清澄ギルドの今後⑭~ライブの2次会へ~
澄人と聖奈がアロハシャツを着てガゾンカルムへ向かいます。
お楽しみいただければ幸いです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「お兄ちゃん準備……できた……よ……」
着替えが終わって黄色いアロハシャツに袖を通している聖奈は、玄関で待っている俺を見て絶句した。
数秒間見つめ合ってから、聖奈が自分の首元へそっと手をそえる。
「その……私もそれ着けないとダメなの?」
「赤色のアロハシャツの上に置いてあった袋に入っていたから、俺だけだよ」
「よかったぁ。そんなのまで入っていたんだね」
心から安堵したように胸をなで下ろした聖奈は、まじまじと俺が首から下げているものを見ている。
「本当にこれを首にかけて街中を歩くのか……」
アロハシャツの上に置いてあった袋に入っていたのは【レイ】というもので、首からかけるタイプのものだった。
このレイはハイビスカスの造花で出来ているので、アロハシャツと同じ赤色だ。
(今の季節が夏なら……いや、それでも目立つな)
ここが沖縄で、季節が夏ならまだなんとかいけたかもしれないという気持ちになる。
靴を履いた聖奈が玄関を出ずに、自分の服装を見てから顔を上げた。
「これが草凪家の正装なんでしょ? それに……移動はワープをするよね?」
「ご丁寧に行き方まで書いてあって……この姿を見せつけるように歩けってさ」
「…………本当だ……お店まで歩いて行くようにって書いてあるね」
メモの続きを聖奈へ見せると、苦笑いになりながら俺のレイを数回触る。
「じいちゃん本当にこんな姿でガゾンカルムへ行ったのか? 同じ名前の別のレストランあるのかな?」
「お兄ちゃん、私も色々な人に聞いてみたけど、今も昔も同じ名前のレストランはないよ」
いつまでもこうして玄関で留まっているわけにはいかないので、気合を入れる。
「間に合わなくなるから覚悟を決めて行くか」
「知り合いに会わないように……同じ高校の人にはもっと会わないように……」
黄色いアロハシャツを着た聖奈が玄関を開ける前に両手を合わせて、神様を拝み倒す勢いで祈っていた。
俺も聖奈と同じように祈ってから玄関の扉へ手をかける。
「行くぞ、聖奈」
「……うん」
ド派手なアロハシャツを着て街中を歩くのは俺たち以外に見当たらない。
また、草根市でレイを首から下げているのは俺くらいなのか、すれ違う子供が物珍しそうにこちらを見てくる。
その視線に気が付いた聖奈が、何事もないかのように声をかけてきた。
「香さんたちも来るんだよね?」
「そうだよ。服を持って行ったみたいだから、ギルドハウスで着替えるんじゃないかな?」
お姉ちゃんたちは今日も仕事で、ギルドハウスから直接レストランへ向かうと言っていた。
「あらかじめ私たちがこの格好をしていることを連絡しておいた方が良いよね……あ、お店の人に追い返されないかな……」
確かにこれから行くお店はドレスコードがあることを明記しており、この様な服装で入る人はいないだろう。
(レストランの品格を守るために入店を断られる可能性もある)
スマホで紹介されていた店内の様子は、みんなそれ相応の恰好をしており店の景観を構成する一部となっていた。
「どうだろう……じいちゃん……草凪正澄さんの遺言でこれを着てきましたって言ってみる?」
「あんなお洒落なレストランとおじいちゃんが関係あるとは思えないけど、面識はあるのかな」
「わざわざメモに残すくらいだから知らない仲じゃないと信じたいけど……」
じいちゃんの交友関係についてはメモ帳にほとんど書かれていなかった。
2人で頭を悩ましていると、目的地のガゾンカルムへ着いてしまう。
「お兄ちゃん、着いちゃったよ。なんだか人が多いね」
なぜか20時前にも関わらずガゾンカルムから出てきている人が多く見受けられる。
全員が全員きちっとドレスコードに見合った服装をしている中、アロハシャツの俺たちは目立ってしまっていた。
(場違いって言われても納得するな)
ガゾンカルムから出てくる人たちを眺めていたら、聖奈がハッと息を呑んだ。
「げっ!? よりにもよって
聖奈が慌ててお店に背を向けて逃げようとしたが、朱芭さんがこちらへ気が付いて近づいてきた。
「その髪型は聖奈だよね? どうしてそんな格好をしているの!?」
「えーっと……家庭の事情……かな……」
朱芭さんはちゃんと制服を着ており、黄色いアロハシャツ姿の聖奈を見て驚愕している。
その声で周りの人もこちらへ注目してしまったため、闇を使って消えてしまいたくなる。
「澄人くん? その格好はどうしたんだい?」
この前草矢さんが紹介してくれた朱芭さんのお父さんが神妙な面持ちで俺へ話しかけてきた。
誤魔化すような言葉を用意することができず、周りにいる人たちの様子をうかがいつつ口を開いた。
「じいちゃんの遺言でこれを着て行くようにって指示だったんですけど……場違いですかね……」
「いや。そんなことはない。きみたちはその格好でここへ入るんだ」
「お父さん!? 何を言っているの!?」
知り合いになら確実に止められると思っていたのに、朱芭さんのお父さんは自信を持ってと励ましてくれていた。
それを聞いた朱芭さんがお父さんの正気を疑うように眉をひそめるが、お母さんに遮られた。
「朱芭ちゃん、こっちへ」
「お母さん!? どうしてちょっと怒っているの!?」
真剣な表情の両親を見て、朱芭さんは理解ができないとこぼしながらお母さんと一緒にこの場を離れて行った。
「どういうことなんですか? 俺たちはこの格好であそこのお店へ入ってもいいって……何かご存知なんですか?」
朱芭さんのお父さんが何かを知っているような口ぶりだったため、思わず質問をしてしまった。
そんな俺へ、朱芭さんのお父さんは深くうなずき、優しいほほえみを向けてくれた。
「理由は私の口からはとても……ただ、周りにいる私と同じ年代の人が好奇な目ではなく、懐かしむようにきみたちを見ているのが答えかな」
「懐かしい……ですか……」
「お店の人が来てくれたようだから、私も失礼するよ」
そう言い残して立ち去った朱芭さんのお父さんの背中を見送っていたら、背後から誰かが近づいてくる気配を感じる。
「ようこそいらっしゃいました。草凪さま、こちらへどうぞ」
60代くらいに見える女性の店員さんが俺へ丁寧に頭を下げてくれていた。
服に《Gazon Calme》 という刺繍が入っているため、店員さんで間違いないだろう。
「えっと……本当に入ってもいいんですか?」
「もちろんでございます。草凪さまのご来店を心からお待ちしておりました」
そんなことを言われて少し疑ってしまい、思考分析を使ってしまった。
しかし、目の前の店員さんはアロハシャツ姿の俺たちを本当に歓迎してくれていた。
その結果に俺も衝撃を受け、なかなか次の言葉が出てこない。
「お兄ちゃん、行こう? もうすぐ時間だよ? 歓迎してくれてよかったね」
「あ、ああ……行こうか」
聖奈が俺の手を握り、嬉しそうに繋いだ手をゆらゆらと振りながら歩き出す。
お店へ入ると、お店の人全員が列を作っており、一斉に俺と聖奈へ頭を下げる。
「「「「ガゾンカルムへようこそ!!!!」」」」
その光景を目にし、歓迎されていることが改めてわかった。
聖奈の表情からも不安は消え、感動するようにシックに整っているお店の中を見回していた。
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ご覧いただきありがとうございました。
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次の投稿は10月4日に行います。
次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
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