首都クサナギへ⑤~リリアンさんの話について~
リリアンさんと首都クサナギへ向かっています。
お楽しみいただければ幸いです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
リリアンさんが案内してくれた宿屋は小さな建物だった。
アリテアスで泊まっていた宿屋よりもだいぶ小さかったが、中に入ると受付カウンター以外に食堂のようなスペースがあり、食事もできるようだ。
俺たち以外にも人はまばらで、リリアンさんが部屋を借りる手続きを行ってくれた。
「ジョンは2階の奥の部屋よ。明日の朝、日が昇ったら出発しましょう。それでは」
「ありがとうございます。おやすみなさい」
自分の部屋へ向かうリリアンさんにお礼を言い、荷物を持って階段を上る。
2階の奥の部屋へ入り、ベッドへ倒れ込んだ。
「疲れた……」
今日新たに得た情報を1つずつ思い出していくと、今まで感じたことのなかった疲労感が襲ってきた。
知恵熱に似た体の火照りを鎮めるため、ベッドから降りて窓を開ける。
「ふう……そうだ」
リリアンさんとの会話を忘れないうちに今日のことを整理しなければいけない。
そう思い立ち、アイテムボックスから手帳とペンを取り出し、木製の椅子へ腰を下ろした。
【神の使者 クサナギについて】
・リリアンさんの言っていた【クサナギキヨシ】は俺の祖先である【草凪 澄】である可能性が高い
・【クサナギキヨシ】はこの大陸に辿り着き、【結界石】という存在を広めた
・数千年前の【クサナギキヨシ】以降、神の使者は現れていない
・首都クサナギには、【クサナギ】の名を世襲している者がいる
「うーん……こんなものかなぁ……」
あまり突っ込んだ話ができず、わかったことは多くないが、それでも収穫があった。
この世界に来て初めて手に入れた情報だ。
「まずは【クサナギ】って人のことをもっと調べないとな……」
俺は手帳をしまい、寝るために準備を始めた。
――ドシン! ドシン! ドシン!!
「なんだ!?」
突然大きな足音が聞こえてきたと思ったら、宿全体が揺れ始めた。
地震にしては規則的すぎるような気がして、窓から外の様子をうかがう。
あれはっ!? どれだけでかいんだ!?
月明かりで見えたのは、優に50メートルを越える巨大な濃い赤色のワニのような生物がこちらへむかってゆっくりと近づいて来る風景だった。
遠くにいるはずなのに、その巨体が歩くたびに宿全体が揺れている。
「逃げろ! ユニークモンスターが現れた!! この村はもうだめだ!!」
宿の外から聞こえる叫び声を耳にし、急いで部屋の外へ飛び出した。
廊下に出ると、血相を変えたリリアンさんが臨戦態勢でこちらへ向かってくる。
「ジョン!! すぐに逃げるぞ!! ユニークモンスターだ!!」
死にもの狂いで抜けようとしていた彼女は俺を見つけて腕をつかみ、そのまま引っ張られた。
そのままリリアンさんに手を引かれながら、再び廊下の窓から外を見る。
「リリアンさん、あのモンスターは珍しいんですか?」
「何を呑気に言っているんだ!! 早く避難しないと死ぬぞ!」
焦っているのか、口調が強くなっているリリアンさんは、握った手に力を込めてきた。
しかし、俺の手を握る彼女の手は震えており、額からは汗が流れ落ちている。
「リリアンさんこそ落ち着いてください。あそこに見えるモンスターは実際にどのくらいの大きさですか? 俺たちはどこに逃げたらいいんでしょうか?」
「……え?」
俺の言葉を聞いて冷静になったのか、目を見開いてこちらを見た後、力が抜けたように脱力した。
そして、俺の顔を見てゆっくりと口を開く。
「お前は……何も知らないのか?」
質問の意味がわからず、眉を寄せると彼女が息を飲む。
しばらく無言が続いた後に、意を決したように口を開いた。
「いいだろう……説明してやる。だが、今はそれどころじゃない。私と一緒に来い!!」
リリアンさんは俺の返事を待たずに走り出し、宿屋の裏口から村の外へ向かった。
外に出ると、先ほど見た赤いワニと同じ形をした1メートルほどの小型なワニが村の人たちを追い回しており、
何人かの人が食べられていた。
「なんだこれ……」
「こっちよ! 襲われている人を助けている時間はないわ!!」
俺の腕を引っ張るリリアンさんの表情は暗く、唇を強く噛んでいるように見える。
逃げる理由もわからず、ただ人がモンスターに襲われている光景を眺めていると、急に目の前へ赤い枠の画面が表示された。
【緊急ミッション:ユニークモンスターに襲われている村の被害を抑えろ】
成功報酬:貢献ポイント(損害状況に応じて変化)
失敗条件:村の全損及び、全村人の死亡
「リリアンさん、先に逃げて下さい」
「どうした!? 早く逃げ――」
「俺はヤツを倒します」
リリアンさんの言葉を遮り、俺は立ち止まって後ろから侵攻してくる赤いワニを睨む。
こんな時だというのに俺の心は落ち着き、高揚感に包まれていく。
逃げる理由がなくなったどころか、村を壊そうとしているあのモンスターを倒す価値が生まれた。
「無理だ!! 赤い結界石を受け付けない相手なんだぞ!?」
「なるほど、だから……あ、追いつかれちゃいましたね」
「クソッ!!」
レットゲートにはユニークモンスターが出現しないのかという言葉を飲み込み、追いかけてきていた小型な赤いワニへ視線を投げる。
リリアンさんが短剣を抜いて眼前で構え、俺を守ろうとしてくれた。
「リリアンさん、大丈夫ですから下がっていて下さい。俺が倒しますから」
「なにを言って……」
村の方から走ってくる小さなワニを見ながら、俺は【神の使者】について思い出す。
今から大量に小型のワニを倒し、本体を討伐するにあたって、一つだけ懸念することがあった。
「そうだ。ここで見たことは他言しないようにしてくださいね。いいですか?」
「なんのことを――」
――ピッシャァアアン!!!!
ボウリングの弾程度の球体にした雷を小さなワニにぶつけると、雷鳴が草原に響き渡る。
黒焦げになった小型のワニが地面に倒れる音と、リリアンさんが尻餅をつくのは同時だった。
リリアンさんが呆然と見つめてくる中、俺は黒いローブを羽織り、フードを深く被る。
「今から俺のすることをです。わかりましたか?」
「…………」
リリアンさんが放心状態でうなずくのを確認し、踵を返した。
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ご覧いただきありがとうございました。
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次の投稿は1月20日に行います。
次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
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