神の使者⑧~澄人の要求~

澄人がクサナギさんへ活動の対価を要求しております。

お楽しみいただければ幸いです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 しかし、ヨルゼンさんは困った表情をしたまま固まってしまっている。


「あの……ヨルゼンさん?」


「はい……あの……その……」


 ヨルゼンさんが何かを言いたそうにしているのだが、うまく言葉が出てこないようだ。


 俺はヨルゼンさんの言葉を待ちながら、窓の外へ視線を投げる。


「神の使者さまをお待たせするのは申し訳ないのですが……すぐには難しいと思います」


「どうしてですか?」


「あの神器は教会の秘蔵品で、貸し出すというのが難しく……あの……」


 ヨルゼンさんが言いづらそうにしながら、ちらっとクサナギさんを見る。


 すると、クサナギさんが重苦しい雰囲気をまといながら説明を始めた。


「神器は教会で厳正なる審査を行い、神に仕える者へ託しているので、急に貸し出すというのは――」


「そうですか。あと、貸し出しではなく譲渡です」


 俺に関係のない話をされてしまい、話の途中で思わず訂正してしまった。


 話を遮られたクサナギさんの目が鋭く光り、ヨルゼンさんが俺のことをじっと見つめてくる。


「神器の譲渡など、前例がないのだ。そう簡単に認められるものではない」


「ですが、クサナギ様。私はこの方の願いを聞き届けたいと思うのですが……」


「それはわかっている。だがな……」


 ヨルゼンさんとクサナギさんが小声で話し合っているのを見て、俺は腕を組んで考え込む。


(どうしようかな……何も貰わずに動くっていうのもなんだか……)


 俺の願いを聞くと言ってくれたが、ヨルゼンさんが言うにはすぐには叶わないことらしい。


「申し上げます!! どうして誰も動かないのでしょうか!!」


 ヨルゼンさんとクサナギさんが相談を続けている中、リリアンさんが我慢できなくなったのか声を張り上げた。


 その声に驚愕した、ヨルゼンさんとクサナギさんがリリアンさんへ視線を向ける。


「このモンスターは異常です! 今すぐ対処をしなければ首都が陥落してしまいます!! どうか賢明なご判断を!!」


 リリアンさんが涙目になりながら訴えるのを聞いて、俺はため息をつく。


「1時間上げましょう。その間に相談を済ませてください」


「え?」


 俺の言葉を聞いた3人がぽかんとした表情になる。


「窓の外を見ていてください」


 座ったまま、感知しているすべてのモンスターを雷で動けなくした。


 一度詳しく体内を調べているフローズンフロッグとデスハウンドなら、微弱な雷で事が足りる。


「フローズンフロッグが……墜ちている……」


「首都へ集まってきたデスハウンドも動きを止めました」


「そんなことが……」


 3人は窓から見える光景を信じられないといった様子で眺めていた。


 特にクサナギさんとヨルゼンさんは口を開けて唖然としてしまっていている。


「というわけなので、後59分以内に八咫鏡を俺へ渡すか、それとも、自分たちでなんとかするか選んでいただけますか?」


「え……えぇ……そうですね……」


 なんとか口を開いたヨルゼンさんが額に手を当ててうつむく。


「では……ヨルゼン、臨時の会議を開く。リリアン、全評議委員へ会議室へ集まるように連絡をしてくれ」


「はっ!! 畏まりました!」


 リリアンさんはクサナギさんの指示を受けると、すぐに部屋を出ていった。


 俺はそれを見送ると、目の前で難しい顔をして立っている二人へ視線を移す。


「私たちも会議のため退出させていただきます」


「失礼いたします」


 クサナギさんとヨルゼンさんが俺に一礼をして、部屋から出て行った。


 扉が完全に閉まるのを見送ってから、俺はイスの背もたれに体重をかける。


「はぁ……疲れる……」


 2人に聞こえないように小さな声でつぶやき、大きく深呼吸をした。


 アイテムボックスを開き、物凄い勢いで減っていく魔力を回復するために回復薬を大量に使用する。


 1時間時間を与えると言ったものの、これほどの量のモンスターの動きを止め続けるのは初めての経験だ。


(でもまぁ、何とかなるか……ん?)


 なぜか首都の城門前に武装した人たちが集結しつつある。


 集まっている人たちが一斉に外に出て、地面に倒れているモンスターを囲っている。


(倒すことにしたのか? まあ、やるならどうぞ)


 攻撃を受けたモンスターが動き出し、次々と武装した人をなぎ倒す。


 感電を解かれたモンスターが増え、城壁の外にいる人達が次々と倒されていく。


(俺はもう手を貸しませんよー)


 誰の指示なのかは知らないが、モンスターが動かないうちに討伐しようとしたらしい。


 しかし、人が触れてモンスターが動いた瞬間、あっという間に蹴散らされてしまった。


 それでもあきらめず、集まった人たちは次々と動き出すモンスターに立ち向かう。


「使者さま!! 失礼します!!」


 城の外の気配を探っていたら、再びリリアンさんが肩を上下しながら部屋へ入ってきた。


 苦しい呼吸を抑えながら、息も絶え絶えに俺へと話しかけてくる。


「モンスターが動き出しました!! 対応を――」


「余計なことをしたのはそちらですよね? 自分たちで何とかしてください」



 懇願してくるリリアンさんを一瞥もせず、掃き捨てるように言う。


 俺の言葉を聞いたリリアンさんの表情が凍り付き、瞳からは光が消えてしまった。


「そ……そうですか……」


「神器を渡したくない人が俺の力は借りないことにしたんじゃないですか?」


「そんなこと……」


「あるからこうして、モンスターを討伐する人が集まったんでしょう?


 俺はため息交じりにイスへ座り直し、窓の外を見た。


 異界の住人からの依頼を無償でしたくない。


 なぜなら、この世界の住人は知らず知らずのうちに俺の世界へ一方的にモンスターを送りつけてきているのだ。


 事の発端が俺の祖先である草凪澄とはいえ、迷惑なのは変わりない。


(結界石で異界から俺の世界へモンスターを送られている現状、俺は……あれ?)


 外の様子を気にしながら、異界について考察をしていたら妙なことに気がついた。


(結界石で俺の世界に境界が生まれているのなら、どうやって草凪澄は強くなったんだ?)


 モンスターに勝つことで神格を上げて力をつけるという普通の方法は、境界があってこそ使える。


「ふー……語られていない草凪澄の意図があるな……」


 草凪澄が異界へどうして結界石や神器を渡したのか、今の俺ではわからない


 俺はイスに座ったまま腕を組み、息を吐きながら目を閉じて考え込む。 


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

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大変励みになります。


次の投稿は2月28日に行います。

次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

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