清澄ギルドの今後③~澄香からの提案~

澄人へ澄香がギルドを抜けるように話をしております。

お楽しみいただければ幸いです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「本当に通るみたいよ。師匠や平義さんから澄人をしばらくギルドから遠ざけるように忠告されたわ」


 お姉ちゃんもその事実が信じられないのか、ため息をつきながら腕を組んで眉間にしわを寄せた。


 どう考えても一部の人たちの利益にしかならなそうな要望を師匠が管轄しているハンター協会が通すとは思えない。


 ただ、これが通ると師匠と平義先生がお姉ちゃんへ伝えるくらいなのだから、本当に会議に提出されて受理されるのだろう。


「はー……ハンター協会ってそんなところなんだ……」


「ハンター協会というより、今朝電話をしてきた武正おじさんがこの要望を通すために若手のハンターの署名を集めているらしくって、ごり押ししているみたいよ」


「それを防ぐために俺が清澄ギルドを抜けることになるの?」


 持っていた紙をテーブルへ置き、お姉ちゃんと話をするために肘を付ける。


 コツコツコツと苛立ちを隠せずに無意識のうちに指でテーブルを叩いてしまう。


「そうね……清澄ギルドを抜けた澄人が、今はギルドの活動をするつもりがないって言い続ければこんな要望無視できるっていうのが忠告をしてくれた2人の筋書きよ」


「どのギルドに入るかなんて個人の自由なのに、こっちが我慢することになるんだ……おかしいよ」


「そうようね。私もそう思うわ」


「強引な人なんだね」


「まあ、今朝も澄人がいなくなってから大変だったんだから」


 お姉ちゃんが今朝受けていた電話を振り返ると、この人が境界適応症の治療法について調べていることを思い出した。


(こんな要望をごり押しするような人が大人しく指をくわえて待っているわけがない)


 お姉ちゃんの口ぶりから、さらに追及があったことが予想できる。


 何があったのか聞くために自分の予想を含めながら会話を行う。


「今朝の電話はその草壁さんからだったんでしょ? あんな風に突き放したから家に来たの?」


「来ていないけど、電話越しにね」


「電話で済んだんだ……直接来たと思ったよ」


「この家は草凪家の本家だから、当主から招かれたハンター以外が来たら重い罰則があるの。基本的にお客さんほとんどきたことないでしょ?」


 思い返せば、俺がここに住んでからこの家へ来た人はAクラスのみんなや師匠、平義先生くらいだ。


 この家にそんな秘密があったのかと驚く半面、その規則には身に覚えがあった。


「あー確かに。ハンターになる前の草地さんが俺と接触をしてハンター資格をはく奪されたこともあったね」


「あの件は別件だけど……根本は同じよ。招かざる客は立ち入れないってね」


 ここに住めていて助かったわと続けるお姉ちゃんの顔が少しだけほころぶ。


 来てほしくない人がこないのなら、俺はほとぼりが冷める間、学校と家をワープしていれば余計な心配をしないで済む。


(それはそれで楽か?)


 今はあまり人の目にさらされたくないので、そういう場面に赴かなければよい。


 ハンターとしての活動も、ワープでどうとでもなる。


 ――ピンポーン


 こんな無理やり特定のギルドに所属させられるくらいならそれでも良いかと考え始めたとき、来客を知らせるチャイムが鳴った。


「私出てきます」


「お、おお。頼むよ聖奈」


 いつの間にか居間にいた聖奈が反射的に立ち上がって、玄関へ向かっていく。


 いたことに気付かなかったので、その背中を見送りつつ、セールスなどのハンター関連ではない人の来客だと考えた。


(この家に来れる人のことを教えてもらっているときに来客……まあ、一般人だろうな)


 お姉ちゃんへ清澄ギルドを抜ける旨を伝えようとしたら、なにやら玄関から聖奈の声が聞こえてくる。


「誰か来たのかな? クラスメイトが来るって聖奈から聞いてる?」


「ううん聞いてないわ。師匠や平義さんも来るって連絡ないけど……誰かしら?」


「キャー!!!!!!!!」


 お姉ちゃんと来客してきた人について話をしていたら、聖奈の悲鳴が家中に響く。


 聖奈の絶叫でただ事ではないことを察し、俺とお姉ちゃんは目を合わせた瞬間に玄関へ向かって駆け出した。


(神気解放! 聖奈!!)


 聞いたことがないほど大きな聖奈の悲鳴で、俺の中の警戒心は上限を振り切れた。


 それに、聖奈は以前もさらわれたことがあるため、絶対に犯人を逃がさないつもりだ


「聖奈!! 大丈夫……か?」


 聖奈の気配が玄関から動かないので抵抗をしていると思ったら、気絶するように廊下の壁に寄りかかっている。


 心配そうにのぞき込んでいた金髪の女性が困ったようにこちらへ青い瞳を向けた。


「すいません。驚かせてしまったみたいです。声をかけても起きなくて」


 金髪の女性が何かをやったような痕跡がなく、倒れている聖奈を心配しているだけの様子に気が抜ける。


「はあ……なにかあったんですか?」


「たぶん、私を見たからだと思うけど……」


「あなたを見ただけで?」


 赤みがかった金髪の女性は容姿が整った顔で真剣に悩み、はっきりと原因が自分であると断言した。


 人を見ただけで倒れるわけがないだろうと言おうとしたとき、後ろから追いかけてきたお姉ちゃんが俺の後ろで立ち止まる。


「嘘っ!? えっ!? どうして!?」


「お姉ちゃん、この人知っているの?」


「知っているもなにも……えっ!!??」


 お姉ちゃんが何度も玄関にいる女性の顔を見て同じ言葉を発するので、ろくに会話ができなくなってしまった。


 どうしたものかと悩んでいたら、玄関の外から見知った顔がこちらをうかがってくる。


「澄人くん。急にごめん、この人境界適応症の末期になっている妹さんがいるみたいなんだ。助けてあげられない?」


 輝正くんが自分よりも背の高い女性の横に立ち、連れてきた経緯を説明してくれた。


「私はソニア・マーシュよ。初めましてスミト・クサナギくん」


 軽く笑顔を向けられただけで、なぜかこちらが恥ずかしくなるような美しさを持つ女性だった。


 ソニアと名乗った女性は明らかに日本人ではないのに、流暢に日本語で話しかけてきていた。


「初めまして、日本語お上手ですね」


「フフッ、褒めてくれてありがとう」


 どこかで聞いた名前だと思いながら、差し出されている手をドキドキしながら握り返す。


 ぎこちなく握手を交わしながら、横で倒れている聖奈を見て、ピンときた。


(この人だ! 聖奈が大好きって言っていた歌手!)


 今度行くライブで歌う人が急に目の前に現れてしまったため、聖奈がこんなことになってしまったのだろう。


 詳しく境界適応症の妹さんについての話を聞こうとしたとき、開けられた玄関の扉を別の人がつかんだ。


「ソニア!! 大変よ!! 電話に出てあげて!!」


 外にいた同じように美人の女性がソニアさんへスマホを差し出してくる。


(美人の人の周りには同じような人が集まるのか?)


 金髪でも人によって微妙に色が違うんだなと、サラサラと揺れる髪の毛を見ながら思ってしまった。


 ビジネススーツを着ている女性からスマホを受け取ったソニアさんは俺へ背中を向けて会話を始めた。


 その会話が英語で交わされているため内容は聞き取れないが、ビジネススーツの女性が心配そうにソニアさんを見守っていたため、良い話ではないことはわかった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

もしよければ、感想、フォロー、評価、待ってますので、よろしくお願いいたします。

大変励みになります。


次の投稿は8月20日に行います。

次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

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