白間正樹の学校侵略戦~負けられない戦い~
学校抗争戦を仕掛けた皇立高校教員、白間正樹視点でのお話しです。
お楽しみいただければ幸いです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「攻めろ攻めろ攻めろ!! こいつは俺に任せてお前たちで奥にある異界ゲートを抑えるんだ!!」
周りにいる部員へ檄を飛ばし、瀕死となっている草根の生徒をさらに追い詰める。
交流戦での失態を挽回と、うちにある使えなくなった異界ゲートのことを考えれば、草根高校へ学校抗争戦を仕掛けるのは最善の策だった。
(
学校抗争戦のことを知っていれば、うちの高校へ攻め込もうと考えるやつはいないだろう。
「俺と戦っているのに余所見か。いつからお前はそんなに強くなったんだ?」
「くっ!?
厚志の双剣による圧力に耐えられなくなり、バックステップで距離を取る。
切りつけられたグラウンドの土が舞い、地面に大きく剣気の跡が残った。
(草矢厚志……剣に衰えは感じない……こいつだけでも厄介だ)
草根高校の守護神ともいえる草矢厚志が俺を阻んでいる。
(こいつさえいなければ余裕で制圧できたもののっ!!!!)
厚志は両手に剣を携え、俺の目に映るほどの魔力を纏わせていた。
双剣による嵐のような攻撃を受け流すことは安易ではないが、厚志も俺の守りを崩せずにいる。
(ここでこうして厚志を足止めしていれば俺たちの勝ちだ。こっちは数を揃えてきたからな!)
こいつ以外に脅威となる存在は今の草根高校にはいない。
(草壁会長も平義も草凪兄妹もいない!! 時間をかければかけるほどうちに有利なんだ!!)
いくら俺がここで足止めをくらっても、この戦況に大きな影響は及ぼさないだろう。
今回の抗争戦には皇立高校にいるほぼすべてのハンターを動員した。
(全員へ異界ゲートの場所を教えてある。監視所を制圧して占拠すればこちらのものだ!)
これが終わったら異界ゲートを占拠したという事実を学校抗争戦の結果をハンター協会へ提出するだけなので、会長であろうと結果に口出しすることは不可能だ。
異界ゲートが使えなくなることで草根高校の弱体化にも繋がり、一石何鳥になるかわからないほどの利益が皇へ舞い込んでくるだろう。
(落とすのは皇と同格の草根高校だからな。クククッ、この後のことが楽しみだ!)
どれだけの富と名声が俺の元にくるのかと考えたら思わず笑みがこぼれてくる。
「勝利を確信しているようだが、もう時間切れのようだぞ」
「何を言っているんだ? お前にはこの状況がわからないのか?」
「それは俺の台詞だな。あっちを見てみろ」
呆れるように俺を見る厚志が距離を取って、剣を鞘へ入れてから腕を組む。
抗うのを諦めたのかを思って一思いに突き刺してやろうとしたら、俺の後ろから足音が聞こえてきた。
「草矢先生! 第一、第二校舎の敵を排除しました! あとはこの人だけです!」
「なんだと!?」
「そうか。義間、良く知らせてくれたな。」
皇以外の生徒が俺の背後から現れ、校舎内に侵入したうちの生徒を排除したと言っている。
厚志の元に駆け寄った生徒は武器も構えず、余裕な顔でこちらを見ていた。
「嘘だな……お前たちに俺の生徒がやられるはずがない! こんなことで惑わされる訳がないだろう! 馬鹿な奴らだ!」
俺を油断させるためにこんな演技をしているのだとしたら、愉快でたまらない。
「はっはっは! 厚志、お前も衰えた――うぐっ!?」
厚志ごと生徒を倒そうとしたら、首から下の身体が全く動かなくなる。
どんなに力を入れてもピクリとも反応せず、自分の意図とは関係なく持っていた剣を落としてしまった。
「なにがっ!? なにが起こっているんだっ!?」
「草矢さん、この人も他の人と同じように地下の競技場へ連れていけばいいんですか?」
「草凪澄人!!?? どうしてお前がここに!?」
いつの間にか俺の視線の端に、いるはずのない草凪澄人の姿が映る。
(こいつは境界適応症を治すという眉唾物のようなことをしているのではなかったのか!? まさか本当にうちの生徒がやられたのか!?)
交流戦の競技場に張られていた結界を破る草凪澄人がうちの生徒を倒し回ったとすれば、先ほどのやりとりが本当だったことになってしまう。
草凪澄人は俺へ一切視線をよこさず、こちらのことを興味がなさそうに厚志へ歩み寄っていた。
(嘘だ嘘だ嘘だ!!!! こんなこと認められない!!!!)
俺の横を通り過ぎようとしたとき、草凪澄人へ自分の怒りをすべてぶつけるように口を開く。
「質問に答えろ草凪澄人!!!! どうしてお前がここにいるんだ!!!! この学校の異界は俺のモノなんだよ!!!!」
耳を塞ぐように手をそえた草凪澄人は、邪魔だと言わんばなりに顔をしかめながら、俺へ視線を投げつける。
「時間が惜しいので、とりあえずこの人を競技場へ飛ばしますね」
草凪澄人は懐からテニスボールほどの水晶を取り出し、俺の顔へ強引に押し付けてきた。
水晶が白い光を放つと同時に、俺は見たことが無いドーム型の競技場へ移動した。
「なんだこれは……」
草根高校が強制転移をさせる道具を持っているなんて情報はなかった。
周りには俺と同じようにここへ飛ばされた不安そうな顔をしている皇の生徒がいるため、今回の奇襲が失敗したことを察してしまった。
(大丈夫だ。皇にはあの結界がある……大丈夫だ……大丈夫……)
皇に張ってある結界は殿下が神器を使って施したものだ。
この作戦に失敗しても、その結界があるため皇を攻めることはできない。
抗争戦で奇襲という作戦を取った代償が頭を駆け巡るが、殿下の結界を信じて必死に自分を落ち着かせる。
「草矢さん、これで全員いるはずです」
草凪澄人と厚志が競技場の中央に現れ、捕まった俺たちを見回す。
競技場にも結界が張られており、内側から出ることができなくなっていた。
「動く……あいつだけはっ!! なんでだっ!?」
先ほどまで動かなかった俺の体が動くようになっており、立ち上がろうとしたら再び俺の意思ではどうしようもできなくなった。
立ち上がろうとした勢いを止めることができず、競技場の石畳へ顔面から落ちてしまう。
歯が数本折れるような感触のあと、血の味が口の中に広がった。
「ぐっ……はっ……」
地面をのたうち回ることさえできず、競技場へ倒れ込んだまま体を動かせなかった。
草凪澄人は冷たい目で俺のことを見下ろしており、なぜか手には黒い剣を持っていた。
「あなたは今回の抗争戦が起きた証拠のために一旦死んでもらいますね」
「はっ? なにを?」
草凪澄人が訳の分からないことを言いながら剣を振り下ろしたと思ったら俺の視界が揺れた。
「「「「
急に生徒が叫び始めるので、状況を確認するために周りを見ようとしたら、なぜか身に覚えのある自分の体が自分の前に落ちていた。
そして、体のある一部分を見て、俺は数秒後の自分の状態を察する。
(首が……ない……俺は……死ぬのか……)
俺の首が切られた光景を見た皇の生徒が恐怖に駆られ、パニックになったように錯乱をしていた。
それさえもうっとうしそうに顔をしかめる草凪澄人の目を見て、俺は戦慄を覚えた。
(こいつ……俺を殺しておいてこんな顔を……)
草凪澄人は剣に付いた血を振り払い、ため息をついて首を左右に振る。
「それではこれから皇へ反撃を行います。皆さんはここで指を……違う。二度と草根へ立ち向かおうという気にならないために、真っ暗な世界へ沈んでもらいます」
俺の最後の記憶は草凪澄人の残酷な言葉となった。
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ご覧いただきありがとうございました。
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次の投稿は9月19日に行います。
次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
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