国際ハンター会議へ①~海外より転入生来たる~

10月になり草根高校1年Aクラスに転校生がやってきました。

お楽しみいただければ幸いです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ようやく抗争戦の処理が落ち着き、10月になってようやく草根高校に平穏が戻ってきた。


 今日も朝からライフミッションで落ち葉をひたすら集めた俺は、グラウンドにまだまだ落ちている目標物へ目を向ける。


(学校にも落ち葉があるな……キロ単位で集めろとかどれだけきれいにさせたいんだよ……)


 毎日欠かさずこなしている日課は、登校前に1回目を終わらせるようにしていた。


【ライフミッション3:落ち葉を10キロ集めなさい】

 成功報酬:貢献ポイント2000

 注意:アイテムボックスへ収納しなければカウントされません


 最初は1キロだったものが、3になった今では10キロ集めろと指示が出ている。


(今日は異界に突入する予定もないから、どこか適当な山にでも行って落ち葉と境界を見つけようかな……)


 教室の机で頬杖をつきながら放課後の予定を考えていたら、平義先生が教室の扉を開けた。


「えー……なんだ……このAクラスに転入生がきました」


 教壇に立った先生はそう言いながら俺と目を合わせ、声を出さずに「頑張れ」と口の動きで伝えてきた。


「入ってこ……ちょっと待ってろ」


 転入生に中へ入るように指示をしようとした先生は、途中まで言ってから廊下へ出ていく。


 俺たちには見えない廊下の向こうへの手招きをした先生を俺たちは静かに見守っていた。


「ねえ、澄人くん。転入生だって、誰だろうね?」


 隣の席の紫苑さんも俺と同じように先生の背中を眺め、突然の出来事を楽しんでいる。


 他のクラスメイトも近くの席の人と誰が転校してきたのか意見を交わす。


「それじゃあ転校生が入ってくる。みんな拍手で迎えてやれ」


 立花さんが転校したときにはこんな優しい言葉を言わなかった先生が、今回は廊下にいる生徒へぎこちない笑顔を向けながら俺たちへ拍手をするように催促をしてくる。


「うそでしょっ!?」


 廊下側に座る水守さんがその生徒の姿を見て驚愕するような声を上げたあと、思いっきり拍手を始める。


 水守さんの急変した様子から、どんな人が来たのか想像をしてしまう。


「こっちだ。入りなさい」


 拍手の鳴る中、平義先生にうながされて短い金髪の美少女が教室へ入ってきた。


「失礼……します……」


 少しイントネーションがおかしい小柄の少女は草根高校の制服に身を包み、スカートを揺らめかせて歩く。


 少女が教壇に立って青い瞳で俺たちを眺めてから、不安そうに持っていた紙をチラリと見る。


「アラベラ・マーシュです。イギリスから来ました」


 自分の名前と国名を流暢に発したアラベラさんはここで一礼し、深呼吸をしてからもう一度口を開く。


「まだ、日本語が少ししか分かりませんが、どうか仲良くしてください」


 アラベラさんが挨拶を終え、Aクラスの教室は歓迎するように拍手に包まれる。


 挨拶が終わって満足そうなアラベラさんは拍手を向けられて、ありがとうございますと何度もお礼を口にする。


 入室してくるよりも音が大きく、俺も拍手をしながら先生の伝えたかったことを悟った。


「なるほど……」


 清澄ギルドへ新たに加入した中で一番ハンターに影響力があるのは、《アラベラ》さんだろう。


 そんな彼女が草根高校へ編入したことで、何か起こることは間違いない。


(先生はその対応をしろってことか? いや……アラベラさんを守れって意味かも……)


 ソニアさんたちが清澄ギルドに加入したことはその日のうちにヘレンさんが全世界に向けて発表した。


 今まで一時的にしかギルドへ所属していなかった3人が正式なギルド員として清澄ギルドへ加入したことの反響は大きく、多数の国やギルドからギルドへ連絡がきた。


 その処理を夏さんとヘレンさんが行なってくれて、最近ではようやく1日に10件程度まで収まっている。


 その中でも、境界適応症にかかっていたアラベラさんがハンターとして復帰して普通に活動していることは問い合わせが特に多く、中にはレンタル契約をさせてもらえないかと持ちかけてくる人もいた。


(あのスキルを持つアラベラさんには、境界に突入する時に必ずいてもらいたい)


 触れている人がどんな状態でもアラベラさんの魔力が続く限り回復する《癒しの手》。


 自分の病気以外を治せる彼女は、ハンターではない人からも需要がある。


(癌や欠損の治療ができる数少ない支援系ハンター。それがアラベラさんだ)


 そんな彼女に治療してほしい人の中にはこちらを脅してくるような人もいるため、身辺警護を行なう人は必須であり、境界適応症発病前は満足に1人で外出もできなかったらしい。


「アラベラの席は……」


「スミトの横が良いです」


 アラベラさんの席をどこにしようか悩んでいた先生の言葉を遮り、妙に英語チックな発音で俺が指名された。


 俺の座席は後ろの席の窓側なので、前列に5人いることを考えればアラベラさんの机を置く余裕はある。


「それならそれでいいな。空いている机を澄人の横へ移動してくれ」


「窓側が良いので、アラベラさんは俺の右側でお願いします」


「わかった。好きにしろ」


 俺は教室の後ろに置いてある机を自分の横へ持っていく。


 後列に座る紫苑さんたちも自分の机を動かし、もう一つの机が入るように融通をしてくれている。


「アラベラさん、どうぞ」


「ありがとう、スミト。あなたは優しいね」


 青い瞳で見つめられながら、人形のような美少女に笑顔を向けられて、大したことをしていないのに恥ずかしくなってきた。


「じゃあアラベラ、座ってくれ。HRを始めるぞ」


 アラベラさんが持っていた手荷物を机に乗せてから椅子に座ると、Aクラスが10人揃って朝のHRが始まった。


「今日の予定は特にない。通常日課だが、2週間後にはテストがある気を抜くなよ」


 平義先生がいつものように連絡事項をつまらなそうに口にし、言い終わって教室を出ていく。


「ねえ、アラベラさん。放課後なにか予定ある?」


 紫苑さんが椅子から身を乗り出し、アラベラさんを何かに誘おうとしていた。


 しかし、アラベラさんは人差し指を顎に当てて、困ったように首を少しかしげる。


「ホウカゴ? ホウカゴって何ですか?」


「えっと……真友ちゃん、パス!」


「ひぇ!?」


 戸惑った紫苑さんから急に話を振られた真友さんが息を飲んで高い声を上げた。


「ア、アフタースクール。予定……予定? んー、スケジュールフリー?」


 咳払いをして落ち着いた真友さんが片言の英語を使いつつ、アラベラさんと意思疎通を図ろうとしていた。


(1ヵ月でここまで日本語を使えるようになっていてすごいな……熟語を使わないようにすれば話ができそうだ)


 なんとか1時間目が始まるまでの時間で、アラベラさんへ放課後に学校案内するという予定を伝えることに成功したらしい。


 その案内する中には俺も含まれているらしく、真友さんから勝手にいなくならないでほしいと釘を刺されてしまった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

もしよければ、感想、フォロー、評価、待ってますので、よろしくお願いいたします。

大変励みになります。


次の投稿は10月13日に行います。

次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

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