第7章~世界中の異変~
臨時会議導入編~私たちの存在意義~
第7章導入部分です。
香と夏が澄人に救出された人たちを眺めております。
香視点で進行する話です。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「現在、日本ハンター協会本部から続々と行方不明になっていたハンターが出てきております」
澄人が正澄さまを連れて帰って来てから一週間。
その期間、私たちは地球へ迫っているという危機については一旦考えるのを保留した。
その代わり、正澄さまと同じようにレッドラインへ入って行方不明になっていた人たちの受け入れ準備を進めた。
今テレビで流れているニュースで、行方不明者たちは全員が無事に帰ってきたと報道されている。
ただ、同じように行方が分からなくなっている澄人の両親は見つからなかった。
そんなことを考えながらテレビに映る生還してきた人々へ目を向けていたら、隣に座る夏が小さくため息をつく。
「最近、澄人さまに会えませんね……」
「澄人も忙しいから。今も協会の中で”例”の作業をしているわ」
テレビを見ながら、映ることがない本部の中で正澄さまと澄人が行なっていることを思い浮かべた。
「テレビに映りたくない人を個別に送っているんですよね。そこまで澄人さまがする必要あるんですか?」
「ないとは思うけど……ほら、澄人は優しいから!」
「まあ……そうですよね……」
私がそう言うと、夏は苦笑いをしてお茶を飲む。
そして、先ほどよりも大きなため息をついた。
「私はもっと一緒にいたいです……学校も年が離れているせいで通えないし、最近はギルドの活動もできていません」
夏も……私と同じ気持ちだったんだ。
1週間前に救世主のような存在になった澄人を私たちの都合で連れまわせない。
それ以前からも清澄ギルドの活動は極端に減っており、新しく加入した三人と境界へ突入したのは数回だけだ。
私は夏と一緒にこのことに関して話し合うために家に呼んだのだが、彼女も同じことを考えてくれていたようだ。
「夏に聞きたいんだけど……活動していない間、なにして過ごしていたの?」
「いえ、家にいただけです……ごめんなさい」
私の質問に対して、夏は顔を青くして謝ってくる。
その様子を見て、彼女が何をしていたのかなんとなく察することができた。
「やっぱり、夏もそうなのよね……」
「はい……お恥ずかしい話ですが……」
「なんだか最近私たちの役目が終わった気がしてならないのよね」
「………………はい」
夏が返事をした瞬間、部屋の中に静寂が訪れる。
夏も私と同じようなことを感じていたらしい。
今までずっと抱えていた言いようのない不安がさらに大きくなった。
ここ数日、家でも澄人と話をする機会が少なくなってきており、彼がどこか遠くに行ってしまうような不安感を覚えてしまう。
だからといって、彼に何をすればいいのかわからない。
……今の生活を続けていくにはどうしたら良いだろう?
いつの間にか私は彼を中心に物事を考えるようになっていた。
「おぬしら辛気臭い顔をしておるの!!!!」
「キャッ!? 正澄さま!?」
「正じい……驚かさないでよ……」
私たちが居間で黙り込んでいたら、急に正澄さまが大きな声を出しながら背中を叩いてきた。
突然の出来事だったので驚いてしまい、持っていた湯呑を落としそうになる。
夏に至っては驚きのあまりに涙目になってしまい、正澄さまのことを見つめている。
「こんな時はこれに限るぞ!! ほれっ!」
「……えっと?」
「これは……」
私たちが呆気に取られて固まっていたら、正澄さまは手に持っていた一升瓶をテーブルへドンッと置く。
中身が入っているようで、ガラス製の徳利がカタカタと音を立てながら揺れていた。
「酒じゃ!!!! 酒を飲めば悩みなど吹き飛ぶわい!!」
「……」
「……」
私たちは目の前にいる正澄さまを見て言葉を失う。
見た目だけならとても70歳を迎えようとしている体に見えず、やっていることも豪快だ。ただ、彼の言っていることは間違っていないように思える。
「わかりました! 飲みましょう!」
「え……ちょっと……夏?」
夏は先ほどまで落ち込んでいたとは思えないほど目を輝かせており、私の意見を聞くことなくグラスを準備し始めた。
最近20歳を迎えた夏は、あまりお酒を飲む機会がなかったため、嬉しいのかもしれない。
ただ、私はそのような気分にはなれないので、正澄さまには悪いが少し飲んだら潰れたフリをして部屋へ戻ろうと思う。
「2人とこうして酌み交わせるとは思わなんだ……入れてやろう」
急に真面目な表情になった正澄さまは、一升瓶を開け、杯を持つようにと催促をしてきた。
私たちはその変化に戸惑いながらも言われた通りに準備をする。
「わしが2人へ澄人のことを頼んだとき、香は11歳で、夏は9歳……大きくなったのう……よくここまであやつを支えてくれたな」
「いえ……それが私の生きがいなので……」
「私の心と体は、正澄さまに水鏡家から救っていただいた時に澄人さまへ捧げました」
「そうか……助かった」
私たち2人の言葉を聞き、正澄さまは笑みを浮かべながらゆっくりとうなずく。
そんな正澄さまを見ていたら、私は自分の胸の内にある悩みが口から溢れそうになる。
夏も同じようなことを考えたらしく、横目でこちらを見てきた。
しかし、私が口を開くよりも先に夏の方が動き出し、正澄さまへ向かって頭を下げる。
「あの……正澄さま、相談したいことがあるのですが良いでしょうか?」
「ん?なんだ言ってみるがよい」
「私と香さんは、このまま清澄ギルドを続ける意味があるのかと思いまして……正澄さまも帰ってこられたことですし……その……」
夏が口にした内容は私も考えていたことだった。
正澄さまは一升瓶から直接お酒を口へ注ぎ、一気に飲んでいる。
その姿を見ていると、私も何かを口にしなければいけないという気持ちになってくる。
「ふむ……そうじゃのう……確かに、もう【見守る】という役目を終えたかもしれぬのぅ」
「え……やはり……そうなんですか……」
「あ……」
夏が悲しそうな顔でうつ向いてしまい、私は後悔する。
これは私が聞かなければならなかったことだ。
悲しそうな夏はギュッと手を握り締め、視線を畳へ落とす。
「夏よ、どうして悲しむんだ? 嬉しい事だろう? これからは共に戦えるんだからな」
「……どういうことですか? 清澄ギルドは解散ということではないんですか?」
夏が疑問に思うのも無理はない。
今まで私はギルドの存続について悩んでおり、清澄ギルドの存在意義に疑問を持っていた。
「ハッハッハ!! まさか、そんなわけなかろう!! 潰れた草凪ギルドに変わって、草根市を守っているのは清澄ギルドという話じゃないか!! よくぞ少人数でここまでのことをしてくれたな!!」
「清澄ギルドが……守っている?」
「ああ、そうだ。ギルドの主な役割はモンスターを倒すことじゃない。地域のために活動することこそギルドの担う役割だ」
「そ、そうなの正じい?」
夏は正澄さまの言葉を聞いて安心しており、私は先ほどの言葉を噛みしめていた。
私はずっと、この世界に蔓延る境界から人々を守るために活動することがハンターの役目だと教えられ、実際にそういう活動をしてきていた。
けれど、それは間違いだった。
世界を救うのは澄人で、それを支えるのが私たちの役割だ。
澄人の帰ってくる場所を守るために戦う。それができるのは私たちしかいない。
私はそれを今更ながら気付かされ、体から力が抜けていく。
「香、夏よ、まだこの澄人のそばでやりたいことはあるか?」
「……あります」
「それなら迷うことはあるまい!! 突き進めぇい!!」
「はいっ!!」
「わかりました!!」
お酒が入ったからなのか、私は夏と一緒に勢い良く返事をした。
その後、私たちはお酒を飲みながら、清澄ギルドの今後を話し合い始める。
「おぬしら、実力に不安を感じているというのなら、神格の限界を突破してみるか?」
正澄さまは4本目の一升瓶を開けながら不敵な笑みを浮かべた。
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ご覧いただきありがとうございました。
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大変励みになります。
次の投稿は11月30日に行います。
次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
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