清澄ギルドの今後④~玄関先での異変~
玄関先でソニアが泣き崩れてしまいました。
澄人がどうかかわっていくのか、お楽しみいただければ幸いです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「う、うぅぅ……」
話をしていたら急にソニアさんが膝から崩れ落ち、地面に手をついて涙が瞳からあふれ出す。
聖奈を起こそうとした手を止め、ソニアさんから事情を聞こうとしたとき、ビジネススーツの女性が玄関を閉めて中へ入ってきた。
「~~~~っ!?」
心配そうにソニアさんに駆け寄った女性は、肩を支えながら言葉をかけている。
その言葉を受けてもソニアさんはうなだれ、この世の終わりだと言わんばかりに絶望した顔になっていた。
明らかに何かが起こったという状況を見て、冷静になったお姉ちゃんが俺の横から声をかける。
「何があったんですか?」
「ソニアの妹の適応症が進行して、いくらエーテルを投与しても気を失ったままなの」
「終焉症状……はっ!?」
「治療法を知っている人に会えたのに!! どうして間に合わなかったの!?」
「ソニア!! 止めて!!」
ぼそっと呟いた輝正くんの言葉に、ソニアさんが反応して悔しそうに地面を叩く。
自傷行為に見える行動を止めるべく、ビジネススーツの女性がソニアさんを後ろから羽交い絞めにする。
その光景を見ながら、俺の中では色々な感情が渦巻いていた。
(俺に会った途端に適応症の終焉症状になった連絡? タイミング良すぎないか? でも、思考分析はこの人たちが心から悲しんでいるって表示しているし……どうすればいいんだ?)
境界適応症の治療法を求める人は山ほどいることがわかっている。
さらに、今朝お姉ちゃんにかかってきた電話が頭の中を駆け巡り、俺が行動することをためらわせていた。
俺が何もしなくても時間は過ぎ、英語で言い争う2人を眺めているともういいやと思えてきた。
「考えるのが面倒になった。ソニアさん、妹さんはどこにいますか? 今すぐそちらへ向かいましょう」
「え? 無理よ。アラベラ……妹はイギリスの病院にいるのよ」
英語での喧嘩が中断し、ソニアさんと相手の女性が青い瞳を俺に向ける。
「ソニアさんはいる場所がわかっているんですよね? それなら大丈夫です。これから起こることを一部始終黙っていてくれるなら会わせられますよ」
「本当に!?」
ソニアさんがビジネススーツ着た女性の手を振り払い、俺の肩をつかんでくる。
この2人が演技しているとは思えないため、俺は全力でソニアさんの妹を助けることにした。
「ええ、行くのはソニアさんだけでいいですか? そちらの女性は?」
「ヘレンもお願い。私の家族なの」
「わかりました。それでは行きましょう」
3人でワープを行なう準備をしようとしたら、俺のことを見つめるお姉ちゃんと目が合った。
「あ、そうだ。お姉ちゃん、帰りは遅くなるから気にしないでね。あと、夏さんに今日は急用ができましたって伝えてくれる?」
「え、ええ……わかったわ……行ってらっしゃい……」
お姉ちゃんへ伝言を頼めたので、俺は気兼ねなくアラベラさんを助けるために力を使うことができる。
「ソニアさん、アラベラさんのいる病院の場所を心に思い描いてくれますか?」
「イメージを持てってことかしら? いいわよ。鮮明に覚えているわ」
俺が行ったことのない場所なので、行先のイメージをソニアさんに持ってもらう。
ワープが発動できそうなので、最後にお姉ちゃんと動揺している輝正くんへ声をかける。
「行ってきます。ワープ」
ソニアさんとヘレンさんをワープ対象者として意識して実行した。
移動する前にいつもオーストラリアで活動する姿になり、俺だということがわからないように変装する。
ワープが終わって、宙に放り出されたので着地すると、両サイドの2人が地面へ尻餅をつく。
立ち上がらせるために手を差し出そうとしたら、ソニアさんが脇目も振らずに病院へ向かおうとした。
「待ってください」
「一瞬でここへ来る奇跡を起こしてくれてありがとう! でもどうして止めるの!? っていうか、その姿はなに!?」
マントを着込んだ俺の姿を見て、ソニアさんが走るのをやめた。
「アラベラさんは何処の病室にいますか?」
「最上階よ! 早く行かせて!」
「ここも俺に任せて下さい」
病院は非常に大きく、高さもあり敷地面積も広い。
その最上階へ行くのに普通の方法では時間がかかると思い、俺はソニアさんとヘレンさんを両脇に抱えた。
「なにをするの!?」
「飛びます」
2人の返事を聞く前に雷の翼を広げ、天翔で空を駆け上げる。
急いでいるとはいえ、こんな姿を撮られたりでもしたら恥ずかしくて外を歩けなくなる。
マントとフェイスカバーがあるおかげで俺だとはわからないはずなので、今は心置きなく空を駆けた。
「ソニアさん、最上階のどこですか?」
「あそこ!! あの窓が開いている部屋よ!!」
「面倒なので窓から突入しますね!!」
「ええ、お願い!!」
ソニアさんの同意が得られたので、減速することなく病室へ飛び込むことにした。
終焉期になった境界適応症の患者はいつ亡くなってもおかしくない。
俺の初動が遅れたので、それを取り返すために1秒でも早くアラベラさんのところへ向かった。
「窓からってえええっ!!?? ~~~~!!!!」
窓へ突っ込もうとしたとき、ヘレンさんが英語で何かを叫びながら俺の腕で暴れる。
危ないのでしっかりと抑えつけ、開いている窓から病室へ滑り込んだ。
「~~~~!!??」
中には数人の白衣を着た人たちがおり、全員が窓から飛び込んできた俺たちを見て動揺する。
「私に任せて」
「お願いします。できれば出て行ってもらってください」
「わかったわ」
医者や看護師と思われる人たちの対応をソニアさんに任せて、俺はベッドに横たわるアラベラさんに近寄る。
ソニアさんと同じ髪色で赤みがかっており、お姉さんに似てこちらも美人のため姉妹だということがわかる。
(この症状は間違いなく境界適応症の終焉期……疑ってごめんなさい)
【アラベラ・マーシュ ステータス】
【年 齢】 16
【神 格】 3/6
【体 力】 0/4,700
【状 態】 衰弱
鑑定で覗いた体力の数値は、エーテルを投与しているにもかかわらず0と1を繰り返していた。
境界適応症の終焉期は体力の消費スピードが上がり、エーテルの点滴投与が効かなくなる。
(それなら、適応症に負けない回復量を与えれば良い)
ソニアさんが白衣を着た人たちを部屋から追い出してくれたので、俺はアラベラさんへ手を添えてスキルを発動させる。
(神の祝福)
スキルを発動させると俺の手から白銀の光が放たれ、アラベラさんの周囲に白銀のカーテンが降り注ぐ。
「オーストラリアの救世主……まさかあなただったの……」
それを見たヘレンさんは俺がオーストラリアで呼ばれている通称を口にする。
「ええ、そうですよ。これも秘密にしてくださいね」
「えっ!? わ、わかっているわ!」
ここに来る条件として俺が行なう一切の行動を秘密にすることなので、あとで約束を破らないようになにか制約を作らなければいけないだろう。
(目の前で神の祝福を使ったからな……)
今一番秘密にしておきたいことを見られたため、どうにかして2人の口から洩れないようにしたい。
「う、ううん……」
「アラベラ!?」
昏睡状態でベッドへ寝かされていたアラベラさんが目を擦って、身じろぎをする。
「~~~~?」
「~~~~!!」
ソニアさんが横たわるアラベラさんを泣きながら抱き寄せて大切そうに背中をさすっている。
(神の祝福……体力回復薬(特)を飲まし続ければ活動はできるか? 出回っているエーテルよりも回復量が多いから、試してみる価値があるな)
何の治療もせずに回復をさせただけなので、アラベラさんの体力がガンガン減っていく。
このまま病院にいても境界適応症はアラベラさんの体をむしばむだけなので、ソニアさんと同じように涙を浮かべているヘレンさんの肩を軽く数回叩いた。
「ヘレンさん、アラベラさんに通訳してほしいことがあるんですけど、お願いできますか?」
「もちろんいいわよ。なんて伝えればいいの?」
二つ返事で了承してくれたヘレンさんに、アラベラさんを見下ろしながら言葉をかける。
「これからきみの境界適応症を治す。俺へ命を預けることができるかい? と伝えて下さい」
ヘレンさんは力強くうなずき、英語でアラベラさんへ話しかけた。
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ご覧いただきありがとうございました。
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大変励みになります。
次の投稿は8月23日に行います。
次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
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