神の使者⑤~神官長の正体~

澄人がすがるような目を向けられております。

お楽しみいただければ幸いです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 先ほどまでの態度とは打って変わり、集団全員が俺へすがるような眼差しを向けてきている。


 リリアンさんが神官長と呼んだ男性の一言でこうなったため、この人の正体を知りたい。


「あなたは一体何者なんですか?」


「私はクサナギ教の大司教、ヨルゼンです。あなたのことは先祖代々語り継がれております。まさか、このような形で会えるなんて……」


 神官長が胸に手を置き、頭を下げながら自己紹介をしてくれた。


 その隣ではリリアンさんが肩を震わせながら、涙を流している。


「神官長がお認めになったぞ!」


「本当にリリアンさまが神の使者さまを連れてきてくれたんだ!」


「これで世界が救われるぞ!」


 神官長が俺のことを神の使者として認めたことで、室内が一気に騒がしくなってきた。


 リリアンさんのことを信じてくれたのは嬉しいけど、このままだと話が進まない。


「神の使者さまの御前です、静まりなさい」


 神官長が騒いでいる人たちを一瞥しながら声を張ると、すぐに静かになった。


「お騒がせして申し訳ありませんでした」


「そんなことよりも、この世界が滅ぶと聞きました。詳しく話を聞かせていただけますか?」


「もちろんです」


 神官長が謝罪をして、俺たちは石像が飾ってある部屋から出て行く。


「グッ!?」


 しばらく廊下を歩いていると急にヨルゼンさんがよろけて膝を床に着いた。


 そんなヨルゼンさんへ俺の後ろを歩いていたリリアンさんが心配そうに駆け寄る。


「お父さん!?」


「リリアン、外では……神官長と呼ぶように言っているだろう……」


 リリアンさんに肩を支えられているヨルゼンさんは苦しそうな表情を浮かべており、額には汗が浮かんでいる。


 神官長がリリアンさんのお父さんという事実を頭の片隅に置きつつ、二人の会話を聞き入った。


「す、すみません……でも、どうして……」


「心配するな……少し休めば治まる……いつもの副作用だ」


「わかりました……」


 リリアンさんはヨルゼンさんに優しく腕を振り払われ、悲しげな顔をして一歩下がった。


 よろよろと立ち上がろうとするヨルゼンさんへ手を貸そうとしたが、俺が触れる前に自力で立ち上がる。


「神の使者さまの前で醜態をお見せしてしまいました。申し訳ございません」


「いえ、お気になさらず……いつもの事なんですか?」


 ヨルゼンさんが俺に深々と頭を下げるが、今も苦しそうな表情をしているため何が起こったのか気になる。


 俺の質問にヨルゼンさんはうなずいてから、申し訳なさそうに口を開いた。


「はい、私は神官長として神器である【八咫やたのかがみ】を受け継いでおりますが……発動の代償として強い疲労感に襲われるのです」


「八咫鏡を……あなたが? 見せていただくことは可能ですか?」


 現実世界には夏さんが持っている欠片しか残っていない八咫鏡が、異世界には使える状態で存在しているようだ。


 そのことを知った俺は思わず興奮し、ヨルゼンさんへ見せてほしいと頼んでしまった。


「使者さまの頼みとあれば断れませんね」


 俺のお願いを聞き入れてくれて、ヨルゼンさんが内ポケットから手のひらほどの木箱を取り出す。


 その木箱を開けると、中には丸くて黒い金属の板が入っている。


 表面には複雑な模様が刻まれており、中心には白い玉が埋め込まれていた。


「これが私の命より大切なもの、【八咫鏡】です」


 ヨルゼンさんが俺の手にそっと八咫鏡乗せると、ずっしりと重い感覚が伝わってくる。


 俺は手に持った八咫鏡が剣や勾玉を持った時とは違う印象を受けた。


(こいつから何も伝わってこない……どういうことだ?)


 ヨルゼンさんが不安そうにこちらをうかがっていることから、この八咫鏡が偽物という可能性はない。


 ただ、他の二つを持った時に感じる、特別な気配というものが八咫鏡からは感じてこなかった。


「あの……使者さま、どうされたのですか?」


 俺が八咫鏡を握ったまま、無言で見つめていたため、ヨルゼンさんが困惑している。


 リリアンさんも俺のことを心配そうに見上げてきており、2人の視線に気づいた。


「あっ、すみません。見せていただきありがとうございました、お返しします」


 返す直前、八咫鏡へ鑑定を使用する。


【八咫鏡(休止中) 詳細】

スキル1:【神眼】

スキル2:【天地を見通す眼】

スキル3:【神託】使用不可

スキル4:未開放

※休止中のため、神気を溜めることができません

 休止中にスキルを使用すると体力・魔力の上限値を消費します


(休止中? 上限値を消費って……まさか!?)


 ヨルゼンさんは大事そうに八咫鏡を木箱へ戻し、胸元へ抱え込んだ。


「俺の名前が分かったのも神器の力なんですよね?」


「そうです。ですが、使者さまは他の人を見るよりも力を使いましたよ」


 ヨルゼンさんがハハハッと笑うものの、疲れを隠しきれずに息を整えた。


 そんなヨルゼンさんの能力値を鑑定で見た俺は、あまりの酷さに絶句してしまった。


【名 前】 ヨルゼン

【年 齢】 42

【神 格】 2/2

【体 力】 400

【魔 力】 320


(神格が2なのに体力と魔力が極端に低い……これが上限値を消費した状態なのか……)


 通常は千ほどあるはずの体力の上限が400にまで減っており、魔力にいたっては320しかない。


「神器を使える人は他にいないんですか? このままではあなたが死んでしまいますよね?」


「……お見通しですか。さすがは使者さまです」


 俺の言葉にヨルゼンさんは苦笑いをしながら、俺と目を合わせる。


「現在私以外に八咫鏡を使えるものはおりません……私が死ねば次の者が使えるようになるのです」


「そうですか……」


 ヨルゼンさんの言葉を黙って聞いていたら、リリアンさんが俺の袖を軽く引っ張ってきた。


「あの……使者さま、父を助ける方法は無いんでしょうか?」


 今にも泣き出しそうな顔でリリアンさんがヨルゼンさんを救えないか聞いてくる。


 俺の持っている二つの神器が休止状態になったことがないため、対応の方法がわからない。


 不確定な情報で混乱させるのもどうかと思い、リリアンさんへ何も伝えられなかった。


「すみません、今の俺たちではどうすることもできないと思います」


「そんな……」


「リリアン、使者さまに失礼だぞ」


 リリアンさんは肩を落とし、ヨルゼンさんは娘を叱りつけている。


「使者さま……ご高察いただきありがとうございます」


 リリアンさんは俺がなにも答えを出していないにもかかわらず、感謝を伝えるように頭を下げてきた。


 親子関係が悪いとは思わないが、ヨルゼンさんがリリアンさんに対して距離を置いているような気がする。


 命がかかっているにもかかわらず、リリアンさんがこんなにも簡単に引き下がることに違和感を覚えた。


 俺が考え事をしていたら、ヨルゼンさんが申し訳なさそうな顔をして口を開く。


「さあ、使者さま。行きましょうか」


 リリアンさんから逃げるようにして、ヨルゼンさんが先に歩き出した。


 しばらく廊下を歩いていると、ヨルゼンさんが立ち止まって俺のほうへ振り返った。


 その表情は先ほどまでの弱々しいものではなく、何か覚悟を決めたようなものになっている。


 俺はその表情を見て、思わず背筋を伸ばしてしまった。


 ヨルゼンさんは俺の目をまっすぐに見ながら、ゆっくりと口を開いた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

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大変励みになります。


次の投稿は2月19日に行います。

次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

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