首都クサナギへ④~街の外~

シエンナさん改め、リリアンさんと一緒にアリテアスを出ます。

お楽しみいただければ幸いです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「お疲れ様です、集会所のシエンナです。首都へ行くために門を出るわね」


 城門にいる衛兵へリリアンさんが木の手形のようなものを見せながら話をしている。


 手形を受け取った衛兵は詳しく見ることなく、俺とリリアンさんを見送ってくれた。


 今まで城門を通る時には、依頼書など出る理由が分かるものを提示していたが、そこまで詳しく理由を聞いていなかった。


 こうしなければいけない訳が気になり、黙って歩き続けているリリアンさんの横に並ぶ。


「リリアンさん、どうして街を出る時には必ず【理由】が必要なんですか?」


「街の外が危険だからよ。特に今回のような遠出は道を知っていてもね」


 リリアンさんは俺の方を見ることなく、ただ前を見て答えてくれる。


 どうやらこの質問には素直に答えてくれそうだ。


「知らない人がほとんどのことだけど、私たちが住んでいるアリテアスは特殊な場所なの」


 何かを思ったのか、彼女が初めてこちらを向きながら口を開く。


 彼女の瞳には深い憂慮の色が見えており、その言葉には重みを感じる。


「特殊……ですか?」


「ええ、かつて神の使者と呼ばれる方があの森から来たと言い伝えられていて、アリテアスはその方が最初に作られた街よ」


「だから開拓の街アリテアスって呼ばれているんですか?」


「そうよ」


 リリアンさんは昔を思い出しているのか、懐かしむように話を続ける。


 俺の知らない歴史を教えてもらいながら、彼女の言葉に耳を傾けていた。


「特に、神の使者はこの世界を守るために【結界石】をもたらしたと言われているわ」


「神の使者が結界石を?」

 俺がグリーンバーグさんの部屋で読んだ神の使者に関する資料にはそのような記述はなかった。


 聞き返す俺へリリアンさんが小さくうなずく。


「ええ、その結界石のおかげで、街で生活をしている人が魔物に襲われることはなくなり、人々は安心して暮らせるようになったの」


「それはすごいですね」


「だから、神の使者へもう一度来てもらえるように、アリテアスには他の街より広く結界が張り巡らされているのよ」


 リリアンさんの言う通り、アリテアスはこれだけ離れてもまだ結界に守られていた。


 同じように四方へ結界を張り巡らせているのなら、相当広い範囲を守っていることになる。


「それで、どうしてその話が街を出ようとする時に関係してくるんですか?」


「あなたも知っているでしょう? アリテアスは開拓の街、外からやってくる人もたくさんいるの」


 リリアンさんの話を聞いていた俺は黙った頷き、彼女の言葉を待つ。


 俺もなんの証明を持たずにアリテアスへ入った一人なので、リリアンさんの言っていることがよくわかる。


「……悪意のある神の使者はこの結界を壊すことができるから、街へ入ったら素性を調べているのよ」


「え!? それじゃあ、俺も調べられたんですか?」


 知らないフリをしておかないと怪しいと考え、わざと驚くように目を見開いた。


 リリアンさんは俺の反応に眉をひそめ、怪しげに目を細める。


「あなた、私がつけているのをだいぶ前から知っていたでしょう? 何だと思っていた訳?」


「……俺がレックスさんを倒したので、強さの秘密を探ろうとしていると思っていました」


 俺が正直に答えると、リリアンさんがため息をつきながら頭を押さえる。


「本当にわかっていたのね……」


「あれ? もしかして、今、鎌をかけられました?」


 リリアンさんはそうよと返事をしながら呆れたように額に手を当てて、そのまま空を仰いだ。


 俺も異界の空を眺め、宙に浮かんでいる青い線を見つける。


 転々と浮かんでいる線を見ていると、リリアンさんが突然立ち止まり何かを気にするように顔を動かす。


「どうしました?」


「……もうそろそろ脱いでいいかしら、いい加減窮屈になってきたわ」


 リリアンさんは羽織っていたローブを脱ぎ、肩にかかる髪をかき上げる。


 ローブの中は軽装な防具を着ており、腰には短剣を差していた。


 彼女は脱いだローブを丁寧に畳み、自分の荷物が入っている袋に入れる。


「さて、歩いていたら首都へ着くのがかなり遅くなるから、走りましょうか」


 準備運動で軽く足首を回しながら、リリアンさんは青い線が連なっている先を見た。


 道筋のように宙に浮かんでいる線を指差す。


「あれに沿って走ればいいんですか?」


「そうよ。【結界線】の範囲内ならモンスターが出ないから外れないようにね」


 当たり前のように結界線と呼ぶリリアンさんの後ろをついて走る。


 結界の外には数体のモンスターがこちらをうかがいながらも、一定の距離を保っていた。


 俺は特に気にすることなく、前を走るリリアンさんの背中を追うことに集中した。


「えっ!?」


「なんだ? なにかあったのか?」


 リリアンさんが着ている服の背中に描かれた模様を見て、俺は驚愕してしまう。


 思わず漏れ出た声を抑えたものの、リリアンさんが速度を緩めて俺に並ぶ。


「……いえ、なんでもありません」


「そう?」


 首を傾げながら再び俺の前を走るリリアンさんを追いかけた。


 俺が驚いた理由は彼女が着ている服へ目立つように描かれている【家紋】だった。


 どうして草凪家の家紋がこんなところに描かれているんだ!?


 服に描かれるくらいなので、この家紋が異界では広く知れ渡っている可能性が高い。


 どの程度の認知度なのかはわからないが、ほとんどの人が知っているものを俺が質問するのは怪しまれるだろう。


 しかし、なんとかしてリリアンさんの服に描かれている模様についての話を聞きたい。


 俺の視線に気付いたのか、リリアンさんは足を止めずに振り返り、俺の顔を見る。


「どうかしたの?」


「えっと……その紋章ってどういう意味なんですか?」


 俺が質問をするタイミングとしては最悪だが、ここで聞かないと今後聞けないかもしれない。


 緊張して汗ばむ手を握りしめ、リリアンさんが答えてくれることを祈った。


「これは私たち【特級開拓者】の証よ」


「【特級開拓者】……ですか? 開拓者の階級はA級までのはずじゃあ……」


 開拓者になるときに説明された内容と違ったため、聞き返してしまった。


 リリアンさんは特に気にする様子もなく、そうですねと言いながら淡々と説明を続ける。


「特級開拓者は首都にいらっしゃる【クサナギ】様から直々に任命された者だけが名乗れるのよ」


「クサナギさまっていうのは……」


「神の使者であるクサナギキヨシさまの名を継ぐ方よ」


「名を継ぐ……ですか」


 俺は浮かんでくる感情や質問を自分の胸の中に押し殺し、ただの開拓者であるジョンとしてリリアンさんと会話を行うように心掛けた。


 そうでなければ、確実に彼女に違和感を持たれてしまうからだ。


 ジョンとしての興味を持ったという感情だけを表に出し、リリアンさんの言葉を待った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

もしよければ、感想、フォロー、評価、待ってますので、よろしくお願いいたします。

大変励みになります。


次の投稿は1月17日に行います。

次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

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