楠瑛の決断~澄人くんの戦い~
澄人たち3人の戦いが行われます。
楠瑛視点で物語が進行します。
お楽しみいただけば幸いです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
私が歩くことで精一杯だった異界探索を終えてから時間を置かず、聖奈と朱芭が澄人くんへ戦いを挑んだ。
ミス研の部員は誰に言われたわけでもなく、全員が地下の競技場へ向かう3人の後ろを付いて歩く。
私も例に漏れず付いていこうとしたが、足が言うことを聞いてくれない。
一杯一杯だったのね……私がハンターとして活動なんて夢のまた夢よ……。
一緒に突入した全員の姿が見えなくなり、私は力が抜けて部室の前でへたり込んでしまう。
「楠、これをゆっくり飲め」
「ひら……ぎ先生……ありが……とう……ござい」
差し出された回復薬を見ながらお礼を伝えようとしたら、最後まで言い切れずに私の言葉は掠れて消えてしまった。
気にするなという平義先生から回復薬を受け取り、呼吸を整える。
「肩を貸すぞ? お前も競技場へ行くんだろう?」
「自分の足で向かいます……少し休めば大丈夫……です」
異界や境界に入ったあとの独特な倦怠感は数日休むことでようやく抜けてくる。
最低でも今日はこの重い体を引きずって生活をしなければならないため、歩くくらいで人の手を借りることは甘えだ。
なんとか競技場へ向かおうとしている先生の横を通り過ぎるように歩くと、複雑そうな顔をする平義先生が私のペースに合わせて廊下を進む。
こんな時だからこそ、私は以前から平義先生へ聞いてみたかったことを口にすることにした。
「先生、本当に澄人くんはハンターになってから1年程度しか経っていないんですか?」
「ああ、そうだ。あいつがハンターになったのは中学3年の夏だ」
「そうなんですか……」
草凪家だけに神格の上限を上げる方法があれば、澄人くんがハンターにならないように突き放した境遇にはしないだろう。
それを頭で理解しているから、私は彼の言った言葉があの日から忘れることができない。
『従者になれば神格の上限が上がって、ハンターとして活動できるようになる』
澄人くんの手足となって働くことで、私のハンターとしての能力を上げるという彼からの提案。
最初は断ったが、こうしてミス研の活動やハンターとして活躍する人の話を耳にするたびに悩んでしまう自分がいた。
あの提案を受け入れていればどうなっていたのかはわからないが、少なくともこうしてみんなに置いていかれることはないはずだ。
「楠、足元に気を付けろ」
競技場に向かう地下への階段に着くと、先生が立ち止って私の足元を心配してくれている。
階段を一歩一歩確かめるように降り、競技場への入り口が見えてきた。
壁沿いに部員が並んで、思い思いに中央の競技場にいる3人へ視線を注いでいた。
「普通に戦えば澄人が勝つ……聖奈と朱芭には秘策でもあると思うか?」
周囲に誰もいない壁沿いに腰を下ろした私の横に先生が立ち、3人の戦いがどうなるのか質問をしてくる。
正直、あの3人は日本にいる高校生ハンターのトップ3だ。
あくまでも、交流戦で集めたデータから推測した私の考えだが。
「予想ができません。聖奈と朱芭はそれぞれのギルドで異界に突入していることが多いですから。先生が朱芭を見ているんですよね?」
ああ、とだけ短く返事をした先生はそれ以上何も言わずに、競技場に立つ3人をじっと見つめる。
先生からはなにも情報を得ることができなさそうなので、私は私の知っている知識でこれから起こることを予想してみることにした。
聖奈と朱芭に関しては、過去のデータと照らし合わせるとまだ同じレベルに達している人がいないこともない。
しかし、澄人くんに至っては高校生とかそういうレベルではなく、日本国内でも上から数えた方が早いレベルの強さを有していると私は思っている。
「聖奈、朱芭さん。そろそろ始めてもいい? 相談は終わった?」
手に何も持っていない澄人くんは、完全武装している2人へ笑顔で話しかける。
競技場でずっと話をしている2人が剣を持っていない方の手をパァンと軽く鳴らす。
「お待たせお兄ちゃん。やろう」
聖奈、朱芭が剣を構えて澄人くんの様子をうかがい、ここからでもわかるほど空気が張り詰める。
そんな彼女たちが正面にいるにもかかわらず、彼は残念そうにため息をつく。
「2人はどんな相談していたの? 俺にこれだけ間を与えるんだ……闇よ、2人を捕えろ」
澄人くんが失望した教師のように首を振った瞬間、聖奈と朱芭の瞳から光が消えた。
どんな戦いが繰り広げられるのだろうと期待していた私たちは、それを見ただけで勝負が付いてしまったと【あれ】を体験した部員は悟ってしまった。
皇立高校の生徒が澄人くんの闇に捕らわれて、精神を破壊されるまで追い詰められた。
あの人たちのほとんどが、闇が解除されてからも戦うことが怖くなり、暗い場所で過ごすことができなくなったという。
「さて、2人を場外へ飛ばせば勝負ありかな?」
つまらなそうに澄人くんがゆっくりと2人へ近づいて、聖奈の剣を持っている手を掴もうと腕を伸ばす。
「ハァアアア!!」
「嘘だろう!?」
「そこぉ!!」
澄人くんの魔法で何も感じないと思っていた聖奈が手を掴まれる前に剣を振るい、彼を大きく仰け反らせる。
同じように朱芭も見えてはいないはずの澄人くんに対して、明確に剣を突き刺すように体を動かしていた。
あの2人には澄人くんの魔法が解けたのかと思ったが、どうもそうではないらしい。
距離を取った澄人くんに対しては追撃をせず、2人は周囲を警戒し続けている。
闇が解けたわけじゃなくて……5感以外の別の感覚で体を動かしているの?
そんな2人を見て澄人くんが驚きの表情になり、腕を組んで考え込む。
「すごいね2人とも、闇を克服したんだね」
「私と朱芭は夏さんに魔力の操作を教わって、感覚に頼らない戦い方を発見したの」
魔法を解除されたのか、聖奈が澄人くんへ言葉を返し、朱芭と視線を合わせる。
満足気に首を縦に振る澄人くんは、両手を広げて手のひらを下へ向けた。
「なるほどね……じゃあ、全力で戦おう」
澄人くんが笑ったと同時に、競技場に雷の嵐が吹き荒れ、バチバチという音がこの空間全体に反響する。
大きくうねる太い雷が龍のように2人へ襲いかかる。
「チェリャアアアア!!」
「ふっ!!」
聖奈が頭上に掲げた剣を大きく振り下ろすと龍が飛散し、朱芭さんが周囲の雷を一掃した。
「朱芭合わせて!! いくよ!!」
「ええ、いって聖奈!!」
朱芭さんが作った道を聖奈が滑走し、澄人くんへの距離を一気に縮める。
人間がここまで早く走れるものなの?
目では追いきれないほどに早い聖奈の後ろに疾風が発生し、残像が赤を纏っている。
赤い線は競技場内を縦横無尽に走り回り、飛散する雷を蹴散らす。
「草凪流奥義!!
いつの間にか上空に上がっていた聖奈が叫びながら澄人くんへ剣を振るう。
剣から斬撃が飛び出し、巨大な刃となって澄人くんへ向かっていく。
「なんだそれ!? クッソ!!」
言葉とは裏腹に嬉しそうな澄人くんは、避けるために展開していた雷を止めて聖奈の攻撃を避けるために宙へ飛ぶ。
その瞬間、今まで姿を隠していた朱芭が澄人くんの真下に現れる。
「閃光一閃!!!!」
「紫電一閃!!!!」
輝く光の一閃が黄色い
戦いに夢中になっていた私は耳を塞ぐことを忘れ、3人の姿を目に焼き付けていた。
私は……聖奈たちに付いていけるように……ハンターとして強くなるために、澄人くんの従者になる。
そう決断し、私は3人の戦いを忘れないようにじっと見つめていた。
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ご覧いただきありがとうございました。
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次の投稿は10月22日に行います。
次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
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