臨時会議④~未知の敵を求めて異界へ~

澄人が異界都市へ本格的に乗り込みます。

お楽しみいただければ幸いです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「いくか」


 夜が明ける前、俺は異界へ行く準備を終え、最後に皮手袋をギュっと握り締めた。


 最初は異界で目立たないように調査を行なうため、手袋が外れないように付ける。


 窓を開けると、まだ空が白んでおらず、周囲は静まり返っていた。


「ワープ」


 目の前に出現した画面でワープ先を選択し、一呼吸置く。


「よし」


【実行】を押そうとしたとき、不意に扉の外に誰かの気配を感じた。


『――――』


誰かが俺の様子を伺っている? 俺は急いで窓を閉じる。


「なんだ?」


一瞬だけ気配を感じたような気もしたが、今は雷はなにも探知していない。


「気のせいか……」


 こんな時間に起きている人などいるはずがない。


 きっと風かなにかだろうと思い、俺は再び画面に目を向けて【実行】を押した。


 転移先は、以前訪れた異界都市アリテアス。


 まだ異界も人が起きている時間ではないのか、数メートル先にある城門が固く閉ざされている。


 周りには城門が開くのを待っている人の姿があり、俺の存在に気づいた者は誰もいない。


 さすがに朝早いから人は少ないみたいだ。


 俺は永遠の闇を自分へ付与しながら城門へ近づき、待っている人たちを観察する。


 前回では開拓者と呼ばれる人たちだけを注視していたため、他の人がどんな服装なのか覚えていなかった。


 この中へ紛れ込むために、まずは見た目を変えてみようと思う。


 服装は……これにしよう。それで……っと……。


 城門の前に並んでいる人たちの服装は、砂漠を歩くようなマントを身に付けている人が多い。


 あれなら俺も同じようなものを着ればバレないだろう。


 アイテムボックスから黒いマントを取り出し、自分を覆うように羽織る。


 列の後方へ並ぶために踵を返し、城門から離れながら人の列を眺めた。


 よく見ると男性より女性のほうが多い気がする。


 なぜだろうと疑問に思いながら闇を解除しつつ、最後方に並ぶと、後ろから肩を叩かれた。


「ん?」


 振り返ると、そこには俺と同じような服装をした男性が立っている。


 その人は顔立ちがよく、髪の毛も短く切りそろえられていた。


 背丈は高く、どちらかというと細身だ。


 年齢は20代前半だろうか、身長差のため少し見上げるようにして相手の目を見る。


「どうしたんですか?」


「いや……君も開拓者なのかと思ってね」


「いえ、僕は開拓者になるためにここへ来ました」


 俺が答えると、男性は表情を変えずにじっと見つめてきた。


 何かおかしいことを言っただろうかと思いながらも、そのまま話を続ける。


「あの……なにか?」


「いや、なんでもないよ。それにしても奇遇だね、俺も開拓者の登録に来たんだよ」


「そうなんですか! よかったら一緒に行きませんか?」


 同じ目的を持つ人がいるなら紛れと思ったので、俺は喜んで同行しようと声をかけた。


 しかし、なぜか男性は顔をしかめて黙ってしまう。


「……そうだな。それもいいかもしれない」


 そう言ってから、彼は手を差し出してくる。


「俺はイアンって言うんだ。よろしくな」


「僕はジョンです。こちらこそよろしくお願いします」


 彼の手を握り返すと、イアンさんは笑顔になり、握手したまま腕を上下に大きく振る。


 列に並んでいた人たちステータス欄の名前が漏れなくカタカナで表記されていたため、とっさにジョンと名乗ってしまった。


 名乗ったジョンという名前は、試練の書に書かれていた主人公の名前だ。


 澄さんに会ったことで、試練の書に書かれていた冒険譚を鮮明に思い出してしまった。


「ジョンは何処の村から来たんだい? 俺はマハヨってところだ」


「マハヨ?」


「ああ、あの森沿いをずっとまっすぐ北上していくとあるんだぜ」


 イアンがマハヨという村の場所を詳しく説明してくれるため、俺は思考だけで地図画面を開いた。


 森沿いを北へ進むと、確かに【マハヨ集落】という村のような表記がある。


 アリテアス周辺には同じように多数の集落が少し離れた場所にあるので、近場から選ぶと怪しまれるかもしれない。


 これからもこのような場面に出くわす可能性を考え、俺はとっさに口を開く。


「故郷は捨ててきたんだ。家族から開拓者になるなら縁を切るって言われた」


「あ……そうなのか……ごめん」


「気にしないでください。もう割り切っているので」


 俺の言葉を聞いて、イアンが申し訳なさそうに謝ってくる。


 こんな反応をされるとは思っていなかったので、どう話を続ければよいのか迷う。


「それなら、ジョンは俺と同じ村出身だと言えばいい。開拓者登録の時に聞かれることがあるそうだ」


「そうなんですか? でも……いいんですか?」


「ああ、一緒に開拓者になるよしみだ。口裏くらい会わせてやるよ」


「ありがとうございます」


 イアンが気を利かせてくれたおかげで、俺は出身地について嘘をつく必要がなくなった。


 念のためと言いながら、イアンは城門が開くまでマハヨの村について俺へ簡単に説明してくれた。


 周囲が明るくなってくると、ギギギっという音とともに巨大な城門がゆっくりと開く。


 中からも人が出てきており、行商人たちがリヤカーのようなもので荷物を運んでいる。


「よし、俺たちも行こう」


「はい」


 返事をして、一緒に街へ入る。


 門を通り過ぎる際に衛兵へ軽く頭を下げたのだが、誰も見向きもしなかった。


 どうやら、マントを羽織っているおかげで怪しまれることはなさそうだ。


 前に来た時は気にしなかったが、城門の先は石畳が敷かれており、両側にはレンガ造りの建物が並んでいる。


 こうしていると中世の世界へタイムスリップしてきたような気分になってくる。


「さて、開拓者集会場はどこかな……」


 イアンは周囲を見渡し、目的の場所を探しているようだ。


 開拓者集会場の場所なら前回マーキングをしてある。


「イアンはここへ来るのは初めてなんですか?」


「ああ、初めてだ。開拓者になる決意を固めたのが最近なんだ」


「そうなんですか……僕は何度かこの街に来たことがあるので、案内しますよ。こっちです」


 俺は前回訪れた時の記憶と地図を頼りに、開拓者ギルドを目指す。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

もしよければ、感想、フォロー、評価、待ってますので、よろしくお願いいたします。

大変励みになります。


次の投稿は12月12日に行います。

次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

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