境界適応症⑧~レッドラインオーバーフロー地帯神津島~
オーバーフローを起こした神津島の境界へ向かいます。
お楽しみいただければ幸いです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ワープが発動して景色が切り替わると、体が重力に引っ張られるように落下を始めた。
スマホで見た神津島が上空からの写真だったため、俺と輝正くんは宙に放り出されたようだ。
「うわああああああ!!!! 澄人くんどうなってるの!!??」
俺の腕を必死に掴む輝正くんは普段のさわやかさを吹き飛ばすようにわめき散らす。
(どこへワープしても大丈夫なようにしっかりつかまっていてほしかったな……)
このままでは地面と激突してしまうので雷の翼を広げ、輝正くんの腕を引き上げて自分の肩を掴ませる。
「両腕でしっかり落ちないようにつかんでいてくれる?」
「わかった!! わかったから早くなんとかして!!」
輝正くんが俺の両肩をがっしりと掴み、落ちないようにしがみつく。
それと同時に翼をはためかせて、激突寸前に体を浮上させた。
「すごい!! 飛んでる!!」
輝正くんがアトラクションを楽しむような歓声を上げる中、騒いでしまったせいで余計な気配を察知してしまう。
「輝正くん、ちょっと揺れるからしっかりつかんで!! 舌を噛むから口を閉じた方がいいよ!!」
その場で急旋回すると、手のひらよりも一回り小さい透明な塊が俺の頬をかする。
空を蹴って無理やり方向を変え、俺へ打ち出されている水のような塊を次々に避ける。
地面にはスライムのようなドロドロの塊が無数にうごめいており、その中心から銃弾のような攻撃を放ってきていた。
こちらへ放たれている弾の数が尋常ではなく、一瞬でも止まったら餌食になりそうだ。
「なんて数だ!! 面倒くさい!!!!」
モンスターの気配が神津島を覆っており、詳しく数える気も起きないくらい大量に存在している。
弾丸のような攻撃が届かなくなる高度までらせんを描くように上昇し、息を整える。
「こんなに広範囲で密集している……境界に近づけないな」
上空からでは神津島に発生した境界を目視で確認することができない。
島の中心部に発生したわけでもなさそうなので、実際に地上を探索して境界を見つけるしかないだろう。
しかし、地上に降り立つにはあれらのモンスターを掃討する必要がある。
「……元の形がわからないけど、終わったあとで
「澄人くん、どうするの?」
背中から輝正くんの怯えた声が聞こえてきた。
しがみついてくれていた輝正くんに水弾に当たっていないことを確かめてから両手へ魔力を込める。
「こうするのさ」
アイテムショップを開いて、魔力をいくらでも使えるように準備をして2体の精霊を召喚する。
「メーヌ!! 【フィノ】!! 全部持っていけ!! 島のモンスターを掃討しろ!!」
大地と火の精霊を呼び出し、応援するように残っているすべての魔力を注ぎ込む。
《澄人!! ようやく使ってくれたのね!? 私に任せて!!》
炎をまとった精霊は太陽のように熱を発しながら、島へ衝突するように降下する。
《僕も負けないから!!》
大きくなりながら落下する炎の塊を追いかけるように大地の精霊が俺の腕から飛び出した。
大地の精霊が炎の塊を追い抜き、茶色の光が島に吸い込まれる。
「島が動いている……」
輝正くんが足元の島を眺めながら呆然とつぶやく。
大地の精霊は島の形状を変え、モンスターを1ヶ所に集めるように蟻地獄のような傾斜に作り替えた。
ドーン!!!!
モンスターが集められた中心に炎の塊が衝突し、地面を揺るがす爆発音が上空にまで響いてくる。
炎が当たった場所は土柱が跳ね上がったあと、溶かされた地面がマグマとなって生物の存在をかき消す。
「ぁ……」
火の精霊がもたらした災害のような攻撃を目にして、輝正くんは言葉を失っている。
メーヌの時にも感じたが、火の精霊と個別の契約を行なうことで、ものすごく使い勝手がよくなった。
(火の精霊【フィノ】。存在自体は召喚できるようになった時から感じていたけど、契約してからさらにはっきりとわかりようになった)
ハンターになる前に突入してしまった境界でモンスターに襲われた時、俺のことを助けてくれたのがフィノだった。
(声を覚えていたからすぐにわかった)
【火の精霊○】となっていたスキルを選択して、貢献ポイントを支払うことで精霊の間で契約を行なえた。
火の精霊も契約者が来たこと自体が数十年振りらしい。
上空をゆっくりと旋回しつつ、溶岩が収まって黒い大地に変わった島を観察する。
神津島に存在していたモンスターが全滅した代わりに、島の形がまるっきり変わってしまっている
「あ、あそこに境界がある。輝正くん突入申請してもらってもいい?」
「えっ!? わざわざ申請するの?」
輝正くんが何を言っているんだと驚きを隠すことなく言葉をかけてくる。
自分で言っておいて何だが、すぐに申請する意味などない事に気が付いた。
「そうか、このまま入ればいいよね。せっかく目立たないように来たのに申請したらバカみたいだもんね」
それでも境界適応症を治療するために境界へ入ったということを残すため、輝正くんと神津島境界を1枚の写真に収めた。
周りを気にしないように必死にこちらを向いていた輝正くんへ、スマホをポケットに入れてから声をかける。
「じゃあ、入ろうか」
「本当に入るの? これ……本当にレッドライン? なんか黒いんだけど……」
赤黒く渦巻く境界を横目に、輝正くんが冷や汗をかきながら苦笑いを浮かべた。
オーバーフローを起こしたレッドラインの境界は、所々黒い線が渦に混じるようになる。
そんな凶悪な感じの境界へ突入することに抵抗があるのか、輝正くんが暗い表情で境界を見つめていた。
「澄人くん!? 境界が!?」
「下がって」
俺たちが見つめている境界が強い光を放ち、周囲へ輝きをまき散らす。
その輝きひとつひとつが半透明のスライムに変貌し、うごめき始めた。
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ご覧いただきありがとうございました。
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次の投稿は8月5日に行います。
次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
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