首都クサナギへ⑦~大地を喰らう暴君討伐戦~

大地を喰らう暴君と澄人が戦っています。

お楽しみいただければ幸いです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 体を埋められた大地を喰らう暴君はさすがに様子見を止め、もがくように頭を振って地面から出ようとしている。


「グォオオオッッ!!」


「準備は終わりだ。さあ、始めようか」


 埋まっていた体が徐々に浮き上がり、怒り狂った大地を喰らう暴君が俺を見ながらなんども咆哮を上げた。


 それを聞きつつ、俺は雷の翼を展開してから宙へ浮かぶ。


「牽制や駆け引きなんて必要ない一撃で仕留めてやる」


「グルルルル……ガァァアアッ!!」


 この距離で聞こえているのか、俺の言葉に反応するように大地を喰らう暴君が牙を見せながら威嚇してくる。


 その牙を大地へ突き立ててむさぼるようにえぐり、本当に大地を食べた。


 大地を喰らう暴君が食べた地面には小型のワニが集まっていた。


 口元を真っ赤に染めた大地を喰らう暴君が俺のことを見る目は、獲物を狙う猛獣のようだ。


「なるほど、地面にいるモンスターを大地ごと喰らうから大地を喰らう暴君って名前なんだな……」


 あの小型のワニを食べることで大地を喰らう暴君は徐々に強くなると思われる。


 食べれば食べるほど強くなるモンスターを見た俺は、灰色の湖を生み出した【捕食するモノ】を連想した。


 こんなに大きくなってしまったのも、食べることで成長し続けてしまったことが原因だろう。


 ユニークモンスターである大地を喰らう暴君を倒すため、俺はアイテムボックスから杖を取り出した。


「お前を倒す!」


「ガァアアッ!!」


 まだ地面へ埋まっている大地を喰らう暴君ははいずり出ようと周りの大地を無造作に食べ始めた。


 大地を喰らう暴君が地面から抜け出す前に俺は自分のやるべきことをやる。


 見たところで対応のしようもない至高の一撃をお見舞いするべく、杖を暴君へ向け、全身の魔力を解放した。



 奪う者よ

 命を無差別に奪う者よ



 グラウンド・ゼロの詠唱を始めた俺の周りへ赤い魔法陣がいくつも出現する。


 魔力を無尽蔵に注ぎ込み、俺の出せる最大火力を大地を喰らう暴君へ叩き付けるつもりだ。


 魔法陣を見た大地を喰らう暴君は死にもの狂いで大地から出ようとしていた。


 そんな大地を喰らう暴君を終焉に導くべく、俺は口を動かす。



 その力を何に使う

 その力で何を成そうとする

 奪った者に未来はない



 俺を包んでいた魔法陣が赤い光を放ち、杖に一点集中した。


 暴れる大地を喰らう暴君へ狙いを定め、最後の節を唱える。



 今ここで終焉の光に包まれろ!!

 グラウンド・ゼロ!!!!


 

 杖に集まっていた光が打ち出され、光の筋を残しながら大地を喰らう暴君へ向かって一直線に飛んでいく。


 暴君の体はいまだに半分以上が地中にあるため、逃げることはできないだろう。


 その光景を見ていたリリアンさんは両手を組み、祈りのポーズを取りながら俺の魔法を見つめている。


 グラウンド・ゼロが大地を喰らう暴君の体に命中すると、大きな爆発音と共に辺り一帯へ爆風が吹き荒れる。


「グギャアアアアアアアアア!!!!」


 暴君は悲鳴を上げながら爆発に巻き込まれ、埋まっていた大地ごと消え去った。


 しかし、暴君の断末魔を聞いた俺はすぐに違和感を覚える。


「おかしい……手ごたえがない」


 グラウンド・ゼロを放った俺の手には暴君を倒したという感触がなかった。


 確かに暴君の体を吹き飛ばすことはできたが、それでも倒したという実感が湧かない。


 その違和感を後押しするように、【緊急ミッション】の終了通知が表示されずにいる。


「まだ終わりじゃないのか? どうなっているんだ?」


 狐に化かされたような気分になりながら地面に降り立つと、リリアンさんが俺の足元へ跪いてきた。


「リリアンさん?」


 俺が呟くと同時に、リリアンさんが俺の顔を見上げてきた。


「神の使者が討伐を断念したモンスターを……倒されたのですね……あなたこそ神の使者さま……」


 その表情は今まで見たことがないくらい嬉しそうな顔で涙を流している。


 彼女は俺の足元で泣き崩れ、顔を伏せて何度も俺のことを神の使者と呼んできた。


「神の使者さま……どうか……私たちをお救いください……」


 俺は困惑しながら彼女の肩をつかみ、顔を上げるように言った。


 それでも、俺の言うことを聞かずに彼女はひたすら俺へすがってくる。


「お願いします……私だけではなく、世界中の人間があなたさまを待ち望んでおりました……」


「とりあえず落ち着いてください。ちょっとまだ……なるほど」


 俺は彼女の背中を軽く叩いて落ち着かせようとした。


「……すみません。取り乱しました。どうかいたしました?」


「いえ、モンスターを倒しきれていなかったようです」


 俺が困っていることに気付いたリリアンさんが涙を拭きながら立ち上がり、心配そうに聞いてくる。


 そんなリリアンさんへ安心させるように声をかけてから、雷が察知したモンスターの気配を追う。


 ここの場所から逃げるように1匹の小型ワニが高速で移動をしている。


 雷で足止めをしようとしても巨大な時と同じように何の効果もない。


「リリアンさんはここで待っていてください」


「あの、ちょっと!!」


 直接倒そうと雷の翼で空を駆け、ワニの後を追った。


 後ろからはリリアンさんの呼び止める声が聞こえたが、振り返らずにそのまま追いかける。


 小型のワニは俺の追跡を振り切るためか、全速力で離れようとしている。


 向こうも気配を察知しているようで、俺が追い始めてからさらに速度を上げた。


 このままではあまり速度差がないため、追いかけっこが長時間続くことになってしまう。


「さて、どうしたものかな……メーヌ!! フィノ!! あいつを捕えろ!!」


 ワニが進行している方向へ精霊たちを展開し、一斉に動き出した。


「任せなさい澄人!!」


「僕が捕まえるよ!!」


 精霊たちがワニへ襲い掛かり、逃げ道を塞ぐ。


 その瞬間、俺は進路を変えて一気に距離を詰めることにした。


 ワニは精霊に気を取られて俺の接近に気付くことができず、あっけなく背後を取ることができた。


「捕まえた」


「ガァッ!? ガァアアア!!」


 右手でワニの頭を鷲掴みにして、地面へ叩き付ける。


 地面へ打ち付けたワニがカハッと空気を吐く。


【大地を喰らう暴君 本体】


(こいつが本体か! 絶対に逃がさない!!)


 鑑定でこのワニが大地を喰らう暴君の本体であることがわかり、俺はつかんでいる腕へ更に力を込める。


 ワニは抵抗しようと体をばたつかせて俺の腕を振りほどこうとしてきた。


「ガァアア!!」


「うるさいな……メーヌ、これを使って固く閉じ込めろ」


 アイテムボックスからミスリルやアダマンタイトを取り出し、腕の中で暴れ続けるワニを頭上へ放り投げる。


 空中で身を反転させて俺を襲うために口を開けたワニを金属の箱の中へ閉じ込めた。


 地面を食べるようなモンスターでも、この中に閉じ込められれば何もできないだろう。


「さて、倒す前に村の建物と人を助けよう」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

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大変励みになります。


次の投稿は1月26日に行います。

次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

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