けた後にクスリと笑いながら俺の手を握る。


「やっぱり君は凄いな」


「そうでしょうか?」


「あぁ、凄くカッコイイよ」


 ヘレンさんは握った手に少しだけ力を入れ、少しだけ俺を自分へ引き寄せた。


 ソニアさんがキスをしてくれた逆の頬へ柔らかい感触を感じ、ヘレンさんを見ると照れくさそうに笑っていて、少しだけ耳が赤くなっている。


「いってらっしゃいスミト。交渉以外のことは任せろ」


「はい。よろしくお願いします」


 ヘレンさんの笑顔に見送られながら、俺は覇王であるジェイソン・ホワイトが来ると思われる場所へ向かう。


(ジェイソン・ホワイト……やつはソニアさんたちへ自分のギルドへ入るように脅迫じみたことをしてきている)


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次回の更新時期は未定です。

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