清澄ギルドの今後⑦~境界適応症克服ツアー~

境界適応症克服ツアーが始まります。

お楽しみいただければ幸いです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ハンタースーツなどの動きやすい恰好をしている患者さんたちを見回し、参加してくれたことに感謝をしながら口を開く。


「これより境界適応症を克服するための境界へ向かいますが、出発する前に配布するものがあります」


 アイテムボックスに入っていた回復薬ホルダーへ、回復薬(大)を入れてから参加者全員へ手渡した。


 患者さんの付き添いで来てくれている人にも予備を渡しておき、半数以下になったらこちらへ知らせてもらう。


「回復薬のストックは100本以上ありますので、気軽に声をかけて下さい」


 回復薬(大)はハンター協会の直営所で買うと1本30万以上するため、境界適応症の患者さんは一口ずつ惜しむように飲む。


 今回のツアーでは万が一の場合でも対応できるように、その回復薬をかなりの量用意しておいた。


(まあ、大半がアイテムショップで交換したものなんだけど)


 後ろにはお医者さんも同乗しているため、容態が急変した時にも対応が可能だ。


 バスが出発してから、お姉ちゃんが手元の資料を見ながらマイクを持つ。


「それでは、これからいくつか注意事項を聞いてください」


 目的地に着くまでの間、あらかじめ患者さんたちに配布していた資料に書かれている注意事項に加え、境界に入ってからの行動について説明をお姉ちゃんが行なう。


「あのう……8カ所の境界へ入るんですよね? 目的地が1ヶ所しか書かれていませんが、今日で終わるんですか?」


「はい、そうです。これから行く場所ですべて終わります」


「わかりました……ありがとうございます……」


 説明を聞き終わった付き添いの方が不思議そうな表情でお姉ちゃんへ質問をしてきた。


 間髪入れずにお姉ちゃんが回答したため、その人はそれ以上何も言わずに首を傾げながら資料へ視線を落とした。


「ほかに何か質問はありませんか?」


 患者さんや付き添いの方々はお姉ちゃんと目を合わせても何も言わない。


 お姉ちゃんが軽く頭を下げてから座席に腰を下ろし、ふーっと軽く息を吐いた。


「これで目的地まで仕事はないわね。ちょっと作業をさせてもらうわ」


 お姉ちゃんは鞄に入れてあったタブレットを取り出し、何かの資料へ目を通す。


 横に座っている夏さんは出発する前からノートパソコンとにらめっこをしており、ときおり悩むように唸っていた。


 俺は鑑定を行なって患者さんたちの体調を気にしつつ、目的地に着くまでバスに揺られた。


 数時間後、狭い山道の先にある目的地の境界発生場所へ到着した。


「それではゆっくりと前の方から降りて下さい」


 お姉ちゃんと夏さんには、境界の状況を確認するために最初に降りてもらった。


 最後に降りる人を見送ってから俺もバスを出て、戻ってきた夏さんと話をする。


「どうでしたか?」


全部・・残っていました。中も確認しましたが、モンスターの姿はありません」


「うまくいって良かったです。H級境界への案内をよろしくお願いします」


 夏さんへ境界の案内を頼み、俺は先回りして維持・・しておいたH級境界の状態を確かめる。


【H級境界】

 突入可能人数20名(▽)

 フィールド:山岳地帯

 消費体力:5/分

 残り時間(1:27)


(チュートリアルの境界にも【境界時間延長】が使えて助かったな)


 普通の人なら境界の突入権を確保することから始めなければいけないこの治療方法も、俺なら任意の危険度で境界を出現させることができる。


 今ここにある複数の境界は時間短縮のために、アイテムショップにあった【境界時間延長】で維持をしておいた。


 昨日下準備のために境界へ突入してモンスターを倒してあるので、患者さんたちが入っても安全だ。


(探す手間や移動時間の短縮ができるし、なにより安定する)


 おそらく、今後は境界適応症を治すために境界を維持し続ける人が必要になるんだろうなと感じながら、境界へ突入する患者さんたちを見送る。


(これができるのは危険度Cまで……さすがにBやAを出したら怪しまれるからな)


 レッドラインまで境界が揃っている場所にあったら、確実に境界を生み出すことができる存在がいると勘繰られてしまうだろう。


 境界の中にはお姉ちゃんが入っているので、俺や夏さんは外で付き添いの人たちと一緒に待つ。


 患者さんたちが全員境界へ入ってから、付き添いの人たちの中から2人の男性がこちらへ歩み寄ってきた。


 その2人が来るのがわかったので、夏さんへ目線で合図を送ってから他の人へ会話が聞こえないように少し離れる。


「草地さん、今日は来ていただきありがとうございます」


「いいえ。これが監査員の役割ですから」


 立花さんのお父さんと翔のおじいさんである草地さんもこのツアーに監査員として参加していた。


 境界適応症の治療方法について、ハンター協会の公認をもらうのが目的だ。


 夏さんもデータの収集を行なってくれているが、草地さんたちもどのように何をしたのか記録を取ってもらっている。


「境界の滞在必要時間は30分ほどですか?」


「10分間中にいれば大丈夫ということがわかったので、今回は余裕を持って15分にします」


 アラベラさんと境界を巡った時、俺はまだ1つの境界に30分いなければならないと思っていた。


 しかし、最後のA級境界滞在時に10分を経過したところでアラベラさんの体調が安定したため、30分も必要ないことがわかった。


それを立花さんのお父さんへ伝えると、深くうなずいてくれた。


「なるほど……訂正しなければなりませんね……この後の予定はこの工程表通りですか?」


 立花さんのお父さんは、境界適応症の報告書を印刷した紙へペンを走らせる。


 草地さんとこのあとのことについて話をしていると、患者さんたちが境界から出てくる。


「よくわかりました。この後もよろしくお願いします」


 草地さんは頃合いだと言わんばかりに話を打ち切り、立花さんのお父さんと一緒に境界の方へ向かった。


「みなさん、次のG級境界はこちらになります」


 お姉ちゃんが境界から出てきてから、夏さんが誘導を始めるので、今度は俺が先に境界へ突入する。


 お姉ちゃんと交互に境界内の護衛を行ない、C級境界までの工程が終了した。


 患者さんたちに昼食の時間と伝えてバスで待機してもらっている間、俺たちは荷台に積んである荷物を外へ出す。


 箱の中に入っているボーリング玉ほどの水晶を手に取り、夏さんが不安そうな顔を浮かべる。


「澄人さま、本当に大丈夫でしょうか?」


「大丈夫ですよ。安全が確保されたところから境界へ向かうので、そんなに危険ではないと思います」


「ですが……行く場所はあの【オーストラリア】ですよね?」


 これから治療を完了させるために、レッドラインが大量にオーバーフローをしているオーストラリアへ行く。


 それを心配している夏さんが、ワープ偽装用に作った【割れるとまばゆい光を放つ水晶】を俺へ渡しながら聞いてきた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

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大変励みになります。


次の投稿は9月7日に行います。

次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

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