平義朱澄の仕事~終わらない交流戦の処理~
二学期が始まりました。
今回は部活が終わった後の平義先生の様子をお届けします。
お楽しみいただければ幸いです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
異界から戻り、部活のミーティングを終えてから職員室に入ると同僚の先生に呼び止められた。
「平義さん、30分ほど前に理事長から内線が来ていましたよ」
「わかりました。ありがとうございます」
近くの電話を手に取り、理事長室へ繋がる電話への番号を押す。
(まだこんなに……俺も人のことは言えないか……)
会長が電話に出るのを待っている間に周囲を見回すと、19時を過ぎているにも関わらず、まだ多数の教員が残って仕事をしていた。
自分の机へ乱雑に置いてある書類が目に入り、これからこなさなければいけない仕事が脳裏に浮かぶ。
(出ないな。仕方がない、直接出向くか)
会長が出ないため、受話器を戻して理事長室へ向かうために職員室を出る。
完全下校まではまだ時間があるため、残っている生徒とすれ違いながら理事長室へ足を運ぶ。
(十中八九澄人の件だろうな……頭が痛い……)
会長から交流戦の裏で澄人が皇を追い詰めるために暗躍し、天皇陛下まで動かしたことは衝撃的過ぎて受け入れられなかった。
さらに、競技場と会場に張られた2枚の結界を破壊し、沖縄を中心に半径数百キロの範囲にある雲をすべて吹き飛ばしたことは、一生忘れることが出来ないだろう。
(接近していた台風も消し飛ばしたからな……ありえない力だ……)
澄人が宙に浮き、いくつもの魔法陣を空に描いた光景は神秘的であると同時に、恐怖を覚えた。
結界は何人もの結界師が数ヶ月に渡って設置する強固なもので、個人で破壊できるような代物ではない。
澄人はそれを2枚も木っ端みじんに砕き、超常現象と言っても過言ではない威力のスキルを持つ。
(これをやらせたのがハンター協会の役員で、活動しているハンターをまとめている
解決しなければならない問題が山積みで、正直どこから手を付ければいいのか迷っている。
しばらく澄人をハンターの活動から切り離し、この【騒動】が落ち着くまで静かにしてもらいたいというのが会長の考えだ。
(
影渡りの時、臨時に草根市のギルドをまとめたあいつは、そのままこの集団を若草ギルドという1つの集団にした。
それだけならまだマシだったが、武正は日本中のギルドを1つにしようと画策しているようだった。
(第二の草凪ギルドを作ろうとしていることは火を見るよりも明らかだ……目的がわからない)
今はまだ大人数のギルドというだけの印象しかないが、今後どうなるのか見当もつかない。
そんな若草ギルドから澄人を遠ざけるために、一時的にでも清澄ギルドから脱退をしてもらいたいと考えている。
理事長室の扉をノックしようとしたら、中から話し声が聞こえてきた。
(この声は……まさかっ!?)
足音がこちらへ近づき、ガチャリとドアノブが音を立てた。
「前のように少数意見として無視せず、必ず役員会の議題へあげてください! よろしくお願いします!」
扉を開け放ちながら、武正が会長へ言葉を投げかけている。
「待て武正」
そんな態度はないだろうと咎めようとすると、中にいた会長が静かに首を振って俺を止めてきた。
そんなやりとりがあったことなどまったく分かっていない武正が俺へガンを飛ばしてくる。
「なんだ
「……わかってる」
「フンッ! 失礼する!」
会長が止めていなかったらぶん殴っていた頬を睨み、武正を視界から逃す。
武正の足音が聞こえなくなってから、会長に向かって会釈をする。
「平義、巻き込んですまないな」
「いいえ私のことは……会長、武正をあのまま放置していていいんですか?」
会長の机へ歩み寄り、静かに口を開く。
机の上に積み重なっている紙束に目をやると、会長が数束を掴んで俺へ渡してきた。
「どうやらあやつは、どうしても澄人を矢面に立たせるために署名を集めたようだ」
「署名? ……あいつ! こんなものまで!?」
渡された紙束に目を移して、内容を読み取った。
そこには澄人をギルドの代表にしたいという趣旨の項目が並んでおり、下部に賛同する者の名前が記載されている。
武正は前回の役員会で棄却されてから、この短い間にこの量の署名を集めているのをまったく知らなかった。
「主に30や20代の血気盛んなハンターが署名をしてあり……草根市で活動しているハンターはほぼ全員分あるようだ……」
会長がまだ机の上に積み重なっている紙束を手にして、パラパラと紙をめくって目を走らせる。
その呟きへ何と答えればいいのかわからず、俺は黙ったまま手に持っていた紙束を机へ置いた。
「これが出てきた以上、ハンターの代表である役員会が澄人へ何もしないというわけにはいかない」
「ですが会長……それは……」
「遅らせることができて来月の役員会だろうな」
「わかりました」
会長の言葉を噛み締め、これから起こるであろう未来を予想する。
役員会の要請は言い方を変えれば【強制】、【押しつけ】とも捉えることができる。
こちらが提案した報酬で要請を断られた場合、受理してもらえるまで役員会の議題にあげられてしまう。
さらに、条件を聞くために要請を拒否した者を議題に上がるたび役員会に召喚するため、非常に面倒なことになる。
(その要請を澄人が受けてしまう……そうならないために話し合いをしたんだが……澄香ともう一度話をするしかないな……)
再度、澄人と聖奈を除いた清澄ギルドの3人で話し合いをする必要性を感じた。
「それはそうと異界の件はどうなっておる? 澄人に解放する条件を聞いたのか?」
書類から目を離した会長は紙の束を積み上げ、視線を俺へ移した。
「いえ……それがまだ……」
「だろうな。以前に白間元委員が澄人と約束した期間はとうにすぎておる……お前でも難しいか?」
何の成果も話すことができないため、会長の言葉に黙ってうなずく。
役員会で異界ゲートの件を任されてから澄人と一度も話ができていない。
「そうか……こちらも来月に行われる役員会までに一つでも問題が解決していることが理想だな……」
その言葉は俺へ言うよりも、自らに言い聞かせているような印象を受けた。
(交流戦だけならまだよかった……2度もレッドラインを攻略するのは想定外だ)
レッドラインを単独攻略したことは世界中に発信されてしまった。
ハンター協会への問い合わせも世界各国から来ており、注目を集めてしまっている。
正澄さまから託された澄人が伸び伸びと活動できるように、俺は俺のできることをするつもりだ。
(とりあえず、塞がったゲートをどうにかしないとな……)
そう考えながら職員室へ戻り、他の教員と同じように仕事の処理を始めた。
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ご覧いただきありがとうございました。
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次の投稿は7月30日に行います。
次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
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