草凪澄の目的⑩~守護者からの試練~
澄人が守護者から石を手渡されています。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「どうしましたか?」
「体が動かない……というより、力が入りません」
俺が守護者に状況を伝えると、彼女は俺の目の前まで来てしゃがみ込む。
「それは単純な力で壊すものではありません。意思の強さが反応します」
「意思の力……」
俺の言葉を聞いた守護者は立ち上がり、少し考えるような仕草をする。
「そうです。では、あなたの気持ちを聞いてもいいですか?」
「気持ちですか?」
「そうです。あなたが試練を受けたいと思うのか教えてください」
守護者はそう言うと真剣な眼差しでこちらを見てくるため、俺は彼女の質問に対して真剣に答えることにした。
「……強くなりたいと思っています」
「それはどんな風にですか?」
「今よりも強くなって、多くの人を守りたいと……」
守護者からのの質問は止まらず、次々に質問を投げかけられた。
「どうして守りたいと考えたのですか?」
「…………それは」
「それは?」
守護者の質問に答えるたびに、頭の中に様々な人の顔が思い浮かぶ。
特に、香お姉ちゃん夏さんや聖奈の顔がはっきりと見えてきた。
「……大切な人たちがいるから」
「それで?」
「みんなと一緒にいられる場所を守りたい……誰も失いたくない」
「それがあなたの想いね?」
「そうです」
俺の返事を聞いて守護者は満足そうな表情になり、大きくうなずく。
「それなら問題ないわ。あなたの気持ちが伝わってきたわ」
守護者はそう言うと、俺の手を取り立ち上がらせてくれた。
「青き草原の試練はこれでお終いよ。お疲れ様、草凪澄人さん」
守護者が俺の手を離すと、俺の手に握られていたはずの青い石が消えてしまう。
試練が終わったことを告げられ、体の緊張が取れていく。
「ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ……ありがとう」
守護者は俺に向かって深々と頭を下げ、お礼を言ってきた。
なぜ守護者が俺にお礼を言うのか不思議に思っていると、彼女がゆっくりと口を開いた。
「あなたが異界の謎を解明してくれるのを祈っているわ」
「え? 異界の謎?」
異界の謎について守護者へ詳しく話を聞こうとした俺へ、彼女が困ったような笑みを浮かべる。
「ごめんなさい。時間切れみたい」
守護者が謝るように呟いた直後、視界が大きくぶれ始める。
それと同時に守護者が消え、俺の周りを赤い画面が覆った。
【警告】
【システムの過干渉】
システムからの過干渉があったため『青き草原の試練』を中断します
報酬は達成した分のみ授与されます
※5秒後にあなたをこの空間から強制排出します。
「強制排出だって!?」
俺の体の周りへ青い渦が出現したため、慌ててこの場から離れようとした。
しかし、俺が足を動かすよりも渦による強制転移のほうが早く、青い光が視界いっぱいに広がった。
(こんなこと初めてだ……)
転移の光に包まれながら、強制的に転送される経験は初めてのため戸惑う。
すると、俺の周囲にあった光の粒子が次第に薄くなっていき、最後には何もなくなった。
「……ここはどこなんだ?」
周囲を見渡す限り真っ暗な世界が広がっているため、自分がどこにいるか分からない。
手を伸ばしてみるも何も触れることはなく、ただ闇が広がるだけだった。
(ここは……前にも……)
以前、似たような場所に来たことがあると気づき、どんな所だったのか思い出す。
慌てて後ろを振り向いた俺はこの場所がどこか分かった。
「前と同じだ……」
何度か澄さんと会った洞窟内におり、地面には小さな焚火が残っている。
ただ前回とは違い、澄さんの姿はない。
代わりに古ぼけた台のようなものの上に1冊の本が置いてある。
「試練の書に似ているけど……ちがう?」
台へ近づいて本を手に取ってみると、表紙にはタイトルがなく、裏側にも何も書かれていない。
試しにページを開いて中を見てみたが白紙になっており、文字が書かれている様子もなかった。
「……これはなんなんだ?」
本を持ち上げて色々な角度から見ていくが、特に変わったところは見られない。
この本がなんなのか判断できずに困惑していると、頭の中に声が鳴り響いてきた。
『この本はお前の物語を綴るんだ』
懐かしさを感じる声は、聞き覚えのあるものだった。
(澄さんの声……こんなタイミングで?)
その声は祖先である草凪澄と思われる声で、俺へ優しく語りかけてきていた。
「俺の話を書くってどういう意味ですか?」
本を閉じてから質問をしても返答はなく、再び本の中身を確認しようと開く。
だが、そこには先ほど見た時と同じように白いページだけとじられている。
「……俺が書けばいいのか?」
俺は不思議に思いながらも本を閉じると、また頭の中に澄さんの言葉が聞こえてきた。
『神器を3つ集めろ。そうすればすべてわかる』
それ以降澄さんの声が聞こえなくなり、俺以外に誰もいない空間で立ち尽くす。
澄さんがどういった目的でこのような本を用意したのか分からず、頭を悩ませる。
「とりあえず、今はここから出ることを考えるか……」
俺は手に持っている本をアイテムボックスへ入れ、この場所から離れることにした。
(ワープが発動しない……画面さえ出ないぞ……)
ワープで自分の部屋へ戻ろうとしたが、スキルが発動しない。
いつも俺の意思とは関係なくこの洞窟から追い出されていた。
「まいったな……どうすればいいんだ?」
ワープでこの洞窟からは脱出できないようなので、まずは外の状況を確認するために歩き出す。
通路を進んでいくと、壁や天井から水滴が落ちており、地面を濡らしていた。
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ご覧いただきありがとうございました。
次回の更新時期は未定です。
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