首都クサナギへ②~漂う青い線~

結界石から境界線のようなものが出てきました。

お楽しみいただければ幸いです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ただ、俺の直感が働くことはなく、マップにも脅威度が表示されていないため、目の前で漂っている線が境界ではないことを表していた。


「ジョン! 触ったら消えちまうから、あまりその線に近づくなよ!」


 レックスさんの声で我に返り、俺は落ちている剣を拾って青い線から離れる。


「あの線はなんなんだ?」


 誰にも聞こえないようにつぶやきながら、森を出るレックスさんのあとを追った。


 サラン森林から出てアリテアスへ向かっている間も、ずっと青い線について考えてしまう。


 異界の結界石から生まれた青い線に吸い込まれたモンスターが現実世界へ境界として出現しているのか? そもそも、境界の中で結界石を使ったらどうなるんだろう?


 俺の持っている知識では答えを出すことができない。


 これらを検証するには、一度異界を出て元の世界へ戻る必要がある。


「ジョン、大丈夫か?」


 ずっと黙っている俺を心配して、レックスさんが横に並んで声をかけてきた。


「すみません。少し考え事をしていました」


「何か気になることでもあるのか?」


「いえ、大したことじゃないです。それより、開拓された土地って誰が管理するんですか?」


 俺はこれ以上詮索されたくなくて、話題を逸らす。


 レックスさんもそれ以上聞いてくることはせず、チラリとサラン森林へ目を向けた。


「今回は依頼で開拓をしたから、領主が管理することになる」


「へー、今回はってことは別のパターンもあるんですか?」


「個人で結界石を買った場合があるが……それは稀だな」


「どうしてですか?」


「結界石って結構高いんだよ。アリテアスでは金貨5枚だったかな? それだけの大枚をはたいても、大した利益にならないのが大半だからな」


 説明をしてくれるレックスさんの声を聞きながら、俺はこれまで開拓者として稼いだ賃金を振り返る。


 アーミーアントの素材で手に入れたお金は除き、近くの村への護衛や城壁の深夜守衛などで賃金をもらった。


 その金額が多くても銀貨2枚だったので、結界石は普通の開拓者では手が出せない品物のようだ。


「高価なものなんですね」


「それに、その金額を払ったのに、失敗したらパーだし、運良く開拓できたとしても、利益に繋がるかわからないからな」


「なるほど……」


 開拓者が個人的に結界石を使わない理由を聞きながら、街に戻った。


 集会所ではレックスさんがシエンナさんへ報告をしてくれているため、俺は後ろで待っているだけで良い。


 レックスさんがほんのりと光っている結界石の欠片をシエンナさんへ手渡した。


「確認させていただきました。こちらが今回の報酬になります。ご確認ください」


 シエンナさんがカウンターへ袋を置くと、中に入っている貨幣の音がする。


 それをレックスさんが取り出し、数えて満足そうにうなずいた。


「確かに受け取った。ついでに、ジョンの昇級申請を頼む」


「かしこまりました」


 レックスさんが道を譲り、俺へ目配せをする。


 シエンナさんがカウンター越しに神妙な面持ちで俺のことを見つめてきた。


「ジョンさん、依頼達成おめでとうございます。内容の申請等の結果次第ですが、B級探求者への申請が可能になります」


「申請します」


「それではこちらへ必要事項の記入をお願いします」


 シエンナさんに差し出された用紙を受け取り、カウンターに置いてあったペンを手に取る。


 最後の項目を書き終えると、シエンナさんがペンを置いた俺の顔を見て眉間にしわを寄せていた。


「……ジョンさん、本当にこの内容でよろしいのでしょうか?」


「はい。よろしくお願いします」


「わかりました。明日にでも調査結果が出ると思われますので、少々お待ち下さい」


 シエンナさんは頷いてから立ち上がり、用紙を持って奥の扉へ向かった。


 その様子を見たレックスさんは不思議そうに首を傾げ、俺へ質問を投げかけてくる。


「気にするな。きっと慎重になってのことなんだ」


 レックスさんが苦笑いをしながら、俺の背中をポンポンとなだめるように叩いてくれた。


 俺はシエンナさんが冷たい態度をとってくる理由を知っているため、まったく気にしていない。


「大丈夫ですよ。何にも気にならないです」


「そうか……俺から言っておくから勘弁してやってくれ」


 うながされるように受付の前から離れ、レックスさんと一緒に併設されている酒場へ向かう。


 席に着いたレックスさんが俺の分の報酬をテーブルへ置く。


 飲み物を注文したレックスさんが腕を組みながらこちらを見てきた。


「ジョン、お疲れ様。今日はもう帰るのか?」


「えっと……まだ日が暮れていないので、もう少しだけ頑張りたいと思います」


「無理だけはするなよ、体が第一だぞ」


「はい。失礼します」


 レックスさんに軽く頭を下げてから、集会所を出る。


 数日後に再び集会所へ来れば何にも問題にならないと思われるので、現実世界に帰るなら今のタイミングしかない。


 首都の件や結界石のことなど、まとめたい情報はたくさんある。


 それに確かめたいこともな……。


「まずは家に戻りたいけど……仕方がない」


 行く宛もなく普通の人よりも早い速度で歩いているにもかかわらず、集会所からずっとつけられている。


 このままワープをしたら、俺が急にいなくなったことがばれてしまうだろう。


 面倒くさいな!


 一定距離を保ちながらついてくる人物は、俺が振り返った時にすぐに隠れるくらいの気配りができていた。


 ここ最近、連日のように俺のことを調べている人がいたため、堪忍袋の緒が切れそうになる。


 今日こそ正体を暴いてやる!


 仕方なく、全力で走り出し、人のいない路地裏に入り込む。


 裏路地に入ったと同時に永遠の闇を発動させ、気配ごと俺の存在を他者から消す。


 すると、追いかけてきた人物が慌てた様子で裏路地へ駆け込んできた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

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大変励みになります。


次の投稿は1月11日に行います。

次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

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