国際ハンター会議へ⑦~英会話マスター澄人?~

澄人の翻訳能力を判定するためにソニアさんたちが協力してくれております。

お楽しみいただければ幸いです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


『ソニア、澄人が苦しそうだぞ』


『だってー、こういうことされると嬉しくない?』


『まあ……そうだな……こちらと意見を交わす意思があると明確に示されるのは好感が持てる』


『また難しく考えて……頭が痛くなりそうだわ』


 ソニアさんが腕から力を抜きつつ、ヘレンさんを見ながら唇を尖らしていた。


 俺から意識をそらしたソニアさんの腕をそっと広げて、挟まれていた胸から離れる。


『澄人澄人澄人!!』


 ソニアさんたちの後ろでそわそわとこちらの様子をうかがっていたアラベラさんが満面の笑みで俺の手を握ってきた。


『澄人! これで普通にお話ができるね!!』


『俺は聞き取れるけど、他の人とも仲良くなってほしいから日本語の勉強はするんだぞ?』


『はーい、クラスメイトや部活のみんなともお話がしたいな』


 アラベラさんが俺の手を握ったまま、幸せそうに空を仰ぐ。


 急に現れたアラベラさんにそんな顔をされてしまい、俺はどうすればよいのか理解が追い付かない。


 そんな中、6畳ほどしかない俺の部屋へ5人目の入室者が遅れて現れた。


「ねえ、アラベラちゃん。今の澄人の言葉も聞き取れたの?」


「はい。英語で話をしてくれたので完璧です」


「いや……今のは日本語じゃなかった?」


「いいえ、英語でしたよ?」


 お姉ちゃんとアラベラさんが同じように首をかしげ、お互いにあれ? という表情になる。


 それを見たヘレンさんは親指と人差し指で軽くあごをなでて、眉をひそめた。


『澄人、私の言葉が聞き取れたら、何も言わずにアラベラの頭を撫でてやってくれ』


 突然女の子の頭を撫でるように言われて戸惑うが、ヘレンさんの鋭い目で見られたら恥ずかしさが消える。


 ヘレンさんの言葉が聞き取れてしまった俺は、おもむろにアラベラさんのサラサラな髪へ手を落とす。


『ひゃっ!? 澄人どうしたの?』


『いや、ちょっと……ヘレンさん、これでいいですか?』


 なぜかびっくりしたようにアラベラさんが肩をすくめ、ほんのり耳を赤くしながら俺の方を向く。


 まだだと呟きながら首を振るヘレンさんは、周りにいる人へ視線を合わせてから口を開いた。


『次はソニアを後ろから抱きしめてみろ。安心しろ、拒否はされないさ』


『キャッ♪ 次は私なのね?』


 俺が後ろから抱き付くと、恥ずかしさのかけらもないような声をソニアさんが出す。


 その声が妙に色気があり聞いた瞬間にドキッとしてしまった。


 手を離そうとしたとき、ソニアさんが意地悪そうな笑みを浮かべる。


『澄人もういいの? もっと抱きしめてもいいのよ?』


『止めておきます……アラベラさんと聖奈に睨まれているので……』


 近くにいたアラベラさんや、騒ぎを聞きつけて廊下にいる聖奈が険しい顔をこちらへ向けていた。


 その後も理由を聞けることなく、ヘレンさんから簡単にできそうなことを数回やらされた。


 不思議と周りの人たちは俺とヘレンさんがやっていることに疑問を持たず、積極的に俺へ協力する。


「澄人、はっきりと言うが、キミは英語だけじゃなく、多種多様な言語を扱えるようだ。心当たりはあるか?」


 俺の部屋から居間へ移動して座った途端、ヘレンさんが信じられないといった表情で淡々と口を開く。


 ヘレンさんは俺への指示をすべて違う言語で行ない、聞き取れるかどうか試していたらしい。


 こんなことでヘレンさんが嘘を付く意味がなく、周りにいるお姉ちゃんたちも同意するようにうなずいていた。


 そこまで検証がされて出た結論なので、俺は自分の身に起こったことを振り返る。


 あ……まさか……。


 アリテアスを見つけた衝撃で忘れていたことだが、あるスキルを習得したと画面に出た記憶がある。


 ステータスのスキル欄で本当に習得したのか確認をしてから口を開いた。


「たぶん、翻訳というスキルのせいだと思います」


「翻訳? そんなスキルがあるのか?」


「今日異界で取得してきました」


「言うのも聞くのもできるスキルか……すごいな……」


 呆れるように笑うヘレンさんは、首を振りながら漏らすように声を出した。


 この翻訳というスキルの難点として、相手がどの言語で話をしているのか、わからないということがある。


 今のヘレンさんの話も、日本語なのか英語なのか俺には判断がつかない。


「いいなーお兄ちゃん……私も英語を勉強しているけど、さっぱり意味がわからないのに……」


 聖奈が妬ましそうな目を俺へ向け、英語がまったく理解できないと嘆いていた。


 今度英語を入念に教えてあげようと心へ刻んだものの、頭ではアリテアスのことばかり考えてしまう。


 あの都市は地方なのか中央なのか……あんな森の近くにあるから、あんなに防衛能力が高そうなのか?


 一度は自分を納得させることができたが、だんだんと異界へ行きたい気持ちが高まってくる。


 どうにかして時間を作れないかな?


 ソニアさんたちが来る前にも少し調べて、異界に人がいるという情報は全く出てこない。


 サラン森林を走っている時以上に未知の領域へ踏み込んでいるという実感が湧いてくる。


「ねえ、澄人。あなたはどうするの?」


「どうって……俺は異界を探索したい」



「そんなこと聞いてないでしょ? 会議よ会議、どんな話をするのか決めているの?」


 ヘレンさんたちと国際ハンター会議について話をしていたお姉ちゃんが、俺へ話題を振ってきたようだ。


 先生からも招待されたハンターは会議の檀上に上がって話ができると聞いていた。


「二つ名が欲しいって言おうと思っているよ」


「へー、どんな?」


「まだ時間があるから考え中だよ」


 アラベラさんたちが帰ったあと、布団に潜り込んだ俺はどうしようもなく異界へ行きたくなっていた。


 体の芯で熱が疼き、何もしていないのに心臓が力強く鼓動を刻む。


 行こう! 朝までに帰れば問題ない!


 夜が更けているが、蛍光灯をつけたら万が一ということがあるため、月明かりを頼りに着替えを済ませた。


 深呼吸をしてからワープ画面を開き、異界のアリテアスを選択する。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

もしよければ、感想、フォロー、評価、待ってますので、よろしくお願いいたします。

大変励みになります。


次の投稿は11月3日に行います。

次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

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