首都クサナギへ③~追跡者~

澄人をつけていた追跡者を捕獲します。

お楽しみいただければ幸いです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ど、どこへ?」


 その人は全身を黒いローブで覆い隠しており、顔すら見えない。


 身長はそれほど高くなく、声の感じから女性のように思えた。


 その女性は突然、消え去った俺に困惑しているようだった。


「えっ!? うぐっ!?」


 女性の背後から腕を取って、地面へ組み伏せる。


 動けないように馬乗りになってから、闇を解除して、口を開く。


「どうして俺のことをつけていたんですか?」


「なんでっ!? んー!!!!」


 俺が話しかけた瞬間、女性が暴れだしたので、力を入れて抑え込んだ。


 それでも、逃げ出そうともがくのをやめない。


「動くな」


「くっ……」


 声を低く出して掴んでいる腕を締め上げると、大人しくなった。


 これでようやく俺をつけていた女性と話ができる。


「もう一度聞きます。どうして俺をつけていたんですか?」


「……」


「答えないと、ひどい目にあうかもしれませんよ」


 俺は無言を貫く女に対して、脅しをかける。


 ここで素直に答えてくれればいいのだが、俺が押さえ付けている女性はなにも喋ろうとしない。


 それどころか、抵抗しようとして再び手足をバタつかせ始めた。


 この場に他の人間がいないことは確認済みなので、俺は彼女の耳元へ顔を近づけてささやく。


「早くしないと、本当に痛い目みせますよ。シエンナ……いや、【リリアン】さん」


「なぜその名前をっ!?」


 シエンナさんを鑑定で調べたときに見えた名前を口に出すと、彼女は驚いたように叫んだ。


 集会所から俺のことをつけていたのはシエンナさんで、本当の名前はリリアンさんという。


 鑑定で集会所にいた人たちを眺めたとき、彼女だけが偽名で働いており、俺も周りに合わせて彼女のことをシエンナさんと呼んでいた。


【名 前】 リリアン

【年 齢】 19

【神 格】 3/3

【体 力】 5,000

【魔 力】 1,500

【攻撃力】 F

【耐久力】 E

【素早さ】 C

【知 力】 D

【幸 運】 D


 レックスさんと同等の神格値を持つ彼女は、戦いには向かない能力を有している。


 そのために集会所の受付をしていると思っていたのだが、こうして俺をつけているところを見ると、何か別の役割が与えられているようだ。


「質問をしているのは俺です。リリアンさん、どうして俺のことをつけていたんですか?」


 驚愕しながらこちらを見ている彼女に問いかけると、観念したのかゆっくりと口を開けた。


「……あなたについて調査をしているのよ。イアンさんと同じ村の出身ではないんでしょう?」


 どうやらリリアンさんの本来の目的は俺の調査らしく、そのためにここ数日ずっと後を付けていたということだ。


 彼女の言葉に一切の反応を返さず、俺はただ黙って聞いていた。


「何もなければあなたのB級開拓者申請は通るわ。あなたに関しては本当に何もわからないままなのにね」


 彼女は自傷気味にわずかに笑いながら顔を伏せ、額を地面へつけた。


 思考分析で危害を加える可能性がなくなったため、拘束を解くとそのまま立ち上がって土を払うこともせずに俺の顔を見る。


「私はあなたのことを調べて報告する役目を与えられています。だから、もしあなたが危険な存在だとわかったら……その時は――」


「俺は明日、首都へ行こうと思っています。俺のことを調べているのなら、一緒に行きませんか?」


「は? ……本気で言っているの? あなたのことをずっとつけていたのよ?」


「ええ、かまいません。僕の身の潔白をリリアンさんに証明してほしいんです」


 俺の言葉を聞いた途端、彼女が表情を歪めた。


 おそらく俺が黙ってアリテアスを出ようものなら、リリアンさんを派遣してくる相手から追われる可能性もある。


 それならいっそのこと、彼女と一緒に行動をすることで、その後ろにいる相手の信用を得ることができるかもしれない。


 打算的に物事を考えていると、彼女はなぜか呆れたような視線を送ってきた。


「……いいでしょう。私も同行します」


 俺の提案を受け入れてくれたようで、リリアンさんが顎を引いて小さくうなずいた。


「では、明日の朝、集会所の前で待っています」


 彼女はまだ仕事があるらしいため、それだけ言い残してどこかへと走り去っていった。


 残された俺は、ワープで現実世界に帰る気が失せたため、このままアリテアスで夜を明かすことにした。


◇◇◇◇


 翌日、いつものように日の出前に目を覚まし、外へ出る支度を始める。


 これで異界生活も3週間目。目に見える成果はまだない……。


 異界にも街があり、人が住んでいると分かったところで、俺の目的は何一つ達成できていなかった。


 両親のことがわかるどころか、【神の使者】や【結界石の謎】など、俺の知りたいことが山のように出てくる。


 しかし、今の俺は目の前にある問題を一つ一つ解決することに全力を注ぐだけだ。


「よし! まずは首都クサナギに着かないとな」


 布の服に鉄の剣という開拓者としての恰好になった俺は、ローブを羽織ってから生活の拠点にしていた部屋を後にした。


 集会所へ向かうために宿屋を出ると、早朝だからなのか外を歩いている人はまばらだ。


 そんな中、俺と同じような黒いローブを身に着けている人が集会所の前に立っている。


「おはようございます」


「おはよう」


 約束通り、集会所の前でリリアンさんが待っていてくれていた。


 顔を隠すようにフードを深くかぶっており、普通の人なら声をかけないと気づかなかっただろう。


 リリアンさんがいつもとは別人みたいだ。


 俺はいつも見ていた集会所職員の服を着ていない彼女へ目を向けた。


 リリアンさんの服装は黒一色で統一されており、全身を覆い隠すようにひざ下まであるローブまで羽織っている。


 俺の視線を感じたのか、彼女は不機嫌そうに眉を寄せた。


「……あまりじろじろ見ないでくれるかしら?」


「すみません。ちょっと気になってしまって……動きにくくないですか?」


「動きにくいわよ。アリテアスから少し離れたらローブは脱ぐわ」


 ムッとしたように答えるリリアンさんは、周りを気にしながら俺へ背を向ける。


 そして、数歩だけ歩いてから、横顔だけを俺へ向けた。


「もう行くわよ。門が開くわ」


「わかりました」


 リリアンさんはローブのフードを深く被り、足早に歩き出す。


 俺も彼女と同様に顔を見られないよう、深めにフードを被ってから後を追いかけた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

もしよければ、感想、フォロー、評価、待ってますので、よろしくお願いいたします。

大変励みになります。


次の投稿は1月14日に行います。

次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

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