清澄ギルドの今後⑫~抗争戦の報告~

澄人が勾玉の効果をじっくりと確認しております。

お楽しみいただければ幸いです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


(結界が使えるようになるまであと8年と4ヶ月弱!? これ使いづらいってもんじゃないけど……そうか……なるほど……これは……)


 勾玉の結界を張るスキルだと思われる詳細を開いて効果に目を通すと、クールタイムが10年もある理由がわかった。


【スキル詳細】

 スキル:《神の不可侵領域》

 神気:全開放

 説明:任意の範囲を敵意のあるモノから守る(永久)


 1度でも神の不可侵領域を指定した場所には敵からの攻撃が届かなくなるようだ。


 こうなると、皇ギルド関連施設にはすべてこの結界が張られていると思った方が良い。


(天皇家は1000年以上もこの勾玉を持っていた訳だから、使わない理由がないもんな)


 もう一つの《神気浸食》は、入学式のときに殿下から受けた精神汚染をするスキルだった。


 使い方は草薙の剣の神気解放と同じく、任意の神気を使用して相手の精神へ干渉するものだ。


(完全に防御用の神器だな。浸食を使えば使うほど結界が張れなくなるってことか。ふーん……)


 勾玉の効果が把握できたので、持っていた物をアイテムボックスへ収納する。


 草根高校での抗争戦が終わって、電波のジャミングが解消されており、ここでもスマホが使えるようになっていた。


(とりあえず師匠へ連絡をしよう)


 電話をかけていると、校舎の方から義間元部長が俺の方へ全力で駆け寄ってくる。


「澄人くん! 地下にいる皇の生徒がっ! もう悲鳴を聞いていられないんだ!」


 皇の生徒のことをすっかり忘れており、かれこれ30分以上闇の中に閉じ込められたままということになる。


 彼らの状態が悲惨すぎて、ミス研の人たちが俺のことを探していたようだ。


「忘れていました。今解除しますね」


 師匠が電話へ出る前に、皇の生徒へかけていた永遠の闇を止めた。


 安堵する義間先輩の横で、俺のスマホからは留守番電話サービスへ繋げる案内が行なわれていた。


(師匠どこにいるんだ? 義間先輩知らないかな?)


 元部長へ声をかけるために耳からスマホを離す。


「澄人くんありがとう! 皇の人たちを介抱してくるよ!」


 話しかけようとしたら元部長が踵を返して校舎へ帰って行ってしまった。


「さっきまで襲われていたのにそんなことをしてあげるほどヤバい状況だったのか……」


 その必死な後姿を見て、忘れてしまって申し訳ないと思いつつ呟いた。


 どんな状況なのか俺も確かめに行こうかと地下を目指そうとしたとき、校門に立つ俺の横へ車が急停止した。


「澄人!! 豊留から皇に奇襲をかけられたと聞いたが大丈夫か!? どうなっている!?」


 荒っぽい運転で師匠が校門へ車を停車し、尋常ではないほどに焦っていた。


 おそらく俺が朝師匠へ報告をした件で学校を離れ、奇襲されたことを知らされていなかったためだと思われる。


 大体のことは解決しているので、あとはこちらからハンター協会を通して皇へ異界ゲートの件を認めさせるだけだ。


「師匠、その件でお話があります」


 落ち着き払っている俺の様子を見て、師匠が気を静めるように何度か深呼吸をしていた。


「……皇で何をしてきた。包み隠さずに教えてほしい」


「まずは皇の結界を破壊してきました」


「何だと!!?? あの攻略不可能と言われていた結界をか!?」


「はい。俺の草薙の剣の方が強かったようです」


 境界のことを知っている師匠は驚きを隠せずに目を見開いた。


 しかし、俺がまだ言いたげな顔をしているのがわかったのか、コホンと咳ばらいをする。


「それだけじゃ……ないんだろう?」


 師匠の言葉にはいと返事をしてから、俺が皇立高校でしてきたことをすべて口にした。


「皇が草根高校……草凪の管理している学校を攻撃してきたため、草凪家が天皇家へ貸与していた《八尺瓊の勾玉》を返していただきました。また、抗争戦の戦果として皇の異界ゲートの管理権を草根高校へ移しました」


 説明を一気に聞いてあんぐりと口を開けている師匠はなにを言えばいいのかわからなくなっているようだった。


 こうしている間にも時間が経ってしまっているので、俺はもう抗争戦のことを師匠に任せることにした。


「後の処理はよろしくお願いします。俺は約束があるので失礼します」


「澄人! お前……無抵抗の人間を殺していないよな?」


 師匠が俺の肩を強くつかみ、睨みを利かした目で見つめてくる。


 豊留さんが輝正くんのお父さんの首をはねたことを師匠へ連絡したのだと予想した。


 下手に嘘を言っても仕方がない質問だったため、事実をありのままに師匠へ伝える。


「首をはねましたけど、蘇生しましたよ。不安なら確認をしてください」


「蘇生って……おい! 澄人!!」


 先ほどは振りほどかなかった師匠の手を掴み、本当に申し訳ないと思いながら力を込める。


「師匠! 時間ギリギリなんです! あとはお任せします!」


「そ、そうなのか……呼び止めてすまない。気を付けてな……」


 俺の切羽詰まっている感じがわかったのか、師匠は手を引っ込めて見送るように言葉をかけてくれた。


 ありがたいと思いながらワープを発動して家の玄関へ滑り込む。


(15時29分……セーフか!!??)


 聖奈が15時30分に家を出たいと言っていたので、もう用意は終わっていると思われる。


「聖奈、ライブへ行く時間だと思うんだけど、着替えてきてもいいかな?」


 居間で座っていた聖奈へ少し待っていてほしいと声をかけたところ、立ち上がって俺へ接近してきた。


「お兄ちゃん電話も繋がらないしどこに行っていたの!!??」


「どこって……それは……」


 聖奈を心配させたくないという思いが強く、言いよどんでしまった。


 そんな俺の態度が許せなかったのか、聖奈は顔を真っ赤にして見ていたテレビを指し示す。


「抗争戦があって皇立高校を滅茶苦茶にしてきたんでしょ!? ニュースになっているんだよ!?」


「ぉぅ……こんなに大々的に……」


 テレビでは陸の孤島状態になった皇立高校が映っており、広報担当という人が質問に答えていた。


 草根高校へ抗争戦を奇襲作戦で仕掛け、返り討ちにあったとはっきりと言っている。


 さらに、異界ゲートの管理権についても言及したため、残っている校舎を破壊する必要はないようだった。


「地下の競技場は悲鳴や鳴き声ですごいことになっていたし、私どうすればいいのかわかんなくて……お兄ちゃんとの約束の時間になったから家に帰ってきたの……私がいればこんなことにはならなかったのに……」


 聖奈が自省するようなことを言うので、違うと否定しながら頭を撫でる。


「お前がいてもほとんど変わらないさ。相手は全校生徒で来たんだぞ? 聖奈1人でどうするんだよ」


「もう学校は平気なんだよね?」


「師匠も戻ってきていたから、何も心配することはないよ」


 撫でている手を離し、聖奈の揺らいでいる瞳を見つめて気持ちを落ち着かせるように笑いかける。


「俺は聖奈とライブへ行くためにこの時間までに家に帰ってきたんだ。楽しみにしていたんだろう?」


「お兄ちゃん……うん! 今からなら間に合うよ!!」


 予定時間を過ぎて、乗る予定だった電車が草根駅を出発してしまった。


「移動時間がもったいないから、ワープしようか。聖奈、場所を思い浮かべてくれる?」


「ええっと、ソニアがファンミーティングをしてくれる場所は――」


 聖奈が場所を思い浮かべてくれている最中、俺はソニアさんの近くへワープできることに気が付いた。


(そうか。知り合いになったからできるのか。同じ目的地だと思うからそっちの方が確実かな?)


「お兄ちゃん、お願い」


 ワープで移動した先には、薄暗いドームの中央に用意されたステージでソニアさんが真っ赤な衣装を着て歌っていた。


(すごい……聞き入っちゃうな……)


 ファンをこのような状況で出迎えるのかと感心しながらソニアさんを眺めていたら、横にいる聖奈が微動だにしない。


 ソニアさんを至近距離で顔を見ただけで失神した聖奈なので、これだけでも刺激が強いと予想をした。


 ソニアさんがステージ上で輝いている姿を見ていたら、前からスーツ姿の女性が俺たちへ近づいてきた。


「……スミト? どうしてここに?」


「ヘレンさん。今日はソニアさんのファンミーティングへ来ました。こんな風に出迎えてくれるんですね」


 観客が1人もいないのにもかかわらず、ドーム内にソニアさんの声が響き渡っている。


 ファンをすごい大切にしているのだと勝手に思っていたら、ヘレンさんが苦笑いでこちらを見てきた。


「えーっと……どこから説明すればいいのかしら……結論から言うとここでファンミーティングはしないわ」


「えっ?」


「別の会場で30分程度行う予定よ。今は最終リハーサル中なの」


 直接ソニアさんのところへワープしてしまい、大切なリハーサルの邪魔をしてしまったようだった。


 ヘレンさんが少し困っているようなので、ここから退散した方がよさそうな感じがした。


「じゃあ出て行った方が良いですか?」


「んー……ライブのチケットはあるの?」


「妹の聖奈が取ってくれました。これです」


「B席ね……正面の席に入れるこれをあげるから、数日後にあるライブの二次会に付き合ってくれない?」


 ヘレンさんは関係者招待席と書かれたチケットを2枚俺へ渡してくれた。


 聖奈へチケットを渡そうとしたところ、まったく反応がない。


「聖奈? おーい……ダメだ。完全に心を奪われている……」


 ステージを見たまま固まっている聖奈は、ソニアさんが歌っている歌詞を同じように口ずさみ、没入してしまっていた。


 感極まって涙を流していたためヘレンさんへ謝罪をしたところ、よくあることだからと言われ、ソニアさんの凄さを知れた気がした。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

もしよければ、感想、フォロー、評価、待ってますので、よろしくお願いいたします。

大変励みになります。


次の投稿は9月28日に行います。

次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

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