神の使者⑨~草凪澄について~
澄人が草凪澄について考えております。
お楽しみいただければ幸いです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あの……使者様?」
「ん? リリアンさん、まだいたんですね」
リリアンさんに呼びかけられて、ゆっくりと目を開ける。
話が終わったと思っており、リリアンさんがいたことを無視していた。
「申し訳ありません、どうか今一度お力をお借りすることはできませんか?」
リリアンさんが申し訳なさそうな顔をしながら、頭を下げてくる。
その様子に、俺は少しだけ考える。
「そうですね……神の使者がどうして結界石をこの世界へ渡したのか知っていますか?」
「はい……伝承ですが……知っています」
「それなら、その話をしてもらう対価として今動いているモンスターを止めます。それでもいいですか?」
「はい!! ありがとうございます!!」
「話の前に、外へいる人たちへ次触ったらもう知らないと伝達をお願いします」
「わかりました!!」
リリアンさんが満面の笑みを浮かべ、深く一礼をする。
そのまま部屋を出ていき、どこかへ行ってしまった。
リリアンさんが部屋を出る前に動いているモンスターの動きは止めてある。
「どんな話が聞けるのかな」
俺はイスの背もたれに寄りかかり、天井を見上げる。
自分の祖先が異界からモンスターを送り込む仕組みを作った理由を知りたい。
(草凪澄……あなたはどうして向こうの世界へゲートを出現させたんですか?)
俺が物思いにふけっていると、部屋の扉がノックされる。
返事をして入室を許可すると、リリアンさんが緊張した面持ちで入ってきた。
「失礼します。モンスターを静止していただき、ありがとうございます」
「いえ、こちらも聞きたかったことなので……座って下さい」
話が長くなると思い、俺はリリアンさんへ椅子に座るよう勧める。
リリアンさんはうなずくと、静かに腰を下ろした。
「では、まずは私の家系に伝わる伝承をお話しします」
リリアンさんは姿勢を正すと、語り始めた。
異世界の真実を知る。
それは俺がずっと知りたくて、今まで調べてもわからなかったことだ。
リリアンさんの話を聞きながら、俺は自然と前のめりになって耳を傾けた。
「神の使者さまは、いずれくる災害に備えるためだ。とおっしゃっていたようです」
「災害……ですか?」
俺が聞き返すとリリアンさんは頷き、話を続けた。
「結界石で生じた亀裂を処理することで、その災害を退ける人材を育成すると……」
「なるほど……ということは、結界石を積極的に使えと、言われたんですか?」
「はい。ですが……赤い結界石は数ヶ所同時に使わないようにとのことです」
「同時に使うな……ね。本当に今まで使ったことはありませんか?」
「それは……」
リリアンさんが表情を曇らせ、言葉を詰まらせる。
それもそのはずだ。
オーストラリアはレッドラインが6ヶ所同時に発生してあのようなことになった。
それ以外にも、レッドラインが世界で数ヶ所同時に発生することは珍しい話ではない。
(今では少なくなってきているけど、それは異界の生活が安定してきているからだろう)
異界にいる人たちの生活圏が安定していると、境界線が発生する頻度が少なくなる。
最近、境界が多く発生しているのは、今のようにモンスターが侵攻することが多くなってきたからだと考えるのが妥当だ。
「私が知っているだけでも、赤い結界石を同時に数ヵ所使ったことが何度かあります」
「でしょうね。まあ、それは置いておいて、具体的に災害とはなんなんですか?」
「それは……」
リリアンさんが言いづらそうに下を向いてしまった。
俺としては早く教えて欲しいところだが、急かすのも良くないだろう。
「すみません、わかりません」
「災害がなんなのかわからないんですか?」
「はい……」
リリアンさんがさらにうつむき、悲痛のこもった声を漏らす。
肝心なことがわからず、俺は眉をひそめた。
俺が黙って見つめていると、リリアンさんは辛そうな表情で言葉を続ける。
「ごめんなさい、使者さま。これ以上は……わかりません……」
リリアンさんが唇を噛みしめ、悔しさからなのか目に涙を溜めている。
俺はリリアンさんの様子を見て、追及をやめることにした。
「リリアンさん、話をしてくれてありがとうございます」
「い、いえ……」
俺が笑顔を向けると、リリアンさんはほっとしたような表情になり、頬を緩ませた。
リリアンさんが語ってくれた内容は、とても興味深いものだった。
(この対価としては申し分ないかな)
草凪澄が【災害】というものに備えるためにハンターを強くするための世界を作った。
草根高校もその一環で、草凪澄が作ったとされている学校だ。
(向こうに戻ったら確認することがたくさんあるな……けど……)
今回行った異界の調査で俺の両親に関する情報を一切手に入れられていない。
送り出してくれた聖奈に申し訳ないと思い、俺は拳を握ったまま、視線を落とした。
――コンコンッ。
「使者さま、クサナギです。失礼します」
俺が悩んでいると、部屋の扉がノックされ、クサナギさんの声が聞こえてくる。
「どうぞ」と返事をすると扉が開き、クサナギさんが部屋に入ってきた。
「会議が終わりましたので、ご報告をいたします」
「お願いします」
俺がイスに座り直すと、クサナギさんが俺の正面にあるイスに腰を下ろす。
一緒に出て行ったヨルゼンさんの姿が無く、俺は会議の結果をなんとなく予想できた。
「結論を申し上げますと……神器の譲渡はできません……」
(やっぱり、そうか……)
俺は肩を落とし、大きく息を吐く。
そんな俺を見たクサナギさんは、少しだけ気まずそうに口を開いた。
「神器以外なら必ず叶えます。それで――」
「結構です。神器がいただけないのなら、話はこれで終わりですね」
「えっ!?」
俺が話を遮ると、クサナギさんが驚いた顔で俺を見る。
そして、俺が怒っていると思ったのか、焦りながら弁解を始めた。
「ち、違います!! 誤解です!! もう少しお話を……」
「何にも誤解していませんよ? 神器以外に願いはないと言ったじゃないですか」
「それはそうですが……」
俺が聞き返すと、クサナギさんが言葉を詰まらせて目をそらした。
「本当にお力を貸していただけないのですか?」
ずっと黙っていたリリアンさんが、恐る恐るという感じで質問してくる。
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ご覧いただきありがとうございました。
もしよければ、感想、フォロー、評価、待ってますので、よろしくお願いいたします。
大変励みになります。
次の投稿は3月3日に行います。
次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
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