国際ハンター会議へ⑮~祖父を認識した澄人~

澄人がおじいさんを自分の祖父だと認識しました。

お楽しみいただければ幸いです。


この話で6章が終了です。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 お互いに相手の姿を確かめるように目を見開いていたら、おじいさんが振るえる唇を動かす。


「おぬしが……神格の上限が1でハンター生活が絶望的だったわしの孫の澄人なのか?」


「おじいさんこそ……ハンター協会の会長で、草根高校の理事長だった、俺のじいちゃんですか?」


 俺とおじいさんはそれぞれの質問を肯定するように短くうなずいた。


 そのやり取りを見ていた師匠がまさかと言いつつ、じいちゃんの顔を見る。


「澄人が孫だと……気付いていなかったのですか?」


「広よ、わしの孫は無能力者と烙印を押された。レッドラインを越えてくるなんて考えが出てくると思うか?」


「そのために……試練の書をお与えになったのではありませんでしたか?」


「試練の書? なんだそれは?」


 祖父が本当にわからないと言いながら眉をひそめる。


 困った師匠は、より詳しい事情を知っている香お姉ちゃんへ助けを求めた。


「澄人はそれがあったからここまで強くなれたんです。正澄さまが用意したものではないんですか?」


 祖父と師匠たちの会話を聞きながら、俺は自分の違和感に気が付いてきた。


 この人は確かに祖父だが、俺へ草凪家と未来を託した人物ではない。


 祖父の顔を見た時から頭がかき乱されたような感覚があり、徐々に思考にかかった靄が晴れてくる。



『ようやくここまで来たな。よくやった』



「なにが……うっ!?」


 突然頭の中に響いてきた声に対して驚きの声を上げてしまう。


 周囲のみんなも何事だと言う顔をしてこちらを見てきていた。


 なんなんだ!?


 声の主を探していると、誰もいないはずの背後から視線を感じて振り返る。


 そこには人の影も形もないのだが、何かがいると俺の直感が告げていた。




『さて、そろそろ種明かしだ。意識を委ねろ』



 謎の声はそう言い、俺はその言葉の意味を考える余裕もなく、膝をつく。


 視界が大きく揺れ動く中、自分が意識を失う前に必死に手を伸ばす。


「澄人!! どうしたんじゃ!! 澄人!!」


 じいちゃんが大きな声で俺を呼ぶが、だんだん声が聞こえなくなってくる。


 やがて、俺はじいちゃんの腕に抱えられながら意識を手放してしまった。



◆◆◆



「ん……ここは?」


 なぜか俺は見たことがあるような暗い部屋に横たわっていた。


 どうしてこんなところにいるんだろうと起き上がろうとしたら、体が全く動かず、口だけしか動かすことができなかった。


 体が動かない……それにしても、ここってどこだろう?


 体を全く動かせない状況だったが、不思議と不安感はなく、心が落ち着ている。


「よう、起きたか? もう動けるはずだぜ?」


 突然暗闇の中から男が現れ、俺のことを見下ろしてきていた。


 その男は白髪交じりの黒髪をオールバックにして、鋭い目つきをしている。


 俺は体を起こしながらこの人を見た瞬間、幼い時の記憶がフラッシュバックした。 


「……あなたは……俺へあの本と紙ををくれた方……ですか?」


 目の前の男性はうなずいてみせるだけで、俺の言葉には答えてくれなかった。


 ただ、懐かしむように目を細めて微笑んでいる。


「お前はこれから世界を救うことになる……無能力だったお前にしかできない大切な役割だ」


 男性の雰囲気や表情が急に変わり、真剣なものになっていた。


 世界を救えと言われてもいまいちピンとこないけど、この人に言われたことは嘘じゃないと思う。


 直感的にそう捉えてしまった俺は、自分に何ができるのかこの男性へ質問をしてみることにした。


「それで俺は何をすればいいんですか?」


 男性は少し驚いた様子を見せるが、すぐにまた元の表情に戻っていた。


「話が早くて助かる。今から話す内容は、他人に話さないと約束してくれ」


「わかりました……ちなみに、仲間には伝えても?」


「家族ならギリギリ良いだろう。混乱させるなよ」


「はい」


 俺の返事を聞いた男性が安心するように息を吐くと、ゆっくりと話し出した。


「まず、今の世界に起こっていることを説明しよう。現在の世界はハンターが力を合わせて境界の攻略を行っている。しかし、数が多すぎて手が回っていない状態だ。それに加えて、レッドラインを越えたモンスターたちが各所で出現している……わかるな?」


「はい……実際に見たことがあります……」


「近い未来……いや、もうすぐ今までに例がない巨大な境界が発生する」


「えっ!?」


「そして、その境界線からは数多の化け物たちが現れることが予測されている。しかも、それは1度きりではなく、何度も繰り返し発生する可能性が非常に高い」


 俺が絶句しながら話を聞いていたら、男性の口調はさらに重々しいものとなっていた。


「俺の予想では、過去に出現したことがないほど大きなものがいくつも現れると考えている。そうなれば、地球上の生物は滅亡するかもしれない」


「そんなに!? ……でも、なぜ俺にそのことを?」


「お前は……俺の【子孫】だからな。それに、俺が知る限り最も才能があるハンターでもある。きっとその力を役立ててくれると信じているんだ」


「俺があなたの子孫!? それに俺は無能力者だと言われてきたんです!!」


 突然出てきた事実に俺は驚き、思わず大声を出してしてしまった。


 すると、男性は悲し気に俺を見つめながら、両手を広げてきた。


「お前の能力は境界を発生前に察知できることだ。他の誰にもない澄人だけにある唯一の力……俺は、ずっとお前を待っていたんだ」


 男性が崇めるような目を俺へ向け、手を差し伸べてくる。


 この人が俺へ期待していることが伝わってきた。


「あなたは?」


 差し伸べられた手を取ろうとしたら、自然とそう口が動いていた。


 この人が誰なのか知りたくなってしまったのだ。


「俺の名前は……きよし。草凪澄だ」


「あなたが!? うっ!?」


「時間が無い……すべてを託したぞ……」


「待ってください! まだ聞きたいことが!」


 この人ともっと話をしたいと思ったが、まぶたが重くなってきて、開けていられなくなる。


 そのまま視界が真っ暗になり、気が付いた時にはベッドの上で寝ていた。



◆◆◆



「……と……澄人!!」


「うぅ……あぁっ!?」


「良かった……目を覚まして……」


 俺が目を開けたら、香おねえちゃんが目に涙を浮かべてこちらへ抱き着いてきた。


 自分の部屋に寝かされているようで、周囲を見渡すと師匠や夏さんもおり、心配したような顔でこちらへ視線を送ってくれている。


「俺は……?」


「わしと話をしていたら急に倒れたんじゃ、覚えておらんか?」


「じいちゃん!?」


 俺が上半身を起こすと、部屋の入口から巨体のじいちゃんが心配そうな顔を覗かせていた。


 その隣には師匠もいて、安心するような笑顔を見せてくれている。


「どうやら大丈夫そうだな。気分は悪くないか?」


「はい、特に問題ありません……それよりもみんなが揃っているこの場でお話したいことがあります」


 俺は自分が気を失っている間に何があったのか思い出し、ここにいる全員へ包み隠さずに伝えた。


 その話の中で草凪澄の名前が出た瞬間、じいちゃんを始めとした全員が息を呑む。


 地球上の生物が滅亡するという話が終わると、誰もが口を噤み、シンと空気だけが張り詰めた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

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大変励みになります。


次の投稿は11月27日に行います。

次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

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