清澄ギルドの今後②~オーストラリア彷徨~
澄人がマントを着てオーストラリアを彷徨います。
お楽しみいただければ幸いです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
数年前まで人が住んでいたとは思えないほど荒れ果てた地を歩き、人の形をした物体を探す。
がれきの下など、気配察知を細かく行わなければならないため、有効範囲が通常の十分の一ほどになってしまっている。
(適当にワープをしたけど、レッドラインの影響範囲だから倒れている人がいると思うんだけどな……)
広域の気配を探ると数百のモンスターの存在がわかるため、この辺りで戦闘が起こっていてもおかしくはない。
(人を治療するためにモンスターを追い払っていたらレッドラインへ突入しちゃったからな。勢い余っていくつか攻略しちゃったけど、オーストラリアにはまだまだオーバーフローを起こした境界がある)
ここへ初めて来た時、オーストラリアのひとたちはモンスターから追い詰められて狭い範囲での生活を余儀なくされていた。
レッドラインによる浸食も進み、オーストラリアのほとんどの地域にはモンスターが現れており、影響を受けていない地域は限られている。
(レッドラインが世界で一番多い国だから来てみたけど、こんな状況になっているなんて思わなかった)
オーストラリアの情勢はモンスターが圧倒的に勝っており、毎日少なくない数のハンターが死んでしまっていた。
それをなんとかするため、使ったことがなかった神の祝福で治療をしてみたところ、驚くべきことがわかってしまう。
(神の祝福はどんな状態の人でも治すことができる)
この数日間、神の祝福を使い続けて出した結論だ。
「この瓦礫の下か。メーヌ」
家だったモノの下にまだ生きている人が埋まっていると雷が察知した。
メーヌで瓦礫を退かして生存者を地表に出すと、虫の息となっている男性が横たわる。
「~~~~」
英語で何かを言っていることがわかるものの、内容を聞き取ることが出来ない。
こんな時はテストで点を取るような英語ではなく、日常的に英語を話す機会がなかったことが悔やまれる。
(近くに他の生存者はいない。この人の家族が無事であることを祈ろう)
横たわる男性へ意識を向けて状態を確認する。
服が切り裂かれて全身に傷があり、両手足が潰され、顔が鋭利なものでひっかかれて右目がえぐれてしまっていた。
言葉を俺へ伝えて思い残すことは無くなったのか、男性の思考が満足しており、今にも息を引き取りそうだ。
(その言葉は自分で伝えて下さい)
こんな状態になって良く生きていてくれたと感謝をしつつ、神の祝福を行なう。
(神の祝福)
心の中でスキルを唱えると、男性へ白銀の光が降り注ぐ。
手足が修復され、全身に渡っていた傷が跡形もなく消え去り、顔も元通りになった。
(旧シドニー地区へ男性をワープ!)
治した男性から何かを言われる前に、数多くのハンターが防衛しているシドニーがあった地区へワープさせた。
ここに各国からの支援物資などが届けられているため、家族がいるならこの場所だろう。
逆に俺はその付近には立ち寄らず、支援の手が行き届いていない人たちを探している。
(レッドラインに囲まれて動けなくなっている人が多い。結集させるくらいなら)
俺は1人しかいないため、できることは限られている。
それに、人を一ヶ所に集めることで、旧シドニー地区から遠いレッドラインは俺が自由に立ち入ることができるようになる。
人助けついでに神の祝福がどのようなものか把握するために使っているが、この様な姿でなければこんなに乱用していない。
(老衰の死の要因で亡くなった人も生き返る。そんな効果聞いたことがない)
手足の欠損ならまだエリクサーなどを使えば治るため、言い訳をするための口実がある。
ただ、死者を蘇らせる薬やスキルはどの文献をさがしても載っていないため、歴史上初だろう。
(モンスターから助けた子供に泣きつかれて、ダメもとでその子の両親っぽい人に使ってみたら蘇っちゃったからな……)
朝のニュースで、オーストラリアで起こっている奇跡として俺の行動が紹介されていた。
絶対にそれをしている人の正体が俺だとばれないようにしなければならないため、この地で俺がマントを脱ぐことが無いだろう。
(この人は下半身をモンスターに食い千切られているな)
今度はモンスターと戦って息絶えてしまった人を発見してしまった。
これでも神の祝福を使えば蘇生ができてしまう。
スキルを使用してから本人が気付かないうちにワープを行ない、再び歩き出す。
(旧シドニーにいる人はいきなり人が現れてどう思っているんだろう? そこまで考えなくてもいいか)
おそらく勝手に解釈をした結果、俺を救世主と祭り上げることになったのだろう。
昼近くになったため、今日はこの辺にして日本へ帰ることにする。
(午後は夏さんと環境適応症についての報告書をまとめるから、余裕を持って帰ろう)
他に要救助者がいないことを確認してから自分の部屋をイメージしてワープを実行した。
部屋でマントを脱ぎ、アイテムボックスへ投げ入れる。
ずっと歩き回って喉が渇いたのでお茶を飲むために居間へ行くと、いつもこの時間はギルドハウスにいるお姉ちゃんが机の前に座ってこちらをジッと見てきた。
「お帰り澄人。ちょっと話があるんだけど、いい?」
お姉ちゃんがギルドマスターとして何かをするときの雰囲気をまとっているので、なにか大切な話を俺にしようとしていることがわかる。
ただ、身に覚えがありすぎて何の話をするのかわからないので、こちらから切り出すことにした。
「どの件についての話?」
「悪いんだけど、境界適応症の治療法について公表をしたら、しばらくギルドを抜けてもらえるかしら?」
「ギルドを抜ける? 観測員としての活動や境界へ突入ができなくなるってことだよね?」
所属しているギルドを抜けるということはハンターとしての活動が著しく制限される。
草根高校に所属しているため異界などには突入できるが、それ以外のことができなくなるという認識で間違いない。
「そうよ。理由はこれが近いうちにハンター協会の役員会で承認されるからよ」
机の上で裏返しになっていた紙をお姉ちゃんが俺へ渡してくる。
受け取って書いてある文章を読んだ俺は、内容がお粗末すぎてどう反応すればいいのかわからなくなった。
「これ……えーっと……本気でこんなものが役員会を通るの?」
【草凪澄人を若草ギルドへ合流させる】
草根市の有力ハンターが集結している若草ギルドのギルドマスターとして草凪澄人を合流させる。
これは日本を代表する草凪ギルドがになっていた役割を再建するものである。
※ 草凪澄人はギルドマスターの資格を持っていないため、取得するまでは現在のギルドマスターである草壁武正が運用の補助を行うこととする。
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ご覧いただきありがとうございました。
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大変励みになります。
次の投稿は8月17日に行います。
次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
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