神の使者③~クサナギの教会~

リリアンさんに二人の石像について説明を受けています。

お楽しみいただければ幸いです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 急に名前が追加されたことに戸惑いながらも、リリアンさんの説明を聞く。


「この方々が私たちへ神器をもたらし、使用方法を教えてくれたとされています」


「ということは、今もどこかに神器があるんですか?」


「場所はお伝えできませんがあります。その神器で今の平穏が守られています」


「そうなんですか……」


「今は……ですけど」


 リリアンさんが最後にぼそりと呟いた言葉を聞き逃さなかった。


 しかし、聞き返したところで教えてくれないだろう。


「さあ、中に入りましょう」


 リリアンさんが振り返り、笑顔で手招きをしてくれる。


 彼女の笑顔を見ていると、それ以上のことは聞けなかった。


「失礼します」


 リリアンさんがドアを開けてくれたので、一言断ってから中へ入る。


 教会の中には多くの人がおり、人々が思い思いに祈りを捧げていた。


 中は外と同じように清潔感があり、天井には草凪家の家紋が描かれている。


 正面にある祭壇の上には大きなステンドグラスがはめ込まれ、日の光が差し込んできていた。


「きれいなところですね」


「ありがとうございます。神の使者さまを称えるために作ったものなんですよ……それに――」


「……ん?」


「では、奥にある神の使者さまへ挨拶へ行きましょう」


 リリアンさんが何か言ったような気がしたが、すぐに口をつぐんでしまったため、よく聞こえなかった。


 彼女は教会の奥へと歩いていき、受付のような場所で足を止める。


 リリアンさんが受付の女性と話をしていると、他の人たちが俺たちのところに集まってきた。


「リリアンさま! お帰りなさい!!」


 みんなリリアンさんのことを知っているようで、周りに来たたくさんの人が笑顔で出迎えてくれている。


 中には涙を流している人もいるくらいだ。


「ただいま。この方は私の連れだ、通らせてもらうぞ」


「どうぞ、神の使者さまも歓迎しております」


 リリアンさんが受付の人へ、通行の許可を取っていた。


 周りの人たちはリリアンさんが通るのに合わせて道をあけ、全員が尊敬の眼差しをこちらへ向けているように見えた。


「すごい人気だな……」


「私が特級開拓者なのをみんな知ってくれているようです」


「なるほど?」


 特級開拓者というのが異世界でどのような地位なのかいまいち掴みきれていない。


 ただ、この光景を見る限り、リリアンさんが特別な存在だということは理解できた。


 リリアンさんは周りの人と話をしてから、教会の奥へ進む。


 俺はその後ろについて行きながら、建物内を観察した。


(壁や床にまで装飾が施されているのか)


 廊下の壁にも草花の彫刻が施されており、天井からは花びらが散っているように見えるように照明が設置されている。


 窓枠の部分にも凝った細工がされており、ここを作った人のこだわりを感じることができた。


 しばらく歩くと、リリアンさんが一際豪華な装飾が施された大きな扉の前で立ち止まった。


「普段は公開されておりませんが、この中で神の使者であるクサナギさまを祀っております」


 そう言って、彼女が扉を押してゆっくりと開いていく。


 扉の先には広い空間が広がり、部屋の中央には剣を握った男性の石像が鎮座していた。


「これは……」


 あまりの迫力に思わず声が出てしまった。


 目の前にある像はどこか優しげな雰囲気を持っており、見たことがない形状の剣を掲げていた。


 俺の反応を見たリリアンさんが嬉しそうな顔をして微笑む。


「こちらは暗黒の時代から世界を救った神の使者、クサナギさまの像です」


 俺の横に立ったリリアンさんが説明を始めてくれる。


 しかし、話の途中で彼女の視線が徐々に下がっていることに気付いた。


「リリアンさん? どうかしましたか?」


 なぜか俺の顔をじっと見つめるリリアンさんへ声をかけると、ハッとした表情を浮かべた。


「いえ……その、すみません……神の使者さまが手にしているのは、【草薙の剣】と呼ばれる神器です」


「草薙の剣ですか?」


「はい。かつて、この地をはびこっていたモンスターを一掃したとされる神器になります」


 リリアンさんの説明が、俺の持つ草薙の剣と同じものを指しているとしか思えない。


(草凪澄も草薙の剣を持っていた? それがなんでミッションを通して俺の元へ?)


 これまで何度も俺の窮地を救い、道を切り開いてくれた草薙の剣。


 そんな神器がなぜ、俺の手の中にあるんだろう。


「どうされましたか? 難しい顔をされていますよ」


「あ、えっと……」


「ご気分でも悪いんですか!?」


「違います!! ちょっと考え事をしていて……」


 心配してくれたリリアンさんが、慌てるように寄り添ってきた。


 慌てて否定したせいで、逆に変な誤解を与えてしまいそうだ。


「草薙の剣も他の二つの神器と同じように、どこかで保管されているんですか?」


 とりあえず話題を変えるため、別の質問をしてみる。


 すると、リリアンさんが真剣な顔をしながら首を横に振った。


 彼女は右手を胸に当て、目を閉じながら口を開く。


「草薙の剣だけは天界にあると思います」


「天界?」


「神の使者さまたちが暮らす場所です」


「それは神の使者が草薙の剣を持ち帰ったということですか?」


 リリアンさんがうなずき、俺のことを見つめてくる。


「神の使者さまはこの世界を去る際におっしゃられた言葉があります」


 リリアンさんが石像を見上げて両手を合わせ、祈りの姿勢を取る。


 そして、一度深呼吸をしてから、今までにないくらいに真剣なまなざしでこちらを見てきた。


 まるで、これから話すことが重要なことだと言わんばかりに……。


 俺は息を飲み、リリアンさんの次の言葉を待った。


「世界に破滅の音が聞こえた時、再び自分と同じ存在がこの世界へ来る……と」


「……」


「すでにいくつかの赤い結界石が砕かれ、人類に破滅の音が聞こえております」


 リリアンさんが祈る姿勢のまま、悲痛な面持ちで話を続けていく。


 なぜかその一言一言が俺の心をざわつかせる。


 リリアンさんが話をしている最中、俺はずっと黙って聞いていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

もしよければ、感想、フォロー、評価、待ってますので、よろしくお願いいたします。

大変励みになります。


次の投稿は2月13日に行います。

次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

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