清澄ギルドの今後⑮~ガゾンカルムへ入店~
澄人と聖奈がガゾンカルムへ入店しました。
お楽しみいただければ幸いです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「皆様は2階でお待ちです」
外まで出迎えに来てくれた女性の店員さんがどうぞと、俺と聖奈にお店の奥へ行くようにうながしてくれた。
並んでいる店員さんたちの前を通ってお店の中を進み、階段で2階へ上がる。
部屋に着くと背丈の高いかっこいい女性の店員さんが丁寧に扉を開けてくれた。
中には5名の姿があり、俺と目が合ったソニアさんが手を振る。
「スミト、今日は来てくれてありがとう」
なぜか、ソニアさんたちは俺と聖奈の格好を見ても当然のように受け入れてくれていた。
「どういたしまして……みんなこの格好でも驚かないんですね」
部屋の中では、お姉ちゃんたちがソニアさんとヘレンさん、アラベラさんの3人と向かい合うように座っている。
みんなこのお店に合うようなドレスを着ており、聖奈がソニアさんの落ち着いた感じの赤いドレスに目を奪われていた。
いつまでも立っている俺たちを見て、ヘレンさんが軽く微笑み、空いているお姉ちゃんたちの横の席へ手を差し向ける。
「立っていないで座ってください。2人の服装についてはこのお店の歴史で知ったので気になさらないでください」
「歴史……ですか?」
俺と聖奈はお姉ちゃんたちの横に座り、ヘレンさんの言葉を待つ。
「草凪正澄さんとガゾンカルム……このお店は年に一度だけ曜日に関係なく休む日があり、草凪ギルドが使用していたようです」
「草凪ギルドが?」
「ええ。私たちは師匠から直接聞いたから間違いないわ」
お姉ちゃんはヘレンさんの言葉にうなずきながら、俺と聖奈を眺める。
草凪ギルドがこのお店の関係があるからといって、俺には歴史と服装の関係がまだみえてこない。
「それとこの服装になんの関係が?」
「草凪ギルドのみんながこのお店でも緊張しないように正澄さまと澄広さんがアロハシャツを着ていたようです」
横に座る夏さんが、このアロハをじいちゃんが着ていたことを教えてくれた。
「この服装をじいちゃんが……」
「澄人、食事の前にちょっとこの人たちと話をさせてね」
服装についての話が終わると空気がヒリつき、妙な緊張感が漂う。
話を切り出そうとするお姉ちゃんはテーブルの上で手を組み、眉をひそめた。
「それで、これはどういうことですか? 澄人たちが着いたら説明してくれるんでしたよね?」
お姉ちゃんはソニアさんたちに対して少し怒っているような口調で話を始める。
そのお姉ちゃんの顔を見ているのにもかかわらず、ソニアさんは弾けるような笑顔になる。
「スミトには境界適応症にかかっていたアラベラを救ってくれたの。それ以外に理由なんてないわ!」
「……えっ? それだけの理由であなたがこのギルドへ?」
ソニアさんの天真爛漫な態度を見て、お姉ちゃんが毒気を抜かれたように言葉を漏らす。
「あなたにとってはそれだけと思うことでも、私にとっては自分の人生を賭けていたことなの。それで十分よ」
演技だったかと感じるほどに凛とした表情に変わるソニアさん。
その振る舞いに呆気に取られていると、ヘレンさんが咳ばらいをして注目を集めた。
「調べたところ、清澄ギルドは現在7人で活動しているようですね」
「え、ええ、そうよ」
「活動実績に比べて人が少なすぎます。境界突入の事務処理や物資の整備、色々と後手に回っていることが出ていると思うのですが違いますか?」
ヘレンさんが指摘してきた作業を一手に引き受けている夏さんが苦虫を噛み潰した表情で下を向く。
俺にも身に覚えがあり、境界を観測したときのデータ処理が追い付かず、探すのを待ってくれと言われたことがある。
「水上澄夏さんが悪いわけではありません。清澄ギルドは急に活動が活発になりすぎたんです」
「それでも私が澄人さまの活動を完璧に支援できない言い訳にはしたくありません」
膝の上でギュッと手を握り締めた夏さんは悔しそうに声を絞り出した。
「この様な規格外の活動をしていて、今まで1人で支えてきたこと、尊敬します」
「えっ!? あ、ありがとうございます!」
ヘレンさんに褒められた夏さんが困惑しながらも表情を緩ませる。
それと同時にソニアさんから肩をポンと叩かれたアラベラさんが、スマホに向かって何かを呟いたあと、画面が見えるように差し出してきた。
【私はスミトの力になりたいんです】
その画面を見て、落ち着きを取り戻したお姉ちゃんがふーっと息を吐いて間を取った。
「
お姉ちゃんの口から怒涛のように聞きなれない単語が次々と飛び出してきた。
「そうです。今までアラベラの治療費のために世界を転々と活動してきましたが、その必要がなくなったので、私たちは今回清澄ギルドへの加入を希望しています」
それを当たり前のように受け止めたヘレンさんはお姉ちゃんに加入の意思を伝えている。
話をしている2人以外の4人も当然のように会話を聞いているため、わからないのは俺だけのようだ。
(ソニアさんの
お姉ちゃんとヘレンさんが真剣に話をしている間、俺は机の下でスマホを操作して耳にした単語を検索にかける。
(なるほど【二つ名制度】ってものがあるのか……今まで身近でそう呼ばれている人がいなかったから知らなかったな)
どうやら、世界的に活躍しているハンターには二つ名を命名するという制度があるようだ。
ソニアさんの場合はその二つ名が歌手としての愛称にもなっていると思われる。
(
加入を希望している全員が通り名を持っていることに驚き、更に見ているリストの中に【草凪正澄:2代目破壊王】との記載があって、スマホの画面に釘付けになる。
「澄人、なにか聞きたいことある?」
急にお姉ちゃんに話しかけられた俺は、スマホをアイテムボックスへ放り込む。
とっさに質問が出てこなかったので、ありきたりなことを聞いてみることにした。
「えーっと……みなさんの特技を聞いてもいいですか?」
「アラベラは触れている人や物を元通りにすることができます」
まだ日本語を話せないアラベラさんの代わりに、ヘレンさんが質問に答えてくれた。
「それは治すということですか? 対象に制限はありますか?」
【元通り】にということの意味があまりわからないため、さらに詳しく話を掘り下げた。
「無機物、有機物を問わず、なんでも元通りになおします。ただ、魔力が有限で、自分は対象になりませんでした」
おそらく、アラベラさんが
話を聞くと、魔力の続く限り触っているモノをなおせるらしい。
(神の奇跡がじわじわ効いていく感じなんだな)
アラベラさんへの質問が終わり、ヘレンさんと目を合わせた。
「通名の通り、私はギルドの運営から個人のスケジュール管理まで全て行なえます。国名は言えませんが、一時期は国立ギルドの運営にも携わっていました」
自信満々というよりも、当たり前のように言い放つヘレンさんにそれ以上の質問がない。
国立ギルドは日本のハンター協会と同じような組織で、国のハンターを統括しているギルドのことだ。
お姉ちゃんと同じ歳くらいでその運営をしたというヘレンさんには称賛の言葉しか出なかった。
「すごいですね……最後にソニアさんは……」
「歌で味方の能力を上げたり、敵の士気を下げられるわ」
ソニアさんは自信満々に肘をついて微笑みながらこちらを見てくる。
聖奈がじゃあ一緒に境界に入ればいつもソニアの生歌を聞けると呟いたのを聞き逃さなかった。
「歌で……ちなみにどういう効果が?」
「歌ごとに効果が違いますが、歌う頻度が高い曲では、全体的にステータスが1ランク上がり、《不屈》のスキルが付与されます。ソニアの歌が聞こえることが発動条件です」
ヘレンさんが分かりやすく歌の効果を説明してくれており、曲によって影響が違うと言っている。
発動条件は直接聞かなくても、イヤホン越しでも効果が出るようだった。
(聖奈は……話を振らない方が良いな)
3人の特技を聞き終わり、一緒に活動したいという気持ちが強くなった。
ただ、最後はギルドマスターであるお姉ちゃんの判断を仰ぎたいと思う。
「お姉ちゃん、加入を断る理由ある?」
「…………ないわ」
「それでは、皆さん加入ということで……これからよろしくお願いします」
3人の加入が決まると、見計らったように料理がテーブルの上に並べられた。
今回はライブの二次会という名目で集まったが、3人のギルド加入祝いと言い換えてもおかしくはないだろう。
加入が決まってから、聖奈が真っ先に全員の連絡先を共有しようと強く提案したことが印象に残った。
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ご覧いただきありがとうございました。
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大変励みになります。
次の投稿は10月7日に行います。
次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
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