国際ハンター会議へ③~ゲート前で待機任務にあたる~

ミス研の部員が異界に突入している間、澄人が平義先生と2人きりで話をしています。

お楽しみいただければ幸いです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 みんなが異界へ突入していくのを見送り、俺は後ろに立っている先生と向き合う。


 これまで先生と過ごしてきて、これから起こることが何となく想像できるため緊張はない。


「何かお話があるんですか? こんなふうに俺と時間をとる時は大体ハンター協会が関連している内容ですよね?」


「まあ、合っている。これでも飲みながら話をしよう」


 予想通りに先生は俺と2人っきりで話がしたかったようなので、缶コーヒーを受け取りながら近くの地面へ腰を下ろした。


 もらった缶コーヒーのプルタブを起こして、飲み始めると先生が口を開く。


「若草ギルドが先週解体された。それに伴い、お前に要請されようとしていた内容も白紙になる」


「あー、あの烏合の衆ギルドですか……安い境界ばかりに突入していて、何がしたかったんでしょうね」


 あの事件以降、若草ギルドについては本当になにがしたかったのかわからない集団で、そんなところへ所属するように要請されるという話は本当に謎だった。


 先生は確かにと言いつつ笑みを浮かべてから、ふーっと迷いながら息を吐く。


「それは当人たちしか分からないことだな。それとは別件で、お前に《要請》されていることがある」


「なんでしょう?」


「清澄ギルド所属の草凪澄人が年末に開催される国際ハンター会議へ招待されている」


「国際ハンター会議……ですか。隠していることはありませんけど、境界適応症のことを聞かれそうですね」


「その治療法が評価されて、今年度の会議に招待されたようだ」


 国際ハンター会議に出られる一般ハンターは招待されている人だけなので、先生は出席できない。


 現在の規定で平義先生は強いだけのハンターという評価となっており、国際的な評価が皆無だ。


 俺も能力はキング級だが、レッドラインを単独攻略など強さの誇示することしか公にはしていないため、二つ名がつけられることはなかった。


 逆に新しく清澄ギルドへ入ってきた3人は、強さがビショップやルーク級にもかからわず、能力が認められて二つ名が付いている。


「あの3人も二つ名枠で出席する。知り合いがいてよかったな」


「こんなことを聞いて良いのかと思うんですが、先生ってキング級になって長いのに二つ名は付いていないんですか?」


「……俺は《普通》のキング級だからな。他のハンターと比べて、なにか突出してこれができるとか……俺でも思いつかん」


「それなら、他のハンターにできないことがあれば二つ名が付くわけですね」


「そういうわけだ。それがあればキング級じゃなくても、アラベラのように二つ名が付けられる。今回の会議ではお前の二つ名についても話し合われるかもしれんな」


「そうですか……二つ名が付くと面倒事が降りかかってきそうですね」


 ソニアさんたちは能力的に後方での支援任務が多かったそうだが、少なからず二つ名ハンターとしての活動義務があるようなことを言っていた。


 また、国際ハンター会議では二つ名ハンターの活動方針なども話し合われるため、彼女たちが出席できるのだろう。


 俺にも二つ名が付けられたらなにかやらされるのかな……。


「それもそうだが……澄人、会場ではお前のやりたいようにしろ」


「いいんですか? こんな風に時間を取るくらいなので、てっきり大人しくしているように釘を刺されるかと思っていました」


「会長はそうするように俺へ頼んできたが、お前は思う通りに行動してくれ」


「そう言われると……理由をうかがえますか?」


「会長が正澄さまを補佐していたとき、振り回されて何一つ止められなかったらしい。その教訓で、俺へ澄人を止めるように言ってきたんだが、俺はお前に振り回されるのは嫌いじゃない。澄香や夏澄も同じ意見だ」


 先生はそう言い切り、持っていた缶コーヒーの中身を一気に飲み干す。


 俺も開けっ放しになっていた缶コーヒーを口に含み、異界ゲートを眺める。


 会議で好きでいいと言われたが、あまり場を乱すようなことはしたくない。


 会議場では、自分がどんな発言をするのか慎重に言葉を選ばなくてはいけないだろう。


「澄人、帰ってきたようだ」


 ボーっと眺めていた異界ゲートが大きく揺らめいており、突入していたみんなが帰ってこようとしていた。


 先生は重そうに腰を上げ、スチール缶を握りつぶす。


「会議は今年の12月で、1カ月以上猶予がある……まあ、ヘレンに任せればスムーズに事が進むだろう」


 頑張れよと俺の肩を叩いた先生の背中がいつもとは変わらないはずなのに、なぜか小さく見えてしまった。


 その姿を見ていた今度は俺が先生と話をしたくなり、声をかけようとしたら異界ゲートが光を放つ。


「平義先生、ただいま帰りました。負傷者0です」


「わかった。詳しい報告は部室でしてくれ」


「はい……ちょっと、先にお話ししたいことが……」


「どうした?」


 最初に異界ゲートから出てきた天草部長が先生へ全員が帰還してくるという報告をしていた。


 ただ、いつもなら先に部室へ戻って報告会の準備をする天草部長が立ち止って先生へ何か小声で話をする。


 そうしているうちに続々と異界から部員が帰ってきており、なぜか全員が一度は俺の方を見てきていた。


 今回の異界探索でなにがあったんだ? ……アラベラさんが何かをしたのか?


 俺は何もしていないので身に覚えがなく、何かあるとすればアラベラさん関連だろう。


 そう考えを巡らせていたら、ゲートから聖奈たちがアラベラさんと一緒に出てきた。


「ねえ、スミト。あなたはこの2人よりも強いんだよね?」


「アラベラさん急にどうしたの?」


「ううん。私のことをみんなが守ってくれるっていうんだけど、一番強いスミトにお願いしたいの」


「あー……なるほどね……」


 異界内で支援役のアラベラさんを誰が守るのかという話題になり、部員間の空気が悪くなってしまったようだった。


 特に男性部員からの視線が強く、俺のことを妬ましく思っていそうな雰囲気だ。


 アラベラさんの能力は直接触れている相手を回復するもので、彼女が芸能人勝りの美人であることから意識しない異性はいないだろう。


 この場を収めるためにアラベラさんへ俺以外の候補を提示して、納得をしてもらう必要がある。


「俺以外にも聖奈や朱芭さんみたいに強い人がいるよ」


「一番じゃないでしょ? それに私はスミトがいいの」


「うーん……俺はあまりミス研の活動に必ず同行するわけじゃないから……」


「それなら私も行かない。スミトがいる時だけ異界へ行く」


 アラベラさんはずいずいと俺へ詰め寄り、至近距離で顔を見上げてくる。


 さらに周りにいる部員にも会話が聞こえてしまい、更に空気が悪くなっていた。


 特に聖奈や朱芭さんが不機嫌そうに、俺とアラベラさんの話を聞きながら顔をしかめている。


 アラベラさんを連れてくるべきじゃなかった!


 俺が後悔を心で叫んだとき、アラベラさんを俺から引きはがすように誰かが腕を伸ばしてきた。


「ねえ、お兄ちゃん。さっきから自分が私よりも強いって連呼してるけど、勝負から逃げているのはお兄ちゃんだよね?」


「私はまともに戦ったことがありません。何度かそんな機会があっても、途中で止められてしまいました」


 今度はアラベラさんの代わりに聖奈と朱芭さんが殺気を放ちながら俺の前に立ちふさがった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

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大変励みになります。


次の投稿は10月19日に行います。

次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

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