国際ハンター会議へ⑥~異界都市アリテアス発見~
澄人が異界都市アリテアスを発見しました。
お楽しみいただければ幸いです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
調べたいことがあるけど……後回しにして街の中に入ってみよう……。
異界ミッション6の解放条件である【開拓者】になる方法などを探すことはあとにして、俺は街の中へ足を踏み入れようとした。
『澄人くん!! 楠さんが木から落ちて虫に足を食べられた!! これ以上食べられないように守るので精一杯だよ!!』
『あと10分持たない?』
『ごめん!! 僕も左腕が食い千切られているんだ!! もう持たない!!』
『わかった。今すぐ行くよ』
初めて見た異界の都市に入る直前、輝正くんの緊急SOSが俺へ届いてしまった。
このままではあの肉食昆虫に2人を細切れにされてしまい、神の祝福でも治せなくなる。
その前に救出しなければならないので、俺がこの街へ入る余裕はない。
アリテアス……今度じっくり観光しよう。
ワープを発動して行先リストを表示して、いつでも行けるから大丈夫と何度も頭の中で繰り返す。
【ワープ可能地点】
[異界][日本][その他]
※[異界-マルタ大陸]へ新しく《アリテアス》が追加されました
何もしないでここを離れることが名残惜しいと思い、広さだけでも測るために雷を広げようとしたら弾かれた。
結界みたいなものが張ってあるな……くそう。
後ろ髪を引かれる思いで輝正くんに行先を設定してからワープを実行した。
「このっ!! くるな!! なんて数だ!!」
輝正くんは大きな岩の上で周囲に群がる昆虫を必死に剣で振り払っている。
ワープをした俺が見たのは、片足を失った楠さんを守るために、輝正くんが昆虫を全力で切り倒しているという光景だった。
しかし、辺り一面の地面から出現する昆虫モンスターの圧力に剣1本で挑むことは無意味に感じる。
「クルゥー!!」
輝正くんの剣をすり抜け、後ろにいる楠さんへ鳴き声を上げながら昆虫モンスターが襲いかかる。
「白間くん!! 助けて!!」
「楠さん!!」
輝正くんは今にも首を食い千切られそうになっている楠さんを助けるために続々と周囲から迫りくるモンスターに背を向けてしまった。
それが仇となり、モンスターに足を取られた輝正くんはこけるように岩へ倒れ込む。
2人が昆虫モンスターに食べられそうになる直前に、俺は周囲へ雷の展開を終えることができた。
「把握完了。ちょっとごめんね」
この場にいるすべてのモンスターの神経を焼き切り、体の動きを止める。
岩の上にいる2人を回収してから、木の枝へ飛び乗った。
「ありがとう……澄人くん……助かったよ」
「グスっ……ヒッグ……」
安堵で胸を撫で下ろした腕の無い輝正くんとは対照的に、楠さんは涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになっている。
楠さんにはこの森には何度か来てもらっているものの、モンスターに食べられそうになるのは初めてなので仕方がない。
「治療をするね」
2人へ神の祝福を行ないながら、地面に転がっている大量の昆虫モンスターをフィノで焼却する。
完全に倒しきらないとアイテムボックスへ収集品が入ってこず、倒れているモンスターを食べるために新たな昆虫が出現するのを防ぐためだ。
「今日はもう帰ろうか」
治療とモンスターの処理を終えた俺は、この森にいる必要がなくなったので2人を帰すことにした。
今2人を帰せば、まだアリテアスを散策する時間はある。
そう思いながらワープの準備をしていたら、泣き止んだ楠さんが何かを言いたそうにこちらを見ていた。
「どうしたの?」
「澄人くん、
こんな体験をして楠さんがモンスターと戦うことが怖くなったと思っていたが、そんな感情よりも向上心が勝って、境界へ行きたいと志願してきた。
輝正くんも同じことを考えているのか、治った腕を確かめるように剣を振ってから俺と目を合わせる。
「わかった。いいよ、行こうか」
「ありがとう!」
ワープ先を境界の群生地へ設定しながら、アリテアスへ行くのは後日にしようと思い直した。
突入した境界で2人の神格が上がることはなく、戦利品だけを確保して出ることとなった。
清算が終わって家に帰る頃には夜になっており、お姉ちゃんに遅いと小言を言われながら食卓につく。
4人揃って食事をしていると、横に座る夏さんが俺の顔をじっと見つめてくる。
「澄人さま、国際ハンター会議の件は聞きましたか?」
「俺が招待されたんですよね? 平義先生から聞きましたよ」
「海外に行かれたことがないですよね……大丈夫ですか?」
「ヘレンさんたちも来てくれるそうなので、平気だと思います」
会議にも出たことがあるという3人と一緒なので、今回のことについてはあまり不安がない。
それに初めて戦い以外で海外に行くので、観光を楽しみたいと思っている。
「澄人、あなたも少しは英語で会話ができた方がいいわ。夏が話せるから、教えてもらいなさい」
『私と一緒に英語を勉強しましょう。すぐに話せるようになりますよ』
お姉ちゃんの言葉に夏さんが自信満々に胸を張って、俺に笑顔を向けてくる。
「はい。よろしくお願いします」
アラベラさんも学校におり、これから英語を使うことが多くなりそうなのでここは素直に言葉に甘えることにした。
返事をしてしばらくしても何の反応もなく、なにかあったのかと思って箸を止めて顔を上げる。
なぜかお姉ちゃんと聖奈が俺の方を向きながら目をぱちくりさせている。
「なに?」
「澄人? 今の夏が言った内容分かるの?」
「普通に話していたでしょ? …………え?」
普通にと言ってから夏さんと目を合わせたら、流石です澄人さまという感じで瞳がキラキラと輝いている。
これは俺が何かやってしまったときに見せる夏さんの反応だ。
「お兄ちゃん、夏さん英語で何かを言っていたみたいだけど……わかるの?」
『簡単な英語ならわかるのですか? これも聞き取れますか? 流石澄人さまですね!』
「わかりますよ。えーっと……アラベラさんたちのおかげで英語が耳に慣れたのかな?」
夏さんの口が日本語ではないにもかかわらず、耳で聞こえている内容の意味が頭へ明確に伝わってくる。
日本語に慣れていないアラベラさんと意思の疎通を図るためにコミュニケーション英語を入念に勉強していたが、効果が表れるのが早すぎる気がする。
身近に英語を使う人がいるだけでこんなに劇的に耳が慣れるものなのか?
できるようになったことが増えたにもかかわらず、なんだか納得がいかない。
「ちょ、ちょっと待っていなさい!」
お姉ちゃんが急に立ち上がり、焦ったように外へ出て行ってしまった。
車が出発している音が聞こえることから、どこかへ外出したようだ。
お姉ちゃんが中々帰ってこないので、食事を終えて部屋で勉強をしていると俺の部屋の扉が勢い良く開けられた。
『はぁい、澄人。英語が話せるようになったって聞いたけど本当!?』
『話せるじゃなくて聞き取れるようになりました』
『話せているわよ! 私たちのためにありがとう!』
ソニアさんが嬉しそうに部屋へ入り、椅子に座っている俺を力強く抱きしめてきた。
座っていた俺は胸に顔が埋もれて息ができなくなり、強引に引き離そうとしてもソニアさんに触れるのでためらってしまう。
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ご覧いただきありがとうございました。
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大変励みになります。
次の投稿は10月31日に行います。
次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
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