国際ハンター会議へ⑭~疾走する2人の草凪~
澄人が混乱したままおじいさんの後ろを疾走しております。
お楽しみいただければ幸いです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あの、聞きたいことがあるんですが……」
「なんじゃ? 付いてこられるならもう少し速度を上げるぞ」
おじいさんは俺に脇目も振らず、涼しい顔をしながら速度を上げた。
まだ余裕で付いていける速度なので並走すると、おじいさんがようやくこちらへ視線をよこす。
「何人くらいの集団で暮らしているんですか?」
「詳しくは数えたことがないの……千は越えているはずじゃ」
「千ですか!? そんなに……」
「皆が皆、レッドラインへ完全に飲み込まれて向こうへ帰れなくなった……お主もな」
「そうなんですね……」
おじいさんは俺と話をしながらも、こちらを試すようにどんどん速度を上げていく。
体力の消費も激しく、回復薬を適度に使いながら走る。
もうそろそろ神気を解放しないとついていけないと思っていたら、おじいさんが根負けしたように速度を急に落とした。
「わしの素早さはSなんじゃが……お主も同等のようじゃの……全力で走って疲れたわい。すまんの」
おじいさんは謝りながら足を止め、乱れた呼吸を整えるために布製の水筒で水分補給をしている。
走る前にモンスターをなぎ倒したり、空をぴょんぴょんと跳ねていたので体力を消費したのだろう。
感謝の意味も込めて、完全に回復できるように1番高い回復薬(特)を手渡す。
「体力切れですか? これをどうぞ」
「くれるのか? ……ぷはー! 生き返ったわい! 上等なモノじゃな!」
「それはよかったです」
おじいさんは一気に飲み干して、満足そうに笑っている。
そして、背伸びをして体をほぐすと、俺のことをじっと見つめてきた。
「それで……お前さんは……どうして一人だったんじゃ? レッドゲートへは普通20人規模で入るじゃろう?」
「言おうか迷っていたんですが、俺はレッドゲートへ閉じ込められてここへ来たわけではありません」
「なんじゃと!?」
おじいさんが驚いているのを無視して、話を続けることにした。
ただ、【ある事】を考えようとすると思考が止まってしまうので、注意しながら口を開く。
なんだか頭にモヤがかかったように考え事ができない……どうしたんだ?
未だに俺はこのおじいさんについての理解が追い付いていないため、お互いの素性については極力説明を避ける。
「僕のスキルにワープというものがあり、知人を頼りに発動させたらここへ着きました」
「なんと……そんなスキルが……」
「おそらく、今も使えると思うので、レッドゲートへ閉じ込められた方々を戻すことができると思います」
「本当なのか!? ……いや、待てよ。そんなに上手い話が……」
おじいさんが声を上げて近づき、首を振ってそれはないだろうと呟いていた。
「おじいさん、向こうの世界にある自分の家の場所を思い出せますか?」
「家? 日本にある家なら一時も忘れたことはない。可愛い孫たちが待っていてくれているはずなじゃ……」
「ワープを体感してた方が早いと思うので、ご自宅までお送りします」
「ちょっと待つんじゃ!!」
おじいさんの家を思い出してもらわないことには始まらないため、まずは移動してもらうことにした。
しかし、おじいさんは慌てるように俺の肩を掴み、真剣な表情を浮かべる。
「お前さんを疑うわけではないが、本当にできるのか? それに、ここにはまだ多くの者が残っているんじゃ」
「僕が一度来たことがある場所ならワープできます。ご心配だとは思いますが、信じていただけると助かります」
おじいさんの瞳を見つめて安心させるように微笑むと、少し考え込んだ後に大きく息を吐く。
「わかった……信じよう。ただし、嘘だとわかったらその首が胴から離れるが良いな?」
「はい。それでいいです。ワープを発動させますね。ご自分の家を思い出していただけますか?」
おじいさんが槍を俺へ向けたままうなずき、目が俺を捕えたまま微動だにしていない。
何も知らない人にワープの話をしたらこんな反応だよなと納得し、ワープの実行画面を表示させる。
【ワープ可能地点】
[異界][日本][その他]
※新しく[はざまの世界]が追加されました
[日本]へ《草凪正澄の家》が追加されました
おそらく[はざまの世界]というのがこの場所の名称なのだろう。
俺の家以外の場所が登録されたから本当に同姓同名の可能性も出てきた。
現実と異界とのはざまなど色々考えられるが。
それはあとで考えることにして、目の前に立つアメコミのヒーローみたいなおじいさんを送り届けたら、家の人がどう思うのだろう。
絶対に驚くよな……でも、普段からこんな感じの人だったら……驚かないのか?
邪念を振り払い、俺は追加されたおじいさんの家を選択してワープを実行する。
一瞬にして視界が変わり、見覚えのある風景が目に映った。
「……ここは……わしの家の前じゃ……本当に……帰ってきたのか……」
おじいさんが呆然とつぶやく横で、俺も同じように周囲を確認する。
反応から間違いなくここはおじいさんの家に着いたようだ。
しかも、妙に俺の家に似ているような気がする。
感動して声を震わせているおじいさんの槍の先端を持ち、俺の方を向かせる。
「おじいさん、信じられないかもしれませんが、これがワープです」
「そのようだ……向こうにいるみなを帰す前に、一度家へ入ってもいいか?」
「どうぞ。僕はここで待っていますね」
「ありがとう。本当にありがとう」
おじいさんは槍を背中へ担ぎ、涙を流しながら大きな手で俺の両手を包み込んでお礼を伝えてきた。
そして、玄関へ向かって歩き出し、扉の前で大きく息を吸い込む。
「草凪正澄が帰ってきたぞぉおおおおお!!!! だれぞおらぬか!!??」
周囲の家のガラス窓を揺らすほどの大声量で帰宅の挨拶をするおじいさんの近くにいた俺は、思わず耳を塞いだ。
おそらく日本へ帰ってこれたという感情が爆発したものかと思われるが、ダイナミックすぎる。
玄関の窓枠にはヒビが入っており、俺も耳を塞いでいなかったら鼓膜が破れていたに違いない。
「正澄さまですか!!??」
耳を塞いでいた手を離すと、家の中からはこれまた聞いたことがあるような声が聞こえてきた。
師匠の声? いやそんなはずは……。
どたどたと廊下を走る音と、扉の鍵が開けられる音が激しく鳴っている。
「みなへ恩人であるきみのことを紹介したい。こっちへ来てくれ」
「はあ……」
おじいさんが俺へ手招きをして扉が開くのを待つ。
扉が壊れるんじゃないかと思うほど思いっきり玄関が開けられ、「中から見たこともないほど取り乱した師匠が顔を覗かせる。
「広か? 今帰ったぞ。少し待たせたな」
取り乱した様子の師匠に似た人へ、おじいさんが片手を上げながら満面の笑みを向けていた。
師匠に似た人も名前まで同じなのかと思っていたら、続々と中から俺の知っている人に似た人たちが出てくる。
お姉ちゃんや夏さん、平義先生に聖奈。
どこまで似ているんだと思っていたら、師匠に似た人が俺へ抱き付いてきた。
「澄人さま……本当にありがとうございます……」
「…………え?」
師匠に似た人は俺の首元に顔を埋め、涙声で感謝の言葉を口にしている。
おじいさんも師匠に似た人の反応が理解できず、首を傾げていた。
「広よ。こやつは、俺の孫と同姓同名らしいが人違いだろう?」
「いやいやいや! 正澄さま! この澄人が正澄さまのお孫さんですよ!?」
俺に抱き付いてきた人は師匠に似た人ではなく、本当に師匠だったらしい。
そうなってくると、俺の横に立つ筋肉隆々で身長が2メートルを越えているおじいさんが俺の祖父になってしまう。
こんな人ではなかったと思うんだけどという気持ちでおじいさんを見上げると、向こうも不思議そうな顔をこちらへ向けていた。
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ご覧いただきありがとうございました。
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大変励みになります。
次の投稿は11月24日に行います。
次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
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