境界適応症⑨~モンスターが侵略してくるとき~

澄人がオーバーフローを起こした境界を観察しています。

お楽しみいただければ幸いです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「なるほど、こうやって境界からモンスターが出てくるのか」


 スライムの核を雷で破壊しながら、境界からこちらへモンスターが現れる仕組みを解析する。


(境界の輝きが増してから、俺の雷が境界の向こう側へ届いた。この間は繋がりが強くなるのか?)


 通常、境界の渦に向かって攻撃を行なっても、向こうの世界に届くことはない。


 異界ゲートも同様で、向こうの世界にいるモンスターはこちら側から攻撃ができないと認識している。


 ただ、目の前にあるオーバーフローを起こした境界が輝きを強めてモンスターを吐き出したとき、察知用の雷が向こうの世界に届いてしまった。


(こうなるとやりたいことがある)


 先ほどよりも境界とこちらの繋がりが弱まったのか、境界の中を探ろうとしていた雷が千切られた。


 スライムを倒していた時間を考えれば、大体5分程はこちらから境界の中へ関与することができるだろう。


「輝正くん、念のために東京の観測センターへ電話をかけて、神津島のレッドラインに誰も突入していないか確認してもらってもいい?」


「う、うん……なんて電話をかければいいかな?」


「総合高校の生徒ですが調査のため質問をしたいことがいくつかありますって言えば答えてくれないかな?」


「わかった。かけてみるね」


「よろしく」


 輝正くんがポケットからスマホを取り出して、電話をかけ始める。


 その間、赤黒い境界からモンスターが排出される間隔の時間を計測する。


「澄人くん、レッドラインどころか神津島に降り立ったハンターがここ数ヶ月いないらしいよ」


「ありがとう。それがわかってよかった。少し下がっていてくれる?」


 輝正くんが黙ってうなずき、俺と境界から離れる。


 アイテムボックスから草凪の剣を引き抜き、レッドラインと向き合う。


 いつでも神気を解放できるように剣を構え、ジーッと待っていると再び赤黒い光が明るさを増してきた。


 輝きをばらまこうとする瞬間、掲げるように構えた草凪の剣の神気を解放して振り下ろした。


「草凪の剣よ!! 世界をむしばむこの境界を滅せよ!!」



 神の一太刀!!!!



 草凪の剣から放たれた金色の光が境界を切り裂き、赤黒い光が島を覆いつくすように飛散する。


 島全体へ降り注ぐ光を眺めていると、金色の画面が俺の間に表示された。


【★シークレットミッション達成】

 比類なき力で境界を消滅させました

 功績を称え、SSS級スキル《神の祝福》を授与します


 ミッション達成をつげる金色の画面から放たれた光が俺へ吸い込まれる。


 スキルの詳細が記載されている画面を見て、俺は新しい力の使い方に困ってしまった。


【スキル詳細】

 スキル:《神の祝福》

 使用条件:知力S以上

 消費魔力:10,000

 説明:対象を完全回復する


(完全回復ってどの程度までなんだ? 草凪の剣と同じSSS級だから効果には期待できるけど、いきなり実践で使うのは止めた方が良いな)


 新しいスキルのことはまた今度考えることにして、画面を消していると俺は自分が大きな失敗をしてしまったことに気付く。


(あ、オーバーフローをした境界がどういう変化があるのか知りたかったのに、鑑定するのを忘れてた)


 ドサッと何かが倒れるような音が背後で聞こえたので振り向くと、輝正くんが腰を抜かすように尻餅をついていた。


 謝らなければならない輝正くんへ近づき、立たせるために手を差し伸べる。


「ごめん、ここのレッドラインへ入れなくなったから、次に行こうか」


「次……えっ!? 次!?」


 目を丸くしている輝正くんは俺の手を無視して、耳を疑うように質問をしてきた。


「そうだよ、境界適応症を完治させたいからね。次も人が近くにいないレッドラインがいいよね」


 いつまで経っても輝正くんが握り返してくれないので、差し伸べた手を引っ込める。


 スマホで神津島全体の地形を確認し、元通りに直してからここを離れようと思った。


「とりあえず、俺は島を直すから、輝正くん次に行く場所を調べてもらってもいい?」


 地べたに座り込んでいた輝正くんは口をポカンと開けており、調べてくれそうにない。


(確かに境界を消し去るのを目の前で見たらこうなるか。慣れてもらわないとな)


 輝正くんは今後、他の人よりも多く俺と一緒にレッドラインや境界へ突入することになる。


 今のように俺のやることにいちいち腰を抜かしてしまったら話にならないので、そろそろ注意をしようと思う。


「呆けるのはその辺にして、早くB級境界がオーバーフローした場所をさがしてもらってもいい?」


「ハハハ……わかったよ……調べてみるね」


 かすれた笑い声をあげた輝正くんが、何度かうなずいたあとに座りながら検索を始めた。


 あまりじっと見られるのも嫌だと思うので、俺は精霊たちによって原形をとどめていない島を直すことにする。


「メーヌやるぞ」


《うん!》


 光が舞わなくなった神津島の地形をメーヌに頼んで直す。


 写真と同じような地形を目指し、オーバーフローを起こす前の自然を作り出すことにした。


 作業を進めている時、茶色の光が俺の肩に止まる。


《澄人、湧き水を出すことは僕にできないよ?》


「あれは出てくるまでに年月が必要だから今はいいよ」


《はーい》


 大地の精霊であるメーヌは、湧き水が出る環境を作ることが出来ても、実際に水を出すことはできない。


 水の妖精なら真友さんが使役することができるが、今の俺は大地と火の精霊しか契約できずにいる。


(真友さんを呼ぶ? いや……そこまでしなくてもいいか)


 いつかは水の精霊を召喚できるようになりたいと思いながらメーヌの作業を見守る。


《これで終わりかな? 楽しかったよ! またね澄人!》


 島の改修工事を終えたメーヌが嬉しそうに消えていった。


「澄人くん、ここなんてどうかな。本州から離れているし、浸食速度も遅いからハンターもあまり来ないと思うよ」


 作業が終わるのを待っていてくれたのか、メーヌが消えたタイミングで輝正くんがスマホを俺へ渡してくる。


 場所や境界の脅威度も問題ないため、輝正くんが調べてくれたところへ向かおうと思う。


「調べてくれてありがとう。そこへ行こうか」


「今度も境界を消すの?」


「いや。輝正くん以外の境界適応症で困っている人を治療しようと思っているから、次からはモンスターの掃討だけにしておくよ」


 今後のことを考えるとオーバーフローを起こした境界を片っ端から攻略するのは得策ではない。


 さらに、境界からあふれ出すモンスターを倒しても収集品がアイテムボックスに入るので、貢献ポイントへ変換するために倒し続けるという選択肢もある。


 輝正くんの神格を上げるためにも貢献ポイントは必要なため、稼げる場所があるなら活用しておきたい。


「さて、それじゃあワープをするから、今度もしっかりと俺のことをつかんでいてくれる?」


 輝正くんは神津島へ来た時とは違って、俺の肩をがっしりとつかんでくる。


 俺をつかむ手には力が入っており、絶対に離さないという気持ちが伝わってきた。


「ワープ」


 俺は輝正くんへ境界適応症と呼ばれていた境界耐性のスキルを習得させるべく、新たなレッドラインへ赴くためにワープを行なった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



ご覧いただきありがとうございました。

もしよければ、感想、フォロー、評価、待ってますので、よろしくお願いいたします。

大変励みになります。


次の投稿は8月8日に行います。

次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

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