首都クサナギへ⑥~巨大ワニ討伐へ~

巨大ワニを討伐するために澄人(ジョン)が動きます。

お楽しみいただければ幸いです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 歩きながら視線を落とし、黒焦げになった小型のワニを【鑑定】する。



【大地を喰らう暴君 使徒】



 ユニークモンスターの名前がわかった俺は、小刻みに地面を揺らしている相手を睨む。


 すると、小型のワニが倒されたことを察知したのか、巨大な赤いワニも俺を睨んでいるようだ。


「グォオオオッッ!!!!」


 俺への威嚇のように、大地を喰らう暴君が口を天へ向けながら大きく咆哮を上げる。


 それだけで地面が激しく揺れ、風が巻き起こり、周りの木々がなぎ倒された。


 体高だけで50メートルを越えているため、その大きさだけでも圧倒されるものがある。


「ひぃ……」


 後ろで小さな悲鳴を上げたリリアンさんは尻餅をついた体勢のまま動かない。


 今の咆哮を聞き、他の小型ワニがこちらへ向かってきているため、いつまでもここにいたら危ないだろう。


「リリアンさん、危ないので付いて来て下さい」


「……ちょ、ちょっと待ってくれ」


 俺の声に反応してゆっくりと立ち上がったものの、腰を抜かしているのか、足取りはおぼつかない。


 そんな彼女に付き合っていたら村が破壊されてしまう。


「走れるようになるまで抱えますね。失礼します」


「え!?」


 リリアンさんを肩で担ぐようにして持ち上げ、全速力で駆け出した。


「な、なにをするんだ!? 降ろせ! 自分で走る!!」


「暴れないでください、落としてしまいますよ! 正直、今のリリアンさんは足手まといなので大人しくしていてください」


「なっ!?」


 俺の言った言葉にショックを受けたのか、腕の中でおとなしくなった。


 集まってくる小型のワニを雷で迎撃している間、じっと大地を喰らう暴君が俺のことを【観察】するようにじっとしている。


 これまで様子見をしてくるモンスターに出会ってこなかったため、不気味で仕方がない。


 何をしているのか反応を見たいので、俺は周囲の小型ワニを一掃し、遠くにいる大地を喰らう暴君を見据えた。


 リリアンさんを抱えてない右手を上げ、バリスタの矢をイメージしながら雷を集約する。


「これでもくらえ!!」


 右手を大きく振り、太い雷の矢を巨大ワニへ撃ち出す。


 一直線に飛んでいく雷の矢が大地を喰らう暴君の鼻先へ命中する瞬間、爆発音が鳴り響いた。


「無傷……なるほど、俺のしている攻撃を分析してくるのか……」


 俺が撃った雷の矢は大地を喰らう暴君の鼻先で止まり、その場で消失してしまった。


 大地を喰らう暴君が何をしているのかわからないが、ヤツに見られた攻撃は効かなくなるのだろう。


「ダメだ……あいつに魅入られると喰われる……すぐに逃げないと……」


 リリアンさんが震えながら視線を落とし、細い声を震わせる。


 しかし、このまま逃げても追って来るだろうし、学習しているとわかった以上、倒すしかない。


「安心してください。俺が必ずあなたを守りますから」


「…………ああ」


 俺の言葉を聞いて、リリアンさんが少し落ち着いたように返事をしてきた。


 先ほどの呟きから、彼女が大地を喰らう暴君のことを何か知っていると思われる。


 顔が青くなったリリアンさんを地面へ降ろし、彼女と視線を合わせた。


「アイツを倒すために、リリアンさんが知っていることを全部教えてください」


「それは……」


 リリアンさんは目を泳がせて口ごもる。


 俺が質問をしてもなかなか答えようとしない。


「もしかして、言えないことですか?」


「そういうことじゃ……」


「なら、教えて下さい。時間がありません」


「…………」


 俺の催促にもリリアンさんはうつむくばかりで、何も話そうとしなかった。


 時間を無駄にする彼女の態度を見て、イラついてきたため、出たとこ勝負する覚悟を決める。


「時間切れです。俺はヤツを倒しに行きます」


「ま、待て! 話す!! 話すから!!」


 俺が歩き出そうとした時、リリアンさんが慌てるように俺の腕をつかんできた。


 必死に俺を止めようとする彼女を見て、ゆっくりと口を開く。


「お願いします」


 リリアンさんは俺の言葉を聞いて、ゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせている。


 そして、俺の顔を見上げ、意を決したように口を開いた。


「……あいつは……神の使者さまが討伐を断念したモンスターなんだ」


「そんなに昔から?」


「記録に残っていない言い伝えだが、何度も大地を喰らう暴君を討伐しようとしても失敗に終わったらしい」


「討伐できない理由は?」


「私も詳しくは知らないが、あいつは大地やモンスター……それと……人を食べることで強くなる最悪のモンスターだ……」


 リリアンさんは俺の顔を見ずに、足元へ視線を落としたまま話をしてくれる。


 彼女が言うには、過去にいた神の使者が、大地を喰らう暴君を討伐できなかった事実だけが伝わっているようだ。


 ただリリアンさんの教えてくれた中で、一つだけ気になることがあった。


「何度も討伐に失敗したんですか? 理由は?」


「そこまではわからない。ただ、失敗したということが伝承されているだけなんだ……」


「そうですか」


 その言葉を口にしたリリアンさんは自分の事のように悔し涙を浮かべている。


 きっと、過去の神の使者は人やその営みを蹂躙するあのワニへ諦めることなく挑み続けたのだろう。


 大地を喰らう暴君はじっと俺を見つめたまま、一切動かない。


 今の話と大地を喰らう暴君の姿を見て、俺がやることは簡単なことだったと気が付く。


 戦ったことのない大型の敵を前にして緊張が高まる中、俺は魔力回復薬を取り出して飲み干す。


「ありがとうございます。おかげでヤツの倒し方がわかりました」


「なにをするつもりなんだ!?」


 リリアンさんの心配するような言葉を背に受けながら、俺は一歩前に出て大地を喰らう暴君と向き合った。


 じっと見つめてくる瞳で俺の攻撃を解析し、何かの方法で無力化していると思われる。


 草薙の剣は神の使者と思われる草凪澄が使っただろうから、あいつを倒せない……なら、俺がミッションで手に入れた最大火力で一気に焼き尽くす!


「メーヌ!!!! 村人の救出とあいつの足止めを頼む!!」


「任せて!!」


 雷で気配察知を行ないながら土の精霊であるメーヌを召喚する。


 モンスターから守るため、俺たちのいる場所から少し離れたところへ村人を集めた。


 それと同時に、大地を喰らう暴君の体半分を地面へ埋める。


「これは……精霊の光……ありえない……」


 この辺り一面から輝く茶色い光を見ながらリリアンさんが呆然とつぶやく。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

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大変励みになります。


次の投稿は1月23日に行います。

次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

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