境界適応症⑥~楠さんの説得~
楠さんに従者となってもらえるように澄人が説得を行ないます。
お楽しみいただければ幸いです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「召使いじゃなくて、従者だよ。俺のために死んでくれとかは言わないよ」
「
楠さんが感情的になった時に使用する方言を多用しているので、頭に血が上っているのだろう。
逆上している楠さんを刺激しないように、こちらは感情的にならず利点を提示する。
「楠さんの神格の上限を上げられるようになるから、ハンターとして強くなれるよ」
俺の説明を聞いた瞬間、楠さんの顔が真っ赤になり、手を投げるように思いっきり振り払う。
「それで私を言い包めると思ったの!? 神格の上限上げるのは無理なのよ!? どこにもそんな方法載っていなかったわ!!」
たしかに神格の上限があげられる方法があれば、俺が草凪家から追放されることもなかった。
神格の上限を上げることは俺のじいちゃんでさえ諦めたことなので、いくら調べたって出てこないだろう。
(俺も資料をあさったけど、神格の上限が3以下の人はハンターにならない方が良いって、断言されているからな……それにしてもなんでこんなに怒っているんだ?)
俺にからかわれたと思って激怒している楠さんへかける言葉が見つからない。
また、こんなに怒らせるつもりはなく、神格について楠さんが本気で悩んでいることがわかった。
「神格の上限はどんなに
「答えは今すぐじゃなくていいよ。今日は時間をとってくれてありがとう」
話を強引に断ち切り、屋上に楠さんを残してこの場を立ち去ることにする。
(今のままじゃ何を言っても聞いてもらえない)
扉が閉まる直前に楠さんへ視線を投げると、地面を向いて手をぎゅっと握り締めているように見えた。
(この学校で唯一神格が1の楠さんに協力してもらいたかったけど、話を信じてもらえてそうにないな)
考え事をしたかったので階段を降りて教室へ向かおうとしたら、聖奈と目が合う。
聖奈も屋上になにか用でもあるのか、こちらを見上げて複雑そうな顔をしていた。
他にもAクラスのメンバーが数人ここへ来ており、屋上と俺の様子をうかがっているようだ。
従者のことは白間くんが登校してから伝えようと思っている。
(何でこんな思考でここへ来ているんだ?)
みんなの思考が【期待】や【困惑】というよくわからない組み合わせなので、何を考えているのかいまいちわからない。
教室へ戻るためにみんなの横を通るときも誰からも声をかけられず、そのまま通過することができた。
1日の授業が終わり、平義先生が帰りのHRで話をしているとき、従者の一覧を表示させた。
(さて、放課後になるから、白間くんと境界ツアーだ)
先生の声を聞きながら白間くんへ声を届けるために交信を選択して、心の中で話を始める。
《白間くん。外出の許可って出そう?》
《えっ!? 澄人くん!? どうして!?》
《どうしてってどういうこと? 今日の放課後に境界へ行こうって伝えていなかったっけ?》
《それもあるけど、僕がいくら声を届けようとしてもできなかったから……急に澄人くんの声が聞こえて驚いたんだよ》
朝、みんなへ境界適応症について説明したので、白間くんに治療法を伝えたつもりになっていた。
そもそも、あの時は白間くんに針を自分で抜いたとしか聞いていなかったので、今日の放課後についてなにも話をしていない。
《ごめん、それも伝えてなかったね。会った時に全部説明するから、出てこられる?》
《うん……僕ここから出してもらえるのかな?》
《朝みたいにこっちへワープさせるから、紙に面会謝絶って書いて、扉へ鍵かけられないかな?》
《それに追加で、看護婦さんを呼んで誰も入らないように伝えるよ。それくらいしたほうがいいんでしょ?》
白間くんはものすごく俺に協力的で、自分から病室へ誰も入れないように配慮をしてくれた。
帰りの挨拶を行ない、平義先生が教室を出て行くのを見送ってから行動に移ることにした。
そんな時、いつも部活へ行こうと誘ってくる前の席の聖奈がそそくさと教室を出て行く。
(……今日は部活へ行かないからいいか)
部活へ行けないことは平義先生へ連絡をしてあるので、気兼ねなく学校を出られる。
(とりあえず、境界が良く出現する場所へ行くか。見つからなくても、HからCの境界はアイテムショップで買えばいいからな)
境界に突入したという記録も取らなければ証拠にならないと思うので、確実な手順を踏んで夏さんが情報を広めやすいようにする。
(人里から離れていて、ほとんど人のいなかったここでいいか)
ワープの行先一覧で、お姉ちゃんに連れられて遠征した中で一番人が少なかった場所を選択する。
教室には誰も残っていないので施錠を行ない、職員室へ鍵を返してから適当なトイレへ入った。
(ワープ)
選択していた場所へワープを行ない、見晴らしの良い高台に着地した。
閑散とした山岳地帯が眼下に広がり、雲一つない青空が俺を包み込む。
周囲数キロに人の気配がなく、この境界群生地に誰も来ていないことがわかった。
さらに直感が境界を察知しているため、当たり日であることを確信した。
《白間くん、白間くん。準備は終わったかな?》
逸る心をぐっと我慢し、まずは白間くんと話をして協力してもらわなければいけない。
《ハンタースーツに着替えて、病室を立ち入り禁止にしてもらったよ。いつでもどうぞ》
《じゃあ、
白間くんへ確認を取ったので、交信と同じ画面にある召喚を実行する。
実行ボタンを押すと、朝と同じように白間くんが突然現れた。
「よっと。すごい所に来ているね」
「人の目を気にせずに話がしたくて、境界も探したいからここにしたんだよ」
召喚されるのが2度目だというのに、白間くんは華麗に着地を決めていた。
ここにいるのが当たり前のように振る舞う白間くんは、周りの景色に感動しているようだ。
そんな白間くんは俺の方を向いて、高台の手すりに背中を預けた。
白間くんの髪がそよ風でひらひらなびく。
「澄人くんの話って、従者のこと? それともこの胸の印のこと?」
白間くんはそう言いながら首元からハンタースーツを引っ張り、自分の右胸をさらけ出す。
そこにはこぶし大くらいの大きさで、葉っぱと剣の模様が痣のように浮き出ていた。
「これ草凪家の家紋でしょ? 草根高校の校章にもなっているからすぐにわかったよ」
従者になってくれる人へマークを付けるというので、パッと浮かんだのが草凪家の家紋だった。
俺と白間くん以外には見えないらしいが、こうもはっきりとしているとそれも怪しい。
「まあ、僕の命は澄人くんへ捧げたから、こんなものがあっても気にしないけどね」
ハンタースーツを元に戻し、爽やかな笑顔で笑いかけてくる。
「力を借りたいことがあるから、説明を聞いてほしいな」
「うん。聞かせてもらえる? こんなに心と体が晴れやかにしてもらえたから、なんだってするよ」
俺は胸のマークのことを含め、白間くんを従者にしてからのことが分かるように説明を行なう。
境界適応症の治し方や神格の上限が上げられるようになったこと。
従者機能というものがあり、それによって交信や召喚など俺とつながりが強くなったことを隠すことなく白間くんへ伝えた。
説明中に何度も頷いていた白間くんは、話が終わると目を閉じて大きく深呼吸をする。
「それじゃあ、僕はこれから境界巡りをすればいいの?」
「一緒にだよ。俺も検証がしたいんだ」
「よろしく……ご主人さまって呼んだ方が良いの?」
白間くんが真剣にそう質問してきたため、俺はゆっくりと首を振ってから笑いかける。
「今まで通りでいいよ」
俺は白間くんへ行こうと声をかけ、境界の探索を始めた。
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ご覧いただきありがとうございました。
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次の投稿は7月27日に行います。
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