清澄ギルドの今後⑧~レッドラインを求めて~

境界適応症克服のためにレッドラインのあるオーストラリアへ向かいます。

お楽しみいただければ幸いです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「最近国土の3割を取り戻しましたよ? ハンターの活動が活発になってきています」


「それでも……」


「夏、澄人を信じなさい。大丈夫よ、あなたも救世主を知っているでしょう?」


「香さん……」


 お姉ちゃんはそう言ってくれているが、俺には自分へ言い聞かせて心を落ち着かせるように見えた。


 このツアーを計画する段階でオーストラリアは巡回の候補地としており、ワープ偽装用にこの水晶を用意した。


 世界の中でも突出している危険地帯へ行くことを納得させるために、不本意ながらも俺が救世主と呼ばれていることをお姉ちゃんたちへ説明した。


 お姉ちゃんと夏さんが深刻そうな顔をしているので、この場を離れるためにどうにか理由を探す。


「俺は先に向こうの様子を見てくるよ」


 休憩時間がもう少しで終わりそうなので、ワープ先に人がいないか確認をしなければならない。


 好都合に理由が思い浮かんだため、お姉ちゃんたちの返事を聞く前にワープを行なった。


「まあ……ここは安全地帯から遠く離れているから人なんていないんだけどね……」


 ワープ先のオーストラリア旧市街地には、モンスターの気配を複数感知した。


 国土の3割を取り戻したと言っても、残りはレッドラインの浸食が強く、モンスターを根絶やしにするのは安易ではない。


(昨日も掃除をしたんだけどな。それだけ空間が汚染されているんだ)


 有言実行するために俺は雷の剣を両手に握り、この辺り一帯にいるモンスターの掃討を始めた。


 モンスターを倒し終わってワープで戻ると、バスの外へツアー参加者が出ており、お姉ちゃんが説明をしていた。


「これからこの【ワープ水晶】を割って、レッドラインのある場所へ移動をします。境界へ入った時と同じように、少し上空へ放り出されるので、着地には注意をしてください」


 患者さんたちの後ろから気付かれないように忍び寄り、中央で説明をしているお姉ちゃんと目を合わせる。


 お姉ちゃんの視線を追うように移動し、目を合わせて準備ができたことをうなずいて伝えた。


「それでは水晶を割ります! 非常にまぶしいので、注意をしてください!」


――ガシャン!


 大きな音を立てて水晶が割れると、眩い閃光がお姉ちゃんを中心に放たれた。


「ワープします!!」


 全員が閃光から目をそらす中、お姉ちゃんが俺へ意識が向かないようにあえて声を出して合図をしてくれた。


それとほぼ同時に、俺は参加者全員を対象にしてオーストラリアへワープを行なう。


ワープが完了すると閃光は見えなくなり、どんよりとした空が広がるオーストラリアの大地へ着く。


「みなさん、こちらへついてきてください!」


 オーストラリアにあるレッドラインの場所を大体把握しているため、俺は迷うことなくみんなを案内した。


 目的のレッドラインへ着いたので、危険度がBなのかを確認するべく、【境界情報】を表示させる。


【B級境界】

 突入可能人数20名(▽)

 フィールド:平原

 消費体力:30/分


 このB級境界は普通の条件なので、強いモンスターが現れるため危険度が上がっている。


 レッドラインには俺が先に突入するので、お姉ちゃんたちは外で待っている付き添いの方々の護衛を行なう。


「では先に突入します! みなさん5分後に入ってきてください!」


 レッドラインであるB級境界へ突入した俺の前に現れた画面を見た瞬間、思わず手に魔力を込めた。


【フィールドミッション:モンスターの進行を食い止めよ】

 報酬:1分につき貢献ポイント【3,000】

 失敗条件:モンスターの境界外流出


「メーヌ!! 周囲を覆う壁を作れ!!」


 手に込めた魔力を使用してメーヌを召喚すると同時に命令を叫ぶ。


 一瞬だけ見えた境界内の様子は、ありとあらゆる方向からモンスターがこちらへ向かってきていた。


 B級境界でのフィールドミッションなので難易度と報酬が跳ね上がってしまった。


(今日初めて攻略されていない境界へ入るからミッションが発生した! 最低でも20分は守り切らなければならないな……)


 患者さんたちが入ってくるまでの時間が5分で、滞在する時間は短くても15分。


 その20分間はモンスターがこちらへ来ないように死守をしなければ、ツアーに参加してくれた人たちに被害が出てしまうだろう。


(雷の牽制はほとんど効果がない。壁を突進して突き破りそうだな)


 さらに魔力を込めて土の密度を上げ、さらに厚くすることで壁を頑丈にした。


 それでもモンスターは壁に激突を繰り返しており、ズドンズドンという地響きが鳴り止まない。


(ここでモンスターがこないように祈るのは怖いだろうな……よし!)


 俺は患者さんたちが入ってくるまでずっと壁を強化し続けた。


 ようやく5分が経ったのか、患者さんたちが境界内に入ってくるので、笑顔を向ける。


「壁があるのでここは安全です。少し揺れますが、気にしないで待っていてください」


 おそらくほとんどの人が初のレッドライン突入だと思われるので、怖がるなという方が無理がある。


 それでも15分は中に滞在してもらわないと境界適応症が克服できない。


「俺が合図をするまで絶対に出ないでくださいね。出た人はもう一回入ることになるので、頑張って耐えて下さい」


 俺はそう言い残し、宙に足場を作る天翔で壁の上部へ駈け登った。


 上からどんな状況なのか見下ろすと、そこには大地を埋め尽くす量のモンスターがここを目指していた。


「あれは……岩石の巨兵より大きなモンスター……こんな壁一発で崩されるな……」


 まだ遠くの方にいるが、俺が対峙した中でも1番大きな岩石の巨兵をはるかに上回る巨人が棍棒を持ってこちらへ歩いてきている。


 そいつでも厄介なのに、地面にいるモンスター1体1体が大型動物よりも大きい。


「これで20分耐えるのか……ミッションのこともあるしやりますか!」


 壁を破壊しようとするモンスターははるか遠くにまで存在しており、終わりが見えない。


 それでも境界適応症の人たちと自分のミッションのために俺はモンスターを倒す。


「フィノ!! モンスターを焼き尽くせ!!」


 魔力を思いっきり込めた手を広げてフィノを召喚する。


『遠慮はしないわ!!』


「任せる!!」


 俺の魔力を受け取ったフィノは歓喜の声をあげるように炎を迸り、大きく膨れ上がってモンスターの絨毯へ飛び込んでいった。


 炎がモンスターを焼却するように広がり、あちこちで火柱があがる。


 フィノのおかげで壁に隣接していたモンスターは黒焦げになったが、その残骸を踏み潰す勢いで次から次へモンスターが押し寄せてくる。


「残り18分40秒!! これしかない!!」


 俺は自分ができる最大火力の範囲攻撃グラウンド・ゼロを行なうべく、両手を思いっきり広げて詠唱を始めた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

もしよければ、感想、フォロー、評価、待ってますので、よろしくお願いいたします。

大変励みになります。


次の投稿は9月10日に行います。

次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

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