神の使者⑦~異界の空より~
首都を襲うためにフローズンフロッグが集団で攻めてきました。
お楽しみいただければ幸いです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「使者さま! クサナギさま! 失礼いたします!!」
突如ヨルゼンさんが血相を変えて部屋へ飛び込んでくると、俺たちの前にひざまずいた。
その勢いで机の上にあったお茶の入ったカップが床に落ち、中身がこぼれていく。
しかし、ヨルゼンさんはそんなことを気にすることなく、額が地面にくっついてしまいそうなほど深く頭を下げた。
「大量のフローズンフロッグがこちらへ向かっております!!」
「どうしてこんなに近くに来るまで気が付かなかったんだ!?」
「申し訳ありません!! 注意を怠り、モンスターの襲来に気付くのが遅れました!!」
ヨルゼンさんはそう言うと、地面に向かって何度も謝罪の言葉を口にする。
その言葉を聞いたクサナギさんが、再び窓の外へ顔を向けて眉間にしわを寄せた。
(さっきまであんなにいた人が全員いなくなっている……)
あれだけいた人がもう誰もおらず、大広場がぽっかりと穴が開いているように見える。
「ヨルゼン、民の避難はどうなっておる?」
「神官を総動員し、避難指示を出しました。今は神殿内で安全確保しております」
クサナギさんが厳しい表情で問いかけると、ヨルゼンさんが淡々と答える。
ヨルゼンさんが報告に来た時点で、既に外にいた人たちの避難は完了しているようだ。
「うむ。それならばよい……あとは、あのモンスターをどうするか……だな」
「はい……うぐっ!?」
返事をしたヨルゼンさんが胸を押えながら苦痛で顔を歪めて膝をついた。
俺はヨルゼンさんの元へ駆け寄り、背中をさする。
ヨルゼンさんの体力と魔力がまた減っており、神器を使用したのだと思われる。
「大丈夫ですか? どこか痛みますか?」
「はぁはぁ……問題ございません。すぐにおさまります」
「無理をするな……そろそろ限界なのだろう……」
俺がヨルゼンさんへ声をかけると、クサナギさんは悲しそうに声をかける。
ヨルゼンさんが深呼吸をして、苦しさをこらえるように胸を押さえている。
「はい……ですが、この役目は私が果たさなければならないことなのです」
「だが、お前の体では……」
「いいえ、クサナギ様。私は最後までやり遂げます」
「……わかった。好きにするといい」
「ありがとうございます」
ヨルゼンさんの強い意志を感じたクサナギさんは、それ以上何も言わなかった。
俺はこんな状況でこんなことを口に出したくなかったが、このままでは危険だと思い、質問する。
「それで、世界の問題を解決したら、俺は何をいただけるんでしょうか?」
「ん?」
「……え?」
俺の質問に対して、クサナギさんとヨルゼンさんがそろって首を傾げた。
なぜこのタイミングでそんなことを言うのか理解できないといった顔をしている。
このままなし崩し的に活動するのはいやなので、報酬についてははっきりと決めておきたい。
「みなさん、俺へ世界を救ってほしいと言っているのですが、対価についての話がまったくありませんでしたよね?」
「それは……そうですが……」
「ですが?」
ヨルゼンさんが俺と目を合わせないようにしながら、ぼそりとつぶやく。
俺が追及しようとすると、横にいるクサナギさんがヨルゼンさんと目を合わせる。
「いえ、なんでもございません」
「そうですか? それならいいんですけど」
二人がそのまま黙ってしまったため、俺は窓から見えるモンスターの大軍を眺める。
空を飛ぶ大量のカエルたちは、ゆっくりと移動をしながらこちらへ向かってきていた。
(本当に何匹いるんだろう?)
今まで見たことがないほどの数のため、正確な数はわからない。
ただ、首都を埋め尽くすほどの多さであることは間違いないと思う。
「失礼します!! 火急の要件で参りました!!」
窓から扉へ入ってきた人に視線を移すと、血相を変えたリリアンさんだった。
クサナギさんがどうしたのかと聞く前に、リリアンさんは息も絶え絶えに口を開く。
「地上よりデスハウンドが大挙して押し寄せてきています!!」
「デスハウンドもだと!?」
クサナギさんが驚いたように声を上げると、リリアンさんがこくりと大きくうなずいた。
途方もない数のモンスターが移動しているのか、土ぼこりが上がっているのが見える。
「はい! すでに城壁に体当たりを繰り返しており! 後続も来ております!」
「ここにある赤い結界石を破壊するつもりか……」
「おそらく、その通りでしょう。そして、空からはフローズンフロッグが数を増やしながら向かっています!」
リリアンさんの報告にクサナギさんが頭を抱える。
隣にいたヨルゼンさんが顔を上げて、真剣な表情をこちらへ向けてきた。
「神の使者さま、何がお望みですか? できる限りご希望に添わせていただきます」
「なんでもいいんですか?」
「はい。私どもができることであれば、なんなりと」
俺の問いかけに対し、ヨルゼンさんがしっかりとした口調で返事をしてくる。
その様子から、本気で俺の要望を叶えようとしてくれているのが伝わってきた。
「それじゃあ、ヨルゼンさんの持っている八咫鏡をいただけますか?」
「……神器の……八咫鏡を……ですか?」
俺が要望を伝えると、ヨルゼンさんが目を丸くさせて聞き返してきた。
ヨルゼンさんの隣にいたクサナギさんも同じ表情をしている。
事情を知らないリリアンさんも床に膝をついたまま、呆然としていた。
「はい。今首都へ来ているモンスターを一掃するので、ヨルゼンさんの持っている神器を下さい」
俺は改めてヨルゼンさんに向かって希望を伝える。
ヨルゼンさんは困惑した表情のまま、返事をしてくれた。
「あの……申し訳ありませんが、私の神器は教会に借りている物なので……私の一存では……」
「そうなんですね。では、ここで待っているので、許可を貰ってきていただけますか?」
静かに椅子へ座り直し、俺はヨルゼンさんが神器を譲渡する許可を貰ってくるのを待つことにした。
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ご覧いただきありがとうございました。
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大変励みになります。
次の投稿は2月25日に行います。
次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
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