ハンター協会役員平義朱澄~ハンター協会定例役員会にて~

澄人のギルド移籍について話が行われる役員会の様子です。

平義視点で物語が進行します。

お楽しみいただければ幸いです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 澄人のことが議題に上がる役員会が始まり、着々と議事が進行している。


 今回は定期的に開いている役員会なので、議題の内容の確認を行うだけで特に進行を妨げることが無い。


(ここまでは順調だな)


 いつもの定例会にはない最後の項目までもめることなく会議が進んだ。


「それではまず、皇立高校と草根高校の抗争戦の件だが……平義、報告を」


「はい」


 会長が抗争戦の当事者である俺を指名したため、立ち上がって資料を手に取る。


 詳細については配布されているので、俺は書かれている文章を簡潔に読み上げるだけだ。


 皇立高校の奇襲が失敗し、逆に敷地を更地にされたことを説明する。


「皇立高校が所有していた異界ゲートの管理権が草根高校へ譲渡されました。以上です」


 報告を終えて席に座り直した俺へ武正が睨むように視線を飛ばしてくる。


 ギルドハウスでの妨害行為で俺と会長を草根高校から離していたことを考えると、こいつも何かしら関与しているに違いない。


「使えない異界ゲートの管理権をもらって何をしたいんだろうな」


「次の議題のため言わないでおいたが、先日、異界側から封鎖されていた2カ所のゲートの開通を確認した。今は3ヶ所すべてが使えるようになっている」


「はぁ!? そんなに都合良く!? 封鎖も草根が行なったんじゃないのか!?」


「その意見もごもっともだ……会長、例の件を報告してもよろしいですか?」


「話題に上がったからな……今言わないのもおかしいだろう。許可する」


 俺はスクリーンのそばに立ち、係りの者へ合図を出して用意していた資料を映し出す準備をしてもらう。


「今ビショップ級以上のハンター10名である物の精査を行なっている」


「なんだそれは?」


 顔を赤くしている武正が俺へ突っかかってくるため、資料が映し出された瞬間にこれだと示しながら口を開く。


「草根高校ミステリー研究部が異界ゲートを出た先にある大陸の全容を記した地図を作製し、ハンター協会に提出した」


「なんだと!?」


「もちろん、地図には3か所の異界ゲートの場所が記されている。精査が終われば配布をする予定だ」


 詳細な異界の地図がスクリーンに映し出され、このことを知らなかった役員全員の目が釘付けになる。


 異界の地図は様々なハンターが数百年にも渡って作ってきていたが、ここまで広域で詳しい物はなかった。


(こんな地図は見たことが無い。異界へ入れる時間も決まっていて、地図の情報を機密にしているところだってあるのに)


 おそらく今初めて地図を目にした者は、自分が知っている地形と相違が無いか思い出していることだろう。


 その手に入り難い地形の情報を澄人は独自にすべてを調べ、今回すべてを開示をしている。


「この地図を作る過程で草根高校の生徒が2カ所のゲートを発見し、異界側から開通させたんだ」


「ふ、ふざけるな! こんなタイミングでおかしいだろう!!」


「何がおかしいんだ? 異界ゲートを開通させるように要請したのはこの役員会だぞ? それに従ってくれただけだろう?」


 ゲートの管理権が移った翌日に開通したということを言えば、武正はもっと憤慨するだろう。


 武正が先に文句を口にしてくれたおかげで、俺が説明したいことがほとんど終わった。


 会長へ視線を送り、目を合わせて小さくうなずく。


「以上が草根高校からの報告だ。詳しい内容は精査をしているハンターの報告が終わってから行う」


 会長が地図の議題を終わらせると、武正が思いっきりテーブルに手を叩きつけながら立ち上がった。


「会長! 草凪澄人を若草ギルドへ加入させる件についての審議をお願いします!!」


 武正は今が役員会の最中であることを忘れているのか、ものすごい剣幕でまくし立てる。


「それだがな……審議は一旦保留とする」


 そんな武正を一蹴するように会長が言い放つと、武正は発狂したように頭を抱えて叫ぶ。


「どうしてですか!? 草根市にいる数百人のハンターが希望していることなんですよ!?」


「清澄ギルドの草凪澄人が数年ぶりに日本から国際ハンター会議へ招待された」


「なんですって!? それなら影響力を強めるために早く若草ギルドへ――」


「武正、聞こえなかったのか?」


 睨むだけで武正を制止させた会長は、俺へ動くなという合図も同時に出していた。


 会議室の空気が張り詰めたようにシーンとなり、誰も物音を立てることが出来ない。


「もう一度言うが、清澄ギルドの草凪澄人が会議に呼ばれているんだ。今、ギルドを変えることはできない」


「そんな……馬鹿な……」


 そんな中、言われた会長の言葉に、さすがの武正も取り付く島もないとわかったようだ。


「お前の言う影響力だが、二つ名のハンターが3人もいるギルドよりも高いのか?」


 畳みかけるように澄人が若草ギルドへ移籍する理由を聞く会長は更に言葉を続ける。


「境界適応症の治療方法を無償で公表した清澄ギルドへの関心は日に日に高くなっている。それでも草凪澄人を何も実績のない若草ギルドへ移した方が良いという納得のできる理由を教えてくれ」


 会長の質問へ何も反論ができない武正は単語しか言葉を絞り出せずにいる。


「意見が無いなら座れ。これ以上議論することはないだろう」


「……はい」


 完全に失意の底に落ちた武正は力なく椅子へ腰を下ろし、うつむいたまま動かなくなった。


 武正から目を離した会長は、他の役員へ目を配り、空席となっている白間委員の席を見ながら口を開く。


「最後に、白間委員の件だが、役員を辞任するという連絡を受けた。その後、辞任届をわしが受理し、理事会へ報告を行なった。本人の希望もあって、事後報告とさせてもらった。以上で定例役員会を終了とする」


 会長が役員会の終了を宣言し、他の役員が席を立って会議室を後にしようとする。


「平義、武正、残ってくれ」


 失望してまだ椅子に座っていた武正に会長が近づき、俺たち以外の役員が退出するのを待った。


「武正、わしの目を見ろ。一度しか聞かんぞ?」


 俺たちだけが会議室に残されると、おもむろに武正の胸ぐらをつかみ、会長は凄みを利かせる。


「な、なんですか?」


 そんな会長の威圧に堪え切れられない武正は、怒られている子供のように怯える表情になった。


「おぬしが境界適応症の患者や家族に澄人へ境界適応症を優先的に治療させると言って、様々な要求をしたということを聞いたが本当か?」


「会長、私はっ!」


「武正!! この期に及んで言い訳など聞きたくない!!!! 証拠は揃っているんだ!!!!」


 武正が境界適応症の患者たちへ便宜を図ると近づき、身勝手な要求をしていることが判明した。


 最近、清澄ギルドへ加入したソニア・マーシュが武正に要求されたのは、【一週間お前のことを俺の好きにさせろ】など到底ゆるされることのないものだった。


 他にも武正にそそのかされてギルドハウス前に来ていた境界適応症の患者へ聞き取りを行ったところ、事実が確認できた。


 それを突き付けられた武正は顔から生気が無くなり、目が虚ろになる。


「悪質な職権乱用でお前を役員から解任する。また、無期限のハンター資格の停止だ。わかったな?」


「……はい」


「もう行け。反省をするなら態度で示せ」


 俺と会長はふらつきながら退出していく武正を見送った。


 普段温厚な会長が激怒したことに俺も少なからず動揺しており、誤魔化すために話題を振った。


「それにしても国際ハンター会議ですか……また何かが起こりそうですね」


「正澄さまも行くたびに厄介事を抱えて帰ってきた……澄人の場合はなにを持ち帰ってくるか楽しみじゃの」


 はっはっはっと笑う会長を見て安心した俺は肩を撫で下ろすと同時に、澄人が何事もなく会議から帰ってくるように釘を刺しておくことを決意した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

もしよければ、感想、フォロー、評価、待ってますので、よろしくお願いいたします。

大変励みになります。


次の投稿は10月10日に行います。

次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

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