清澄ギルドの今後⑩~皇立高校の結界~

輝正くんのお父さんの首をはねた澄人が皇へ乗り込みます。

お楽しみいただければ幸いです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 競技場に集めた皇の生徒全員の5感を奪うため、永遠の闇を実行する。


 輝正くんのお父さんの首をはねたことと相まって、この世の終わりとも思える絶叫が競技場中からあがった。


「朱芭さん、皇立高校の場所知っていますよね? 転移の水晶を使いたいので、思い浮かべてもらってもいいですか?」


「え……ええ……わかったわ」


 朱芭さんは絶叫している人たちを気にしつつ俺の言葉に頷いてくれた。


 輝正くんに頼もうと思っていたが、口ではいくら父親のことを憎いと言っていても、目の前で首をはねたことが衝撃的だったらしい。


(輝正くんにはとても話しかけられないな。それにしても、これがこんなに活躍するとは思わなかったな)


 ツアー用に作ったワープを偽装するための水晶を取り出す。


 オーストラリアから直接学校へ帰ってきた俺は、被害を食い止めるべく、監視カメラを見ながら皇の生徒を片端から痺れさせて動きを止めた。


(人を探すために微弱な雷を扱えるようになったおかげで、伝達神経をちょっといじるだけで簡単に人を麻痺させることができるようになった……人を助けるためにできるようになったことだったんだけどな……)


 麻痺になって動けない人を運ぶ手段としてワープを使用したとき、この水晶が役に立った。


 魔力を込めれば光るだけのガラス玉をワープ水晶と名付け、皇の人たちをここへ放り込むように強制転移を行なった。


「澄人くん、思い浮かべたわよ」


「じゃあ、ちょっと失礼するね」


 この水晶を朱芭さんの背中へ押し付けるように当て、ワープを発動する。


【ワープ可能地点】

[異界][日本][その他]

※[日本―東京]に新しく《皇立高校》が追加されました


(よし。これで皇立高校へワープできるぞ)


 ワープを実行する前に、水晶へ魔力を流そうとしたら、朱芭さんが遠慮がちにこちらを振り向く。


「ねえ、澄人くん。あの人たちはいつまでこうしておくの?」


「皇への侵攻が終わるまではこのままです。簡単に許したらまた来るかもしれないですからね」


 草根高校での抗争戦で傷ついた人の治療は、胴体と頭が離れた輝正くんのお父さん以外は終わっている。


(あ、あの人を連れて行かないと、忘れるところだった)


 朱芭さんから水晶を離し、競技場へ転がっている輝正くんのお父さんへ手をそえる。


 アイテムボックスへ頭と胴体を収納すると、輝正くんがあっと切ない声を出す。


「ちゃんと元通りにするから大丈夫だよ」


「え……元通りって……死んでいるんじゃ……」


 首がはねられた人が復活するなんてことは通常ありえない。


 ただ、俺は神の祝福が使えるので、首がはねられただけのひとを甦らせるのは容易いことだ。


「皇の生徒へ恐怖を与えるパフォーマンスだから、効果あったでしょ? 終わったらちゃんと息を吹き返すよ」


 輝正くんが話を聞ける状態になったので、安心させるように励ましの言葉をかける。


 どうやって生き返らせるのかなどを聞かれる前にワープを実行し、この場から立ち去ることにした。


「行ってきます。学校の片付けよろしくお願いします」


 絶叫を背にしているミス研の人たちや草矢さんの視線を振り切って、水晶のまばゆい光と共にワープを行なった。


「ふーん。ここが皇立高校か……ちょっと上へ行こう」


 皇立高校にワープした俺は天翼で上空へ羽ばたき、電話をかける。


「はい、皇立高校事務室です」


「こんにちは、草根高校の草凪澄人という者ですが、今回そちらが起こした抗争戦の件でお電話させていただきました。担当の方はいらっしゃいますか?」


「はい? えっと……申し訳ございません……少々お待ちいただけますか?」


「ええ、もちろんです」


 電話に出てくれた女性の方が電話を保留にしたのか、聞きなれた音楽がスマホから流れてきた。


 待っている間、眼下に広がる広大な皇立高校の敷地をくまなく観察する。


(人の姿がまったくないな。こっちにたくさんの生徒が来ていたけど、本当に全校生徒だったのか……新しい校舎はこっちで、あそこにある古めの校舎が国宝に指定されている建物か)


 皇立高校は草根高校と同等の歴史があり、1000年以上前の天皇が作ったハンターの育成学校だ。


 旧校舎は創立した当時のまま現存しており、今では国宝として保護されているという。


(旧校舎に結界が張っていなかったら消し飛ばすけど、文句言われないよな?)


 初手はグラウンド・ゼロで敷地内をすべて吹き飛ばそうと思っているので、皇立高校以外のモノへ影響が出ないように注意をする必要がある。


(ルールは守らないとね。でも、今回は相手が奇襲を選んだから何をしても許される)


 学校抗争戦は事前にお互いの欲しいものを決めて計画的に戦う場合と、今回のように奇襲を仕掛けて突発的に行う場合がある。


 奇襲は高い確率で欲しいモノを奪える半面、相手へ白紙の希望書を差し出すようなものなので、自分の高校が陥落した時に何を要求されても了承しなければいけなくなる。


 そのため、学校抗争戦で奇襲を選択する学校は全くと言っていいほど記録にも残っていない。


(こうして電話をかける必要なんてないけど、結界が張っていなかったら困るからな)


 皇立高校には一つの伝説があり、創立以来一度も抗争戦で陥落したことが無いというものだ。


 その伝説は殿下が持っている神器|八尺瓊《やさかにの勾玉》によって作られた結界を、過去数千年に渡って誰も突破できなかったことを意味する。


(その伝説に挑めるチャンスが来たんだ……あ、草根高校を出たのに師匠へ電話をかけて状況を説明してない……終わってからでいいか)


 ジャミングがされていた草根高校ではスマホが使えなかったので、誰にも連絡ができなかった。


 この電話のあとにでも師匠へ連絡をしようと考えていたら、保留を知らせる音楽が鳴り止んだ。


「草凪さま、お待たせして申し訳ございません」


「抗争戦担当の方ですか?」


 スマホから先ほどの女性とは違い、かすれた男性の声が聞こえてきた。


 抗争戦を始めるのでその通告と、関係の無い人がいれば退避してもらいたいことを伝えようとしたところ、相手が申し訳なさそうに話を始める。


「それが……担当を現在確認中ですので、もうしばらく待っていただきたいのですが……」


 納得するような口ぶりで、そうですか、それは災難でしたねと電話相手へ相槌を打つ。


 相手がそうなんですよと私どもも困っておりましてと、安心するような声で話しかけてきたため、これ以上電話で話をするのを止めることにした。


「僕には関係ないので、これから攻撃を始めさせていただきます。では」


「ちょっと待って――」


 時間を稼ぐように言われていたのか、先ほどの男性が声を大きくして俺との会話を続けようとしてきた。


 話す相手がいないのに待つ義理はないので電話を切り、


 俺の電話を通告として受け取ってもらえるように一応やり取りを録音しておいた。


(殿下とお話ができればよかったけど、無理ならそれでもいいか。約束を破ったのは向こうだからな)


 かつて殿下と交わした会話の内容を思い出し、このように約束を反故されて大変残念だ。


 俺は怒りを込めて魔力を展開し、グラウンド・ゼロの詠唱を始めた。


 この気持ちを反映するかのように赤い魔法陣が非常に強い輝きを放った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

もしよければ、感想、フォロー、評価、待ってますので、よろしくお願いいたします。

大変励みになります。


次の投稿は9月22日に行います。

次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

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