境界適応症④~境界適応症について~
澄人が境界適応症の治療方法の解説を行ないます。
お楽しみいただければ幸いです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――ピシャァン!!!!
資料を作り終わってのんびりとニュースを眺めていたら、玄関が勢い良く開けられた音が聞こえてきた。
足音を大きく立てて誰かが玄関から居間へ近づいて来る。
「澄人!! いるか!!??」
今のふすまを思いっきり開け放った平義先生は、小瓶を握り締めながらこちらを見てくる。
「待っていました。どうぞこちらへ」
「お前何をしたんだ!!?? 本当にあれはお前がやったのか!!?? 説明をしてくれ!!!!」
座っている俺を見つけた先生は滑り込むように正座を行なってきた。
先生は額がつくのではないかと思うほど前のめりになり、鋭い眼光で俺へせまる。
「落ち着いてください。そんなに大きな声を出さなくても説明させていただきます」
大きな物音を聞きつけたのか、お姉ちゃんたちも居間へ集まり、俺と先生の様子をうかがっていた。
お姉ちゃんたちに気付いた先生は手で頭をかき、足を崩してドカッと座る。
「境界適応症の末期と診断された患者が出歩いていたら目立つから、白間はまだ病院に寝かせている。どうしてあいつは点滴なしで生活できるようになったんだ!?」
「こちらの資料にまとめておきました。お姉ちゃんたちもどうぞ」
先生やお姉ちゃんたちに境界適応症に関する資料を配布し、補足するように説明を始める。
白間くんが俺の従者となり、能力の詳細が分かったおかげで境界適応症と呼ばれていたモノを食い止めたこと。
境界適応症がスキルの暴走による作用であり、状態異常ではないことを伝えた。
「じゃあ、この【エーテル】はどうして使ったんだ? お前の説明ならスキルを停止して終わりなんだろう?」
先生がエーテルと呼びながらテーブルの上に持っていた瓶を置いた。
見覚えのあるこの瓶をチラリと見て、あまり言いたくなかったことを口にしなければならなくなる。
「俺が白間くんの病室へ行った時、彼の腕から血が出ていました。自ら点滴の針を引き抜いて、体力が尽きかけていたので、完全回復ができるそれを使っただけです」
昨日の夜、白間くんが自殺を図ったことを口にしてしまった。
先生が嘘だろうとつぶやきながら疑いの目を向けてくる。
「あいつが自分から……本当なのか? お前が従者というやつにするために無理やり――」
目の前で見た俺が信じられなくて固まったことなので、話を聞いただけの先生は疑って当然だろう。
「平義にい、澄人さまがそんなことをしたなんて本気で言っているの?」
「夏澄違うんだ、俺は……」
なにやら険悪な空気が漂い始めるので、俺は自分の話の内容を証明することにした。
「本人に聞くのが一番ですよ。呼びますね」
「呼ぶ? 聞くんじゃないのか?」
先生が渋い顔をしながら俺へスマホを差し出してきた。
夏さんは話が終わっていないと言わんばかりに平義先生を睨み続けている。
「はい。
「わっ!? いったっ!?」
【従者一覧 1/2】
【白間 輝正】《情報》《交信》《召喚》
2人を無視して、従者一覧に表示されている白間くんの横にある《召喚》を選択した。
青い病院着を着た白間くんが俺の真横へ腰から落ちて、うめき声を上げる。
俺以外の4人は突然現れた白間くんに目を釘付けになり、言葉を失っていた。
「白間くん、昨日の夜自分で点滴の針を抜いたよね?」
「…………うん」
地面でもがいていた白間くんは誰とも目を合わさず、床に顔を向けたままうなずく。
「白間なぜそんなことをしたんだ!?」
「ありがとう白間くん。またね」
平義先生が白間くんの行なった行動の理由を聞こうとしていたので、ワープで病院に返す。
自殺を図った人を追い詰めるようなことをした先生と顔を合わせて首を左右に振る。
「そんなに直接本人に聞きます? 憂鬱にさせるだけですよ」
「そんなつもりは……いや、すまん。そうだな。あいつはお前がいなければ一生ベッドの上で生活をしていたんだ。将来について悩んで死にたくもなるか……夏澄もすまなかったな」
平義先生が反論しようとしたのは一瞬で、すぐに両肩を落として俺と夏さんへ謝罪をしてきた。
謝罪を受けた夏さんがひとこと言うかと思っていたら、俺の方を向いて目を見開いていた。
「澄人さま。さっきの彼がここから消えるのはまだ理解ができます。ただ、どうやって呼んだんですか?」
「初めて使いましたけど、従者機能の一部ですよ。任意のタイミングで召喚することができるみたいです」
「ぜひ私も従者にしてください!! どんな時に呼ばれても構いません!!」
夏さんが俺の手を両手で握り、お願いしますと念を押してきた。
枠に余裕があればそうなっていただきたいが、俺はもう1人快く従者になってくれそうな人に心当たりがある。
(そっちの人の方が夏さんとは違って色々試せそうなんだよな……)
それに、夏さんには別のことで協力をしてほしいと思っているため今回は断らせていただく。
「夏さんすいません。気持ちは嬉しいんですが、ちょっと試したいことがあるので枠を残しておきたいんです」
「そう……ですか……ご無理を言ってすいません……」
「それとは別に、確認をしてからになりますが、広めてほしい情報があるんですけどお願いできますか?」
「お任せ下さい。世界中のどこへでも拡散できますよ。何を広めればいいんですか?」
夏さんは俺がお願いをしたいと聞き、間髪入れずに目を輝かす。
あるスキルを習得するための方法を夏さんには広めてほしい。
「境界適応症の治し方についてです。今日の放課後白間くんを連れて実証してこようと思っています」
昨日の夜に書き出したメモを見ながら、境界適応症と呼ばれるスキルの暴走を抑える方法を説明する。
【境界耐性(停止中)について】
HからAまでの境界へ順番に滞在することで制御できるようになります
俺がポイントを払って獲得している効果を白間くんはスキルとして身に着けることができる。
また、他の境界適応症患者も同じように習得できるため、情報を開示すればたくさんの命が救われる。
隠すような内容でもないため、これが達成できたときにはみんなに知ってもらいたい。
「夏さん、確認出来たらすぐに連絡をするので、ぜひよろしくお願いします」
「…………は……い」
惚けた顔でボーっと俺のことを見上げる夏さんはすごくゆっくりと返事をしてきた。
他の3人は何も言わずに、目をまん丸くして俺のことを見ている。
「そろそろ時間なので、学校へ行ってきます。聖奈、荷物を取ってこないと遅刻するぞ?」
「えっ!? うそっ!?」
ハッと時計を見た聖奈は勢い良く立ち上がり、自分の部屋へ向かっていく。
俺は荷物をアイテムボックスへ入れているため、玄関へ足を進めようとした。
「澄香、夏澄……会長が言っていたことが今ならわかるだろう? 例の件、よく考えてくれ」
平義先生が声のトーンを低くして、お姉ちゃんたちへ意味の分からないことを頼んでいた。
ただ、今はとにかく従者機能のことや境界適応症のことで頭がいっぱいなので、早く学校へ行きたい。
(あの人従者になってくれると嬉しいんだけどな)
やりたいことが多すぎて探求心が止められなかった。
軽い足取りで家を出て、聖奈と一緒に学校へ向かう。
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ご覧いただきありがとうございました。
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大変励みになります。
次の投稿は7月23日に行います。
次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
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