首都クサナギへ⑩~マハヨ集落からの離脱~
澄人とリリアンさんがマハヨ集落の住人から逃げようとしています。
お楽しみいただければ幸いです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
これ以上、面倒なことに巻き込まれるのが嫌だったので、強硬手段に出る。
「リリアンさん、手を上へ伸ばして!」
人がもみくちゃになって、リリアンさんがどこにいるのかわからない。
上に伸びた手も、リリアンさん以外の人の手が見える。
それでも、集会場で何度も見ていたリリアンさんの手をしっかりと握ることができた。
(ワープ)
心の中でワープと唱えると同時に、俺の視界が切り替わった。
移動先はマハヨ集落の中心にしたため、先ほどまでいた場所からそんなに離れてはいない。
「嘘……一瞬でこんなところに移動を……どうやって……」
ワープができることもリリアンさんには隠しておきたかったが、村人にも使ったので今更秘密にするのも無理がある。
リリアンさんが呆然としながらゆっくりと俺のほうへ振り向いてきた。
この反応を見る限り、ワープでの移動は異世界でも相当珍しいようだ。
俺はフードを被り直し、リリアンさんの手を引いて村から出るために歩き出す。
「あっ、あの、どこへ行かれるのですか!? 少しお話を――」
いつまでもここにいたらまた村人に囲まれそうなので、少々強引にリリアンさんの手を引く。
「まずは村を出ます。落ち着いたところでお話をしましょう」
「わ……わかりました……あの……その……あなた、ジョンさん……ですよね?」
素直に俺の後ろをついてきているリリアンさんは、不安そうな声で俺のことを見上げながら話しかけてきた。
「そうですよ。急にどうしたんですか?」
「えっと……それは……」
黙ったリリアンさんはまた瞳を潤ませて俯いてしまった。
何を言おうとしているのか分からないが、今は立ち止まるわけにはいかない。
走るのに近い速度で歩き続けていると、意を決したような表情で顔を上げた。
「ジョンさんは神の使者だったんですか?」
「違います」
リリアンさんの質問にはいそうですと答えるわけにはいかない。
アリテアスからの道中で、神の使者を騙った者が死罪ということをリリアンさんが言っていたため、余計に言えないのだ。
しかし、俺が否定しても、リリアンさんはまだ何か聞きたそうにしている。
「大地を喰らう暴君を倒せるのは神の使者以外に考えられません」
リリアンさんは立ち止まり、俺の服をつまみながら震えるような小さな声を出していた。
理由はわからないが、この異世界は今、神の使者を待ち望んでいるという。
おいそれと俺が神の使者と同じところから来ましたなどと話すことができないため、この場での返答に困ってしまう。
「……俺はなんとも答えられません。それに、あまり詮索しないでください」
俺が突き放すように返事をすると、リリアンさんは悲しそうな目をして固まっていた。
しばらく見つめ合ったまま無言の時間が続く。
俺は首都までの道が分からないので進めず、リリアンさんは俺の話を聞きたいので立ち止まっている。
結局、二人とも動けないまま、数十分が過ぎようとしていた。
その間にもリリアンさんは泣きそうな顔で俺の袖を離してくれない。
(この人はどうしてこんなにも神の使者を求めているんだ?)
今のリリアンさんの表情からは恐怖心や焦りのようなものが伝わってくる。
「……俺のことを神の使者ということにしたい気持ちは分かります」
「…………」
「だけど、俺は自分が神の使者であるということを否定します」
リリアンさんは俺の袖をつかんでいた手を下ろし、俺の言葉に小さくうなずくだけだった。
その様子が突き放された子供のように感じられ、いたたまれない。
小さくため息をつき、リリアンさんへ笑いかける。
「リリアンさんにだけ伝えますが……俺はマハヨ集落出身ではありません」
「それって……」
「ぼろが出そうなので、これ以上俺の素性については聞かないでくれますか?」
リリアンさんは俺の言っていることを理解してくれたのか、目を大きく開けて俺を見つめている。
「はい、約束します。絶対に言いません」
「ありがとうございます。それじゃあ、そろそろ行きましょうか」
リリアンさんの了承を得て、俺はようやく前に足を踏み出した。
これでリリアンさんも変なことを聞いてこないだろうと思い、安心して歩くことができる。
「あの、ジョンさん……これからどうされるのですか?」
村を出てからしばらくして、リリアンさんが遠慮がちに質問をしてきた。
俺が先行して歩いてしまって、リリアンさんを不安がらせてしまったようだった。
振り向くと、リリアンさんは申し訳なさそうにして、顔を伏せてしまう。
俺は立ち止まり、リリアンさんが落ち着くまで待とうとした。
しかし、俺が立ち止まったことでリリアンさんも立ち止まってしまい、また顔を上げて俺のことを見てきてくれる。
目が合うとすぐに視線をそらしてしまうが、俺の回答を待っているようだ。
「首都へ行きたいのですが、また案内を頼めますか?」
「はい! 任せてください!」
リリアンさん嬉しそうにして、俺の隣へ小走りで近づいてくる。
さっきまでのこちらをうかがうような雰囲気はなく、いつも通りの明るい表情に戻ってくれたことに安堵した。
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ご覧いただきありがとうございました。
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次の投稿は2月4日に行います。
次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
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