草凪澄の目的⑨~守護者~
青き草原に守護者が現れました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
何かを求めるようにこちらを見てくる守護者に対し、俺はなにもすることができなかった。
始まりの地と守護者がつぶやいた瞬間、頭の中にあるフレーズが思い浮かんできたからだ。
【始まりの地で生涯を共にする守護者と会った。あの出会いこそ俺の人生で最高の幸運だ】
なぜか草凪澄の声で再生されたこのフレーズが頭を占める。
(この人……守護者に会えたことが幸運? どういう意味なんだろう?)
不思議に思っていると、守護者が少し首を傾げてから話し始めた。
「どうしたの?」
彼女の声を聞いていると落ち着くため、もう少し聞いてみようと決めた時、脳内にある単語が出てきた気がして考えてしまう。
(……まさか!?)
1つの仮説を思いつくことができてしまったので、目の前にいる守護者をもう一度見直す。
その顔立ちはとても美しく、スタイルも良くて、胸の大きさまで完璧だった。
(祖先……澄は守護者と会っている。だけど、この人は俺と澄を間違えた……それが意味するのは……)
守護者はこちらを見て微笑んでおり、俺のことをじっと待っているようだ。
俺は意を決して質問をしてみることにする。
「えっと……あなたは……先祖である澄さんと俺を間違えていたんですよね?」
俺が問いかけると彼女はキョトンとした表情になり、顎に手を当てて真剣に悩み始めた。
「ん~? ……そうね。私はあなたのことを澄だと思っていたわ」
「理由をお聞きしてもいいですか?」
守護者の回答を聞き、さらに質問を重ねる。
すると、彼女は腕を組んで困ったような表情になってしまった。
「うーん……理由はいくつかあるけど、一番大きいのは試練を受け続けているからかしら」
「試練ですか?」
「そうよ。試練を司る守護者として、私はあなたのことを認識していたのよ」
守護者はそこまで言うと、こちらに向かって優しくほほ笑んだ。
「だから、同じように試練を受けていた澄と、あなたを間違えたの」
守護者からの説明を聞く限りだと、ハンターの元祖でもある澄も、俺と同じように試練を受けていたことになる。
(それだから澄は俺へ干渉してきたのか?)
記憶に残っている限り、澄が干渉してきたのは、俺がじいちゃんから追放された時。
そして、俺が試練の書を読み終わった後にも現れた。
澄について考えていたら、じいちゃんの会話の中で疑問に持ったことを思い出す。
「そういえば、澄の死因ってなんだったんですか? それに、どうして俺へ試練の書を渡せたんでしょうか?」
「わからないわ。私も探していたんだけど……」
守護者は悲しそうに目を細めており、その姿を見ると本当に今までずっと澄のことを探していたのだということを感じ取れた。
守護者が体の後ろへ手をまわしてから話し始める。
「澄は私のパートナーとして長い時間を過ごしてきた。でも、ある日を境に突然、姿を消してしまったわ」
「それはいつ頃なんですか?」
守護者は寂しげな表情で首を左右に振り、わからないと伝えてくる。
「ごめんなさい。私には時間の感覚がないの……ただ、最後に私へこう言ってくれたの」
守護者が右手を口元に当てて、その時の記憶を思い出しながらゆっくりと言葉を続けた。
「『必ずお前を必要とする時が来る。その時まで待っていてくれ』と」
「待っていてくれ……ですか」
守護者はこくりと静かにうなずき、話を続ける。
「私はその言葉を信じて待っていた。あの方が残した言葉なら必ず意味があると思ったから」
守護者はそこで一度言葉を区切り、目を閉じる。
その様子を見た俺は、守護者が心の底から澄を待っていたことが分かった。
「……だけど、どれだけ待っても、澄が現れず……あなたが現れた」
守護者が目を開くとそこには強い意志があり、俺は思わず息を飲んでしまう。
「あなたは澄ではないかもしれない。それでも彼が残してくれた言葉があなたを私を繋げたわ」
守護者は俺の方を向いて優しい笑顔を浮かべる。
その瞳からは涙が流れていて、頬を伝っていた。
(この人が澄を思っていた時間はどれほどのものなのか……)
俺には想像できないほど長い間待ち続けた守護者の姿は、とても美しいものに見えた。
俺は守護者に近づき、ハンカチを渡すと彼女はお礼を言い、そっと涙を拭く。
「ありがとう。もう大丈夫」
守護者は俺の目を見ながらほほ笑むと、すぐに元の凛々しい顔つきに戻る。
「あなたは試練を乗り越えてここまで来た……これが最後の青き草原の試練よ」
守護者は真剣な顔で俺を見つめると、左手を前へと突き出した。
その手の上には、青白く光っている小さな石が浮いている。
「これが試練の証。この石を壊せば試練クリアよ」
俺はその青い石を手に取ると、手のひらの上で転がすように観察する。
(透き通った綺麗な色をしている。まるでサファイアみたいだ)
俺は青色の石を眺めていると、守護者の声が聞こえてそちらへ顔を向けた。
「さぁ、それを握ってちょうだい」
「わかりました……んっ!? あれ?」
俺は言われた通りにしようと拳を握った瞬間、自分の体に変化が起きたことに気が付く。
急に力が入らなくなり、膝から体が崩れ、持っていた石を落としてしまった。
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