首都クサナギへ⑧~異界ミッションのために~

異界ミッションのために澄人が村の様子を伺いに行きます。

お楽しみいただければ幸いです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 雷の翼を広げ、上空へ飛び上がる。

 

 大地を喰らう暴君による被害を把握するべく、村のある場所をマップで確認しながら進む。


 侵攻方向に煌々とした明かりが見えるため、マップを閉じて光を目指して飛ぶ。


 マップを閉じようとしたとき、村の名前が目に入り、チッと舌打ちをしてしまった。


「あの村がイアンさんの出身地だったのか……これは試されたな……」


 リリアンさんは何も言わずに俺を【マハヨ集落】という村へ連れてきていた。


 俺とイアンさんはこの村出身ということになっているため、リリアンさんがここに泊まった理由がなんとなくわかる。


 村に入った時の反応を振り返り、俺は色々何がどこにあるのか聞いてしまったような気がする。


(明らかに怪しいよな……それに……)


 ただ、それに加えて、大地を喰らう暴君と戦っている時に、雷やグラウンド・ゼロを使ったため、どのような言い訳をすればよいのか悩む必要がある。


 大地を喰らう暴君は、神の使者でも倒せなかったモンスターなので、言い訳は間違えられない。


 この世界へ積極的に関わるつもりはないので、目立つことは避けようと思っていた。


 しかし、登録して数週間でB級開拓者になったことを考えれば今さらという感じもある。


「神の使者にだけは思われたくない。どう考えても崇められる」


 ぼそっと本音が口から漏れたとき、マハヨ集落に火の手が回っているのが見えてきた。


 光を灯していたのではなく、火の手が上がったことで光源となっていたようだ。


 俺は急いで地上に降り立ち、村の広場へ向かうことにした。


 そこには数十人の人が倒れており、血を流しながら苦しんでいる姿も見える。


「今返事ができる人はいますか!!??」


 俺は雷で察知している気配へ神経を傾けながら大声で呼びかけた。


 しかし、俺の声を聞いてくれた人はおらず、苦しむばかりで返事をしてくれない。


(返事はできないけどこちらをうかがっている人が数名……あとは……全く動かないな)


 好都合だと思いつつ、フードを深く被り直し、顔を見られないように注意を払う。


「神の祝福」


 血を流して苦しんでいる人たちへ神の祝福による白銀の光が降り注ぐ。


 すると、先ほどまで呼吸困難に陥っていた人たちは穏やかな表情になり、静かに眠り始めた。


「おい! お前は誰だ! ここで何をしている!!」


 村人の治療をしていると、大柄の男が現れ、俺の胸倉をつかもうとしてくる。


 男性は額から汗をかきながら鋭い視線で睨んできていた。


 その男性の腕を避けつつ、俺は冷静に答える。


「あなたは? この騒動を知らないんですか?」


「質問に答えろ!」


「ただの旅人です。それよりも、人を運んでくれませんか?」


 俺の問いに男性が怒鳴ってきたので、あえて無視をすることにした。


 そして、この場に倒れている人々を見渡しながら男性へ救助を求める。


「何を白々しいことを言っている!! この状況を見てはいそうですかと言えるわけがないだろう!! ふざけるのもいい加減にしろ!!!」


 俺の言葉を聞いた男性の態度が急変し、今度は殴りかかってきた。


 その拳を避けると、男は怒りの形相で目に涙を溜めながら俺のことを見てくる。


「なぜこんなことをした!! 俺の村に何の恨みがある!!」


「……ハァ……」


 俺は男の問いかけに答えず、黙ったまま男の顔を見つめた。


 すると、俺が無言を貫いていることに腹を立てた男がもう一度殴ろうとしてきたため、雷で失神させることにした。


「ウガァ!?」


 微弱な電気を男性の体へ流し、意識を刈り取る。


 そのまま地面に倒れる前に抱き留め、他の村人と同じように地面へ寝かせた。


「さて、それじゃあ次は火……の前に……ワープ」


 村人たちが起きてしまう前に、リリアンさんへ向けて村人を移動させる。


 リリアンさんには逃げ切った村人の対応をしてもらっているため、ワープさせても問題ないだろう。


「ひ、ひぃ……やめてくれ……消さないでくれ……まだ子供がいるんだ……」


 手当たり次第にワープをかけていたら、怯えた声が聞こえてきた。


 そちらを見ると、20代後半くらいの男性が土下座をしながら命乞いをしている。


 俺はその男性へ近づき、問答無用で強制的にワープを行なった。


 ワープで消されていると勘違いしている人が多く、逃げ出す人もいれば、その場で失禁してしまう人もいる。


「うぅ……怖いよぉ……お母さん助けてぇ……」


「大丈夫だからね。私が一緒にいるから。ほら、お父さんが迎えに来てくれたよ。もう怖くないからね」


 ワープをさせている最中、泣きわめく子供の手を握り、優しく語り掛ける女性がいた。


 その女性の横顔は悲痛なもので、俺がワープを消すたびに唇を噛みしめている。


 人を助けているはずなのに妙な気持ちになりつつ、モンスターに襲われた人たちをすべてワープし終えた。


「ようやく建物を直せる。火はどうしようかな……」


 火は更に燃え広がり、建物が焼け落ちる音がいたるところから聞こえてきている。


「フィノ、火を飲み込んでくれ」


『はーい』


 火の精霊であるフィノに燃え広がる火の処理を任せ、俺は建物の修復に取り掛かる。


 基本的に建物は木のようなものが材料としているため、木造建築が主流のようだ。


 そのためなのか、火の手は村中の建物にまわっており、焼けていない建物がない。


 このまま暴君を倒してしまうと、クエストの達成状況で非常に悪い評価になってしまうのは目に見えていた。


「……手持ちの金属と周辺の木々を使って全部立て直すか。メーヌちょっといいか?」


『なぁに澄人?』


「これを使って建物を建て直せるかな?」


 アイテムボックスから俺が使わなそうな金属を根こそぎ出し、メーヌへ提示した。


 俺の質問を聞いたメーヌは村中に茶色の輝きを点々とさせる。


 長い沈黙のあと、幼い声が返ってきた。


『地下に埋まっている金属も合わせれば何とか行けそうだよ!!』


「そうか、なら直してくれ。デザインはできるだけそのままで」


『わかったー! 焼けちゃった子にどんな形だったのか聞いてみるね!』


 メーヌの声を聞いて安心した俺は、崩れ落ちてしまいそうになる柱を片手で支える。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

もしよければ、感想、フォロー、評価、待ってますので、よろしくお願いいたします。

大変励みになります。


次の投稿は1月29日に行います。

次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

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