神の使者④~異世界の現状~
澄人がクサナギ像の前でリリアンさんに異世界の現状を聞いております。
お楽しみいただければ幸いです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
リリアンさんが話をしている最中、俺はずっと黙って聞いていた。
彼女は俺の様子をうかがいながらも、必死になってこの世界の現状を伝えてくる。
「ジョンさんも見たと思いますが、首都の周辺にまでモンスターの勢力が広まっております」
デスハウンドとフローズンフロッグと遭遇したことを思い出しているのか、リリアンさんが青い顔をしてうつむいた。
今にも倒れそうなほど弱々しい彼女を見て、俺は自然と手を伸ばしていた。
肩に手を置くと、リリアンさんが驚いたように目を大きく開き、こちらへ振り向いた。
彼女の瞳には涙が浮かんでいて、不安で押しつぶされそうになっていることがわかる。
「ジョンさん……いえ、神の使者さま……どうか、どうか世界を救ってください」
リリアンさんがすがるような声で俺の手を握りしめ、懇願してきた。
握った手が震えていることから、彼女がどれだけ追い詰められているのかが伝わってくる。
「お願いします……ジョンさんしかできないことなのです……」
リリアンさんが涙を流しながら、頭を深く下げた。
そんな彼女へ俺ができることは一つしかない。
俺はリリアンさんが握ってくれている手に力を込めてから、彼女に笑いかける。
「あなたのお話はよく分かりました」
リリアンさんが泣きはらした顔を上げ、不思議そうに俺のことを見た。
俺の言葉を聞いたリリアンさんは、ゆっくりと頭を上げてくれた。
「俺にできることなら力をお貸しします」
「ありがとうございます!!」
リリアンさんが俺の返事を聞いて、嬉しそうに抱き着いてきた。
こんな状況なのに、なぜか少しだけ心が温かくなってしまう。
頼られていることが嬉しいと思う反面、異世界に対して俺が何ができるのかという不安が頭をよぎる。
(俺と祖先さまは違う。それに仲間もいない)
それでもこうして頼ってくれているリリアンさんのためにも、自分のできることをしようと思った。
両親のことなど、正直まだまだ調べたいことが残っていたが、それは異世界を救った後でも遅くはないだろう。
「まずはなにをすればいいですか?」
体を離してリリアンさんに質問すると、彼女は満面の笑みを浮かべた。
「ぜひ、クサナギさまにお会いください! 神の使者さまが来られたらすぐにお通しするように言われています!」
「わかりました、案内をお願いできますか?」
「もちろんです! こちらへどうぞ!」
リリアンさんが先導してこの部屋から出ようとしたとき、扉の外に人が集まってきていることを雷で察知した。
廊下からはたくさんの人の気配を感じ、みんな武器を持っているようだ。
俺たちの様子をうかがいに来たわけではないだろうけど、あまり良い雰囲気ではない。
「待って!」
「えっ?」
俺の呼びかけが遅く、扉を微妙に開いてしまったリリアンさんが驚いて立ち止まった。
次の瞬間、勢いよく部屋の中へと人が雪崩れ込んでくる。
その人たちが全員殺気を放ちながら俺とリリアンさんを囲う。
一人の男性が集団の中から出てきた。
「神官長、これはいったいどういうことですか!?」
「リリアン、落ち着きなさい。不用意に動いたら拘束する。ふむ……この少年か……」
リリアンさんが神官長と呼んだ男性は水色の長い髪を後ろで結び、鋭い目つきをしている。
神官長は青色を基調とした服に身を包み、腰には剣を携えていた。
身長が高くて、引き締まった体をしており、鍛え抜かれていることがよくわかる。
俺のことを上から下まで観察してから、リリアンさんへ視線を移した。
「リリアン、特級開拓者であるお前の軽率な行動が民を混乱させると考えなかったのか?」
「そ、それは……」
神官長が威圧しながらリリアンさんへ詰め寄ると、彼女は怯えるように一歩後ろに下がった。
(急にこいつ――リリアンさんっ!?)
リリアンさんは俺と目を合わせ、動かないようにと小さく首を横に振る。
出鼻をくじかれた俺はこの場から動けず、仕方なくその場で待機することにした。
リリアンさんの表情がどんどん暗くなっていき、目に涙がたまっていく。
「私だってわかっています……しかし、こうして神の使者様が現れたのです。世界を救っていただくために教会へお越しいただいたのです」
「…………ふむ」
リリアンさんが必死になって訴えるが、神官長がそれを聞いて眉間にしわを寄せた。
そして、顎に手を当て、俺のことを見ながら何かを考え始める。
その間にも他の人たちは俺のことを値踏みするような視線を送ってきた。
「リリアン、神の使者を騙る行為が死罪なのは知っているな?」
「はい、もちろんです」
「この少年が本当に神の使者だと思っているのか? こんな子供に世界を救うことができると?」
「彼はマハヨ集落でユニークモンスターを討伐しました。彼こそが神の使者です」
「なんだと!? どのユニークモンスターだ!?」
ユニークモンスターを倒したということをリリアンさんが口に出した途端、周囲の空気が変わった。
神官長やこの部屋にいる全員が俺に注目してくる。
こんな状況の中、リリアンさんは俺の手を取り、自信満々に胸を張る。
「ここにいらっしゃるジョンさんは、初代の神の使者さまが倒せなかった、大地を食らうモノを討伐しました」
「そうか」
リリアンさんの言葉を聞いた神官長が目を閉じ、しばらく沈黙した。
周りの人もざわめき始め、中には武器を放り投げてから膝をついて祈ってくる人までいる。
神官長は俺と向き合い、真剣なまなざしを向けてきた。
一瞬、神官長の瞳が金色の光を帯びる。
その金色の光が俺を見据えると、赤い画面が目の前に広がった。
【警告】
神器による強制情報開示が行なわれようとしています
秘匿機能は神器には効果がありません
対抗するのなら神気を解放してください
俺をじっと見つめてくる神官長という男性が俺に対して神器を使っている。
(身に覚えのある光だと思ったんだ……抵抗はしなくていいや)
神器による情報開示を受け入れ、神気を解放しないまましばらく待つ。
すると、俺のことを観察し終わった神官長が息を一息吐いた。
「クサナギスミト……これがあなたの本当の名前ですね?」
神官長の口から【クサナギ】という言葉が出ると、リリアンさんを含めた周りの人全員が膝をついた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ご覧いただきありがとうございました。
もしよければ、感想、フォロー、評価、待ってますので、よろしくお願いいたします。
大変励みになります。
次の投稿は2月16日に行います。
次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます