清澄ギルドの今後①~興奮する聖奈~
ある出来事があり、聖奈が興奮しています。
お楽しみいただければ幸いです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「お兄ちゃん! ソニアのライブチケットが取れたから一緒に行こうよ!!」
「……ソニア? 俺、境界適応症のことを夏さんとまとめているから、誰かほかの人を誘ってほしいな」
「日本で1回しか公演をしないからプレミアムチケットだよ!? 本気で行かないの!?」
休日の朝、朝食を食べ終わった聖奈が俺の横に正座をしながら力説を始めた。
俺の人生にライブに行くなんて選択をする日が来るとは思わなかったが、聖奈の言うソニアさんのことさえ知らないので、楽しめる人がチケットを使うべきだ。
「俺、ソニアって人のこと知らないからいいよ」
「はぁ!!?? お兄ちゃん本気で言っているの!!?? というか、ソニアのこと知らないって嘘でしょ!!??」
聖奈が未知の生物を見るような目を俺へ向けてくる。
声が大きく、朝食の片付けをしていたお姉ちゃんが居間へ顔をのぞかせた。
「聖奈ちゃん、急に大きな声を出してどうしたの?」
「香さん、聞いてください! お兄ちゃんがあのソニア・マーシュを知らないって言うんですよ!?」
お姉ちゃんに駆け寄った聖奈が俺へ人差し指を向けながら訴えかけるように言葉を放つ。
それを聞いたお姉ちゃんは苦笑いを浮かべつつ、いやいやというようにゆっくりと首を振った。
「えぇ……世間に疎い澄人でもそれはないでしょう……」
「俺は本当に知らないよ。お姉ちゃんは知っているの?」
「知っているも何も――ほら、丁度このCMで流れている曲を歌っている人よ?」
お姉ちゃんにうながされてテレビへ視線を移すと、毎日流れている有名飲料水メーカーのCMが映し出されていた。
これなら俺も聞いたことがあり、同じ声の人が歌っている曲を数曲知っている。
「へー、これを歌っている人がソニアって人なんだ?」
「そうだよ!? 英語だけじゃなくてフランス語とかドイツ語とか、色々な国の言語で自分の曲を歌っているから、銀河の女王って呼ばれているの!」
珍しいくらい聖奈が俺へ力説をしてくるので、ソニアって人について興味が湧いてきた。
「聖奈はソニアについてすごく詳しいんだね」
「私ファンクラブに入っているから! 彼女の曲を心の支えにして生きているの!」
「そ、そうなんだ……」
聖奈が良く曲を聞いていたのは知っていたが、そんなに好きだとは思いもしていなかった。
本当にこの人のことを心の支えにしており、説明をしてくれている聖奈の目が輝いている。
「そのソニアが初めて日本でライブをするっていうから、頑張ってお兄ちゃんの分もチケットを取ったんだよ!? 転売防止で他の人はこのチケットを使えないから一緒に行こうよ! 私お兄ちゃんと行きたいの!!」
テーブルの上にチケットを置いた聖奈がお願いと呟き、涙ながらに訴えてくる。
お姉ちゃんは微笑みながらこちらを見ており、行ってあげればと口の動きで伝えてきた。
「わかったよ一緒に行こう。予定を空けるから、いつあるのか教えてくれる?」
「やったー!! 来週の土曜日だよ!! もうキャンセルしちゃ駄目だからね!?」
大げさに両手を上げて喜んだ聖奈は、俺の手を取って指切りを交わすために小指を絡ませる。
来週の土曜ならなにも予定はなかったはずなので、微笑みながら聖奈の小指をつかむ。
「ソニアのライブへ聖奈と一緒に行くよ。チケットを用意してくれてありがとう」
指切拳万と上機嫌に口にする聖奈を眺めていたら、お姉ちゃんが自分のポケットをまさぐる。
「誰かしらこんな朝から」
スマホがヴーヴー震えている音も聞こえたため、誰かから連絡がきていることがわかる。
「電話?」
「そうみたい……げっ!?
スマホの画面を見たお姉ちゃんはあからさまに嫌そうな顔になった。
お姉ちゃんがその名前を口にしたのを聞いたが、姿は見たことがある。
(草壁武正。ハンター協会の役員で、交流戦のときに俺へ話しかけてきた男性だ)
あの時に俺の力を試そうとした人が誰なのか気になり、ハンター協会の役員を名乗っていたのですぐにわかった。
お姉ちゃんの表情から、その人との仲が良好でないことがわかる。
「……しょうがない……もしもし?」
しばらく画面を眺めて電話が切れないか待っていたお姉ちゃんが観念したようにスマホをタップした。
「澄香!! どうしてすぐに出ないんだ!?」
スマホを耳へ近づけたお姉ちゃんが思わず耳を離す。
一瞬イラッとした表情に変わったお姉ちゃんは耐えるように歯を食いしばる。
「おじさん、こんな時間にどうしたんですか? 急になんて出られませんよ」
何とかいつも通りの声に戻して話をするお姉ちゃんが立ち上がって居間から出て行こうとした。
「今日中に境界適応症の治し方を聞きたいから、澄人と会わせてほしい」
「澄人は治療法を世界へ発表するために準備をしているんですよ? 話を聞いて横取りをする気ですか?」
聞く気はなかったが、相手の声が大きいこととお姉ちゃんが不快感をあらわにしたため、会話が耳に届く。
それも聞き捨てならないことを相手が言っているようなので、聞き耳を立ててしまう。
「そうじゃない。適応症で苦しんでいる家族のいる友人がいるんだが、先に治してあげたいんだ」
「それなら直接澄人とその友人さんと会わせればいいじゃないですか。おじさんが治療法を聞く必要はありますか?」
よっぽど相手のことを信用していないのか、お姉ちゃんの口調が厳しい。
治療法も大変なだけで別に隠すことでもないため、教えてもいいが個人で実行できるか怪しい。
一番手っ取り早いのが俺とその患者さんを会わせることなので、お姉ちゃんの言い分はもっともだ。
「澄香!! 口応えをするな!! 会長のお気に入りだからって役員の俺に意見をするのか!?」
そう言われたお姉ちゃんはゆっくりと息を吸い、スマホを顔から離す。
「私は正澄さまに頼まれた通り、おじさんのような自分のことしか考えられない人から澄人を守っているだけです。それに、夏たちが日本で適応症にかかっている人のリストを持っているので一通り見ましたが、おじさんと接点がありそうな適応症の人はいませんよね? もし患者がいるのならいくら積まれたんですか?」
「澄香お前っ!?」
「答えられないですよね。やっぱり相手からお金をもらっているからでしょう? 優先的に自分が治すとでも言ったんですか?」
お姉ちゃんは敵意をむき出しにして電話の相手へ言葉を投げつけていた。
(お姉ちゃんが守ってくれているから俺にくることはないな)
俺は自分へ話を振られることがないと感じ、時計を見て今日の活動を始めることにした。
居間を離れるように席を立つと、聖奈が慌てて駆け寄って耳元へ顔を近づけてくる。
「お兄ちゃん、約束忘れないでね」
「わかっているよ。ちょっと出かけてくる」
「うん。行ってらっしゃい」
小声で聖奈と話をしたあとに部屋へ戻り、全身を覆うような黒いケープマントを取り出す。
顔が見えないようにフェイスカバーをつけ、フードを深く被る。
(よし、今日もオーストラリアへ行きますか!)
俺は神の祝福を自分のモノにするために、レッドラインの攻防戦で負傷者が多く出ているオーストラリアへワープした。
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ご覧いただきありがとうございました。
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次の投稿は8月14日に行います。
次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
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