神の使者①~首都周辺の異変~
首都クサナギへ向かう途中に異変が起きます。
お楽しみいただければ幸いです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
リリアンさんの先導で、俺は村を離れてから初めて森を抜けて草原地帯に入る。
この辺りになると、背の高い木はほとんどなく、視界が良好だ。
ただ、草原にもかかわらず人がおらず、道らしき跡もない。
そんな疑問を抱いていると、リリアンさんが警戒しながら口を開く。
「一番近くの街からこの道を使うと首都に近いんですが、出現するモンスターが多いのであまり使われていないんです」
「そうなんですね。だから……きたな!」
俺がリリアンさんに意識を向けた途端、草むらに身を隠していたモンスターがものすごい速度でこちらへ走ってくる。
黒い狩猟犬のような見た目をしており、鋭い牙を剥き出しにしてこちらに飛びかかってきた。
「デスハウンドです! 気を付けて下さい!!」
「試してみるか」
飛びかかってくるモンスターに対して、反射的に【捕食・極】を付与した魔力を纏った拳を突き出す。
拳が当たる前にモンスターは空中で霧となって消えていく。
(相手の抵抗力関係なしに捕食してしまう極……強力すぎる……)
捕食・極を使えばどんなものでも俺の体力や魔力に変換できてしまう。
しかも、デスハウンドは持っていなかったが、モンスターが持っているスキルも獲得できるようだ。
強力すぎるこの捕食に代償は無く、いくらでもどんなタイミングでも使える。
「さすがです! もうデスハウンドを倒してしまったんですね! 流石神の……すいません……」
デスハウンドを一瞬で倒したことで興奮したリリアンさんが話しかけてきたが、途中で口をつぐんでしまった。
神の使者であると言おうとしたらしい。
他にもデスハウンドの気配があるため、雷に捕食を付与して丸飲みのように包み込んだ。
「……え? モンスターがいなく……なった?」
リリアンさんもデスハウンドの気配を察知していたのか、急に気配がなくなったことに絶句している。
何も言わずにリリアンさんが案内してくれるのを待っていると、今度は空から何かが落ちてきた。
「リリアンさん上から何かが落ちてきています!」
「くっ!?」
上空から落下して来る何かを避けるためにリリアンさんへ注意をうながす。
寸前のところで落ちてきた物体をかわした俺たちは、落下してきたものを注視した。
「氷?」
「まさか!?」
地面に衝突したのは氷の塊で、大きな影が近づいてきている。
氷の塊を確認したリリアンさんが上を向くので、俺も同じように顔を上げた。
(あれは……カエル……か?)
体長2メートルくらいある巨大なカエルで、背中には大きな翼があり、くちばしのようなものがついている。
しかし、全身が緑色ではなく、青色に染まっており、口から吐き出す息が凍っていた。
「まさか……フローズンフロッグ!? なんでこんなところにいるのよ!!」
「あいつの正体を知っているのなら、教えてください」
「あいつはフローズンフロッグと言って……」
リリアンさんが説明を始めようとした時、青色の巨大なカエルがいくつもの氷柱を吐き出してきた。
その攻撃を避けると、俺たちがいた場所には大きな氷柱が地面まで深く突き刺さっている。
「このように、空にいるフローズンフロッグの攻撃は広範囲に及びます!! なので、地上戦に持ち込まないといけないんですけど……」
リリアンさんの言う通り、空を飛ぶフローズンフロッグは何度も何度も大量の氷柱を口から発射してくる。
地上戦に持ち込みたいと言うリリアンさんは俺の雷による遠距離攻撃を期待しているらしい。
こんなところで足止めを喰らうわけにもいかないため、俺は右手へ魔力を込めた。
「それじゃあ、行きます」
「お願いします! って、えぇ!?」
魔力を込めた右手を勢いよく振り上げると、周囲から雷がフローズンフロッグに向かって立ち昇る。
雷を受けたフローズンフロッグは悲鳴を上げながら墜落してきて、俺の真正面へ落ちてきた。
攻撃の様子を見たリリアンさんは驚きの声を上げ、しりもちをついてしまう。
地面へ落ちてきたフローズンフロッグは微動だにしない。
「終わったんですかね?」
俺の言葉に反応せず、口を開けて呆けているリリアンさんに近寄ろうとしたら、フローズンフロッグから冷気が漂ってくる。
いつの間にかフローズンフロッグの周りの地面が凍結しており、徐々に範囲を広げていた。
「フローズンフロッグは倒して終わりというモンスターではないんです」
立ち上がってリリアンさんが深刻そうな表情をしながら口を開く。
「こいつは自分を犠牲にして、仲間がこの地域で生活できるように周囲の環境を変えるんです」
「環境を? 他のフローズンフロッグはいないみたいですが……」
「……倒されたフローズンフロッグは仲間を呼び寄せる習性があるんです」
「それでどんどん侵略してくるんですね」
「はい……もう首都がすぐそこなのに……なんでこいつがこんなところまで……」
リリアンさんは歯噛みしながら悔しそうにつぶやく。
彼女の話によると、フローズンフロッグは首都に近いこの地域へきたことはなかったという。
「こいつはどうするんですか? このまま置いておくのは危ないですよね?」
「……はい。普通は大量の燃料を用意して燃やすのですが……」
倒れたフローズンフロッグから発せられる冷気によって、周囲にある植物までもが凍り付き始めている。
リリアンさんは全身から冷気を放つフローズンフロッグを睨むように見つめて、自分の胸元で拳を握りしめていた。
「ジョンさん、なんとかできませんか?」
「わかりました……本当に他の人がいないところでよかった……さて」
フローズンフロッグが氷で攻撃をしてきたときから、俺はこいつを捕食したくて仕方がなかった。
どんなモンスターなのか聞いてからでも遅くないと思って観察をしていたが、こいつは確実に氷に関するスキルを持っている。
フローズンフロッグを捕食したらどんなスキルが手に入るのか、早く試したくてうずうずしていた。
(よし!)
近付くものを凍らせているようなので、近づくことなく、雷へ【捕食・極】を付与する。
フローズンフロッグを雷で包み込むと、雷が当たった部分から体が解けていき、やがて完全に消え去った。
【スキル獲得】
親和性:氷C
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ご覧いただきありがとうございました。
もしよければ、感想、フォロー、評価、待ってますので、よろしくお願いいたします。
大変励みになります。
次の投稿は2月7日に行います。
次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます