臨時会議③~体の痣~

澄人の体に草凪の家紋が浮かび上がりました。

お楽しみいただければ幸いです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 相変わらず幸運がこれ以上上げることができないのは、なんとかならないらしい。


「それにしても、これはなんなんだ?」


 あまり痣のことを考えずにステータスを見つめていたが、少しすると痛みが引いてきたため、再度確認をするために右腕を見る。


 そこには先程まであったはずの傷痕が無くなっており、代わりに、緑色に発光している模様が肩に描かれていた。


「……これって草凪の家紋じゃん……俺にも?」


 お風呂を出てから部屋へ戻り、改めて自分の体を見回すと、従者マークと同じ模様が俺の肩にも浮かび上がっている。


 しばらくすると肩には何もなかったように模様は消えた。


「どういうこと? まあいいや、それよりもそろそろ神格を上げようか」


 モンスターを倒し続け、収集品だけでかなりの貢献ポイントが溜まった。


 これまで能力を上げることへポイントを消費してきたため、神格の上昇は後回しになっていた。


 攻撃力をSSSへ上げてみたが、それでもポイントは二百万以上残っている。


 もう神格へポイントを使う余裕があるため、このタイミングで上げることにした。



【上昇値確認】

【神 格】5 ⇒ 6


【実行】



 実行を押すと、ステータス画面の神格の値が増え、上限が6となった。


「よし、次は……なんだ!?」


 神格が6になったことで使えるようになった機能がないか調べようとしたら、机の上に置いてあったスマホが急に震え出した。


 スマホのディスプレイには【聖奈】と表示されており、電話がかかってきている。


「やばい。起こしちゃったかな……」


 反省しながら電話に応答しようと、急いで通話ボタンを押す。


「ごめん、聖奈。起こしちゃった?」


「もしもし? お兄ちゃん今家にいる?」


「うん、そうだけど……」


「わかった」


 聖奈が短い返事をして電話を切り、そのまま遠くの方で扉が開く音が聞こえた。


 ペタペタと素足で廊下を歩く音も聞こえてくる。


 スマホを置いて寝る準備をしながら様子見をしていたら、部屋のドアが控え目にノックされた。


「お兄ちゃん、入ってもいい?」


「いいよ」


 許可を出すとゆっくりとドアが開かれて、パジャマ姿の聖奈が顔を覗かせていた。


 無理やり体を起こしたのか、髪の一部が跳ねており、眠そうな表情をしている。


「どうしたんだ?」


 布団に座っている俺の横まで歩いてきた聖奈へ理由を聞くと、欠伸をした口元に手を当てながら答えてくれた。


「聞きたいことがあって来たんだけど……」


「なんだよ? 明日じゃダメだったのか?」


「うん……あと、みんなの前だと聞きにくい」


 まだ眠気が覚めていないのか、目を擦りながら俺の横へ座る。


 聖奈が気を使って、俺が1人の時を狙って来たようだ。


「それで、何を聞きに来たんだ?」


「両親の事……お兄ちゃん何か知らない?」


「お前……」


 予想していなかった質問だったため、すぐに答えることができなかった。


 黙ってしまったことで聖奈は不安になったようで、顔色がどんどん悪くなっていく。


 俺は、聖奈の頭を撫でてから話を始めた。


「どこから説明すればいいのかわかんないけど……とりあえず、お前は何か覚えているのか?」


「えっと……何も思い出せない……」


「お父さんお母さんの名前や顔はわかる?」


「え? 顔? うーん……わからない……なにも……」


「そうか……」


 本当に記憶がないらしく、両親のことを覚えていなかった。


 ただ、他の人と違うのは、両親がいないことを俺と同じように疑問に思っている点だろう。


「お兄ちゃん、これから私が聞くことに正直に答えてほしいんだけどいい?」


「ああ、約束する」


 1度深呼吸して気持ちを落ち着かせた聖奈が真剣な目つきになり、まっすぐこちらを見つめてきた。


 2人きりの時にこんな表情をするのは初めて見たため、きっと重要なことだと思われる。


「私ってさ、生まれた時にはここに住んでいたのかな?」


「……どういう意味だ?」


「言葉の通りだよ。生まれてからの全部を知りたいの!!」


 大きな声を出して勢いよく立ち上がった聖奈を見て、思わず固まってしまった。


 今までずっと妹だと思っていた聖奈のことを疑うことなんて考えたこともなかったため、少し戸惑ってしまう。


 こいつは、正真正銘、血を分けた家族……のはずだ……。


 俺の反応を見た聖奈は眉間にしわを寄せて、下唇を噛みしめ始めた。


「曖昧で……不安なの……」


「あ……ごめん……」


 俺が悪いわけではないと思うのだが、どうしても謝らないといけなくなり、口をつぐんでしまう。


 聖奈もそれがわかっていたようで、椅子から降りて俺の正面へ座る。


「私はお兄ちゃん以外の家族の記憶があいまいなの。おじいちゃんのこともほとんど……ううん。言われたと思われる言葉しか覚えてない」


「それはどういう……まさか!?」


 ハッとした瞬間、聖奈が自分の両肩を抱いて震え始める。


 悩みがないと思ってた聖奈が抱えていた問題が発覚してしまい、驚きを隠せなかった。


「ねえ、お兄ちゃん……私、どうすればいいの? 普通に過ごせないよ……」


「……」


 その姿を見て、何と答えればいいのかまったく思い浮かばない。


 ただ確かなことは、俺は聖奈が妹だと信じていることだ。


 震える聖奈を抱き寄せ、安心させるように背中を優しく叩いてあげた。


「大丈夫だって。俺たちはまぎれもなく兄妹なんだ。心配することなんか無い」


「お兄ちゃん……」


 腕の中で泣き始めてしまったため、しばらくそのままの状態でいたら落ち着いたのか、涙が止まった。


 聖奈の顔を見ると、赤く腫れた瞼と目が合う。


 よく見ると俺が抱き寄せる前に泣いていたのか、パジャマが濡れており、頬には新しい跡ができていた。


「お兄ちゃんありがと……もう大丈夫だよ……」


「そっか」


 俺から離れた聖奈は立ち上がり、パジャマの裾でグシグシと顔を拭いている。


 まだ表情が晴れない聖奈へ俺は笑顔を向けた。


「聖奈、俺は明日から学校へ行かないで、両親のことを探してみようと思う」


「えっ!? どこを?」


「こっちの世界にはなんにも手がかりもない……だから、異界とはざまの世界へ探索に行くよ」


「そんな!? 私もっ!!」


 一緒に行きたがる聖奈の頭を撫で、首を振った。


 何が起こるかわからない場所へ聖奈を連れて行くわけにはいかない。


 それに、何となくだが、両親を見つけるためには、俺が単独で行動しないといけない気がしている。


 頭を撫でるのをやめたら手を掴まれ、真っ直ぐに視線を合わせられる。


 だが、俺は首を横に振り、手を振りほどいた。


「わかってくれ、未知の世界なんだ。俺だけの方が安全なんだよ」


「お兄ちゃん……うん……わかったよ……」


 渋々納得してくれたようで、俯きながら小さくうなずいていた。


「お兄ちゃん、絶対に帰って来てね」


「ああ」


 聖奈が部屋を出ていき、1人になった俺は布団へ寝転がった。


 天井を見上げ、先程のことを思い出す。


 聖奈があんな風に悩んでいたなんて知らなかった……俺が帰って来るまで一人で泣いていたんだよな……。


 妹のことが理解できてなかったことで、もどかしさを感じてしまう。


 寝る準備をしていた時は気付かなかったが、右腕にある草凪家の家紋がまた光っており、模様が浮き上がってきていた。


 なんとかして、異界かはざまの世界で”情報を消してくる敵”について調べないと。


 そのまま眠りにつくまで、俺は今後の方針を決めていった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

もしよければ、感想、フォロー、評価、待ってますので、よろしくお願いいたします。

大変励みになります。


次の投稿は12月9日に行います。

次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

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