白間輝正の学校抗争戦~離れ離れの部員~
学校抗争戦が仕掛けられた草根高校にいる白間輝正視点でのお話しです。
お楽しみいただければ幸いです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
通じないと思っていた澄人くんへの交信が届き、この異常事態の中でも僕は少しだけ安心することができた。
《輝正くん、相手はわかる?》
いきなり武器を持った大量のハンターが校門から入ってきたという情報で学校中がパニックになり、相手の所属や正体を確認できていない。
校内にいる生徒が襲われている以外の情報を集める必要があることにようやく気付くことができた。
(普通に部活動をしていた生徒が血まみれでここへ駆け込んできて、普通の思考になれなかった……)
僕の横で怯えながら座っている生徒と目が合い、自分のやるべきことを認識した。
《すぐに調べるよ。このまま交信できるのかな?》
《これからA級ゲートに入るから次に交信できるのは20分後になると思う。ごめん、こっちも手が離せないから、なんとか耐えてくれる?》
《それくらいならなんとか……澄人くん気を付けてね》
澄人くんとの交信が終わり、僕は深呼吸をして自分に何ができるのか考える。
(まずは現状の整理だな)
今は先輩たちが侵略者の迎撃を行なっており、僕たち1年生は部室に避難してきた人たちを守っている。
異界ゲートの管理をしている豊留さんが電話の受話器を持ってどこかへ電話をかけようとしているが、しばらく待っても、下唇を噛んで表情が暗いままだ。
「やられているわね……ネット、電話、スマホ……全部だめよ」
諦めるように首を振った豊留さんが電話の受話器を置き、大きく舌打ちをする。
スマホや電話外部との連絡を絶たれ、インターネットも使えなくされているようだ。
「相手は入念に準備してきたみたいね……そんな連絡あったかしら……」
豊留さんが視線を上げ、学校内に設置している防犯カメラの映像を見ながら腕を組み、この騒動に心当たりがありそうにつぶやいた。
訳が分からない僕は周りにいる翔くんや水鏡さんへ説明を求めても、みんなわからないと首を振る。
「豊留さん、ここで今何が起こっているのか知っているんですか?」
こんな状況でもまったく動じていない朱芭さんが豊留さんに近寄りながら声をかけていた。
俺も気になるので豊留さんを見ていたら、他の人たちも同じように注目しているようだった。
「ああ、そうか。みんなは一年生だから……これは学校抗争戦と言うのよ。本当ならみんなは12月の研修で習うんだけど……実際に起こるなんて思わないわよ……」
「学校抗争戦……ですか?」
「ええそうよ。簡単に言うと相手の学校のモノを略奪できるの」
「そんなこと……認められているんですか?」
「認められているんだけど、今はほとんど使われていない制度だったのよ」
「……なら、今回の相手は草根高校の
「そうよ。一応防衛用のシャッターがあるから校内の重要な場所には入れないようにできているけど……相手がどこを狙っているのかわからないと手の打ちようがないわ」
こうして実際に高校が襲撃されていなかったら信じられないような話が展開され、理解が追い付かない。
それでも僕は澄人くんから聞かれたことを答えるため、2人が黙った時に口を開いた。
「相手はどこの高校かわかっているんですか?」
「うーん……この映像だけだとなんとも言えないわね……」
「相手は皇です。見知った顔がいるので間違いありません」
校内の映像が移された画面を食い入るように見ている豊留さんの後ろから、朱芭さんが断言するように言い放つ。
交流戦の妨害行為に加え、学校へ襲撃をしてくる皇が僕には不快でしかない。
「皇……こいつらこんなことまでっ!」
怒りを込めて画面を見ていたら、父親と草矢先生が戦っている様子が映っていた。
「ここで皇の教員と草矢先生が戦っているので間違いないですね」
他の画面では先輩たちが皇の圧倒的な人数による攻撃で苦戦をしており、いつ倒されてもおかしくない。
「くっそう!! もう我慢できない!! 僕は行きます!!」
「翔待って!! 私も行きます!!」
翔くんと水守さんが部室から飛び出し、天草さんと立花さんがこの場に残った。
「ごめん。私も行っていい?」
紫苑さんが僕たちへ声をかけているにもかかわらず、ある画面を食い入るように見る。
天草部長が皇の生徒に追いやられており、腕から出血をしている。
「頼むね。ここを守って」
「紫苑さん! 私も行きます!」
皇の生徒がさらに追い打ちをかけるために剣を振り上げたとき、紫苑さんが短剣を抜き放って部室を出た。
追いかけるように水鏡さんも立ち上がり、部室から出て行ってしまった。
僕と朱芭さんしか戦える人が残っていない部室を眺めた豊留さんがまさかと言いながら息を呑んだ。
「理事長や平義さん、澄人くんに聖奈さんがいないこのタイミングを狙って来たの……そんなのどうやって……」
草根高校の主戦力が全員揃っていないことがただの偶然であるはずがない。
この四人のうち誰か一人でもいればこんな状況にはなっていなかっただろう。
「今日、境界適応症の治療が行われるからでしょう。それに聖奈が昨日からSNSでライブへ行くと騒いでいましたよ……この4人がいなかったらどうとでもなると思われたんでしょう……舐められていますね」
「朱芭さんちょっと待って!」
朱芭さんが剣を片手に部室を出て行こうとしたので、止めようとしたらキッと睨まれた。
「白間くん、止めたら殴るわ。それに……あなたは行かないの?」
朱芭さんが信じられないと言わんばかりにさげすむような目を向けてくる。
それでも、僕がここを出て行ってもこの状況が変わるとは思えなかった。
「僕は……行きたい。だけど、相手の目的が分からない以上、むやみに戦うのも違うと思う」
「それならどうするの? みんながやられるのをただ待つわけ?」
「それは……」
皇に攻められている現状を打開する具体的な案はない。
何をすればいいのかさえわからない現状に焦り、まったく言葉が出てこなかった。
俺が何もできないので、退避してきた人の看病をしていた楠さんが心配そうに朱芭さんへ近づく。
「朱芭さん、もう少し落ち着いて考えましょう。ここには――」
「戦えないあなたは黙っていて!!」
「ぁ……ごめんなさい」
「私も……ごめん……言い過ぎた」
朱芭さんを含めて俺たち1年生は楠さんがハンターとして活動したいにもかかわらず、神格の上限が【2】ということで断念したことを知っている。
それを責めるような言い方をしてしまった朱芭さんが謝るが、楠さんの目には涙が浮かぶ。
「ううん、本当のことだから……いいの……」
楠さんがふさぎ込むように足を抱えて座り、朱芭さんも顔を下げて黙ってしまった。
部室内が最悪の雰囲気となり、画面で見る戦況も確実に皇の勢いが強い。
仲間が傷ついているのにもかかわらず、僕たちは何をすればいいのかわからない。
(連携さえ取れればこんなやつらに負けるわけないのにっ!!)
今、この中で一番強い朱芭さんが戦いに行ったとしても局所的にしか勝てず、もたもたしているうちにほとんどのところで負けてしまう。
そうなった場合、相手に好き放題されるようになるので、何も守れなくなる。
トランシーバーなどの無線も使えないので、連絡手段がまったくない。
何か良い方法はないのか周りを見回しても、僕には何も思いつかなかった。
(もうみんな限界だ……1人でも多く助けるしかない)
もう部室を出て画面に映っている部員だけでも助けに行こうとしたとき、僕の頭の中に咳ばらいが届いてきた。
《輝正くん、こっちは終わったよ。状況を説明してくれる?》
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ご覧いただきありがとうございました。
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大変励みになります。
次の投稿は9月16日に行います。
次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
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