境界適応症②~激走!サラン森林~
澄人がサラン森林を探索します。
お楽しみいただければ幸いです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(っと、またいつもみたいに警戒されているな)
カラフルな森林には無数の気配があり、突然現れた俺を警戒しているようだった。
(今日は何処から始めようかな……)
ただ、この刺さるような視線は気にしなくても良いとわかっている。
(小動物のモンスターが怯えてこちらの様子をうかがっているだけだからな。手を出さない限り何もしてこない)
森の中へ一歩でも踏み出せば、モンスターたちは逃げるように散らばる。
あえて刺激することなく、異界の地図を表示し、探索した範囲のサラン森林を確認する。
(12時間一直線に走っても抜けられなかったからな……とりあえず、まだ行っていないところを走るか)
現在はこの地点からサラン森林を扇状に探索をしており、草根市よりも広いことが判明していた。
まだ探索をしていない地点を指でタップすると、十字のカーソルが表示された。
「ワープ」
もう一度ワープを行なうと、俺は宙に放り出され、眼下にカラフルな木々が広がった。
神気解放で身体能力を上げ、生い茂る木々の太い枝へ着地した。
(さてと、地図を広げに行こう!)
地図上では指定した十字の部分に俺が表示されており、正しくワープできたことがわかる。
これだけでも数時間の節約になるので、ワープのありがたみを感じつつ木の上を走り始めた。
(自分が訪れた場所はもちろん、沖縄の時みたいに行ったことがある人がいればワープができる)
沖縄の時は師匠が目的地を知っていたので、皇立高校や交流戦の会場へ直接ワープすることができた。
また、場所だけではなく、指定した人物の近くにもワープが可能なこともわかっている。
(試していないけど、写真だけでも行けそうな気がするんだよな……テレビで見ただけの場所には行けたし)
この夏に各地をワープした影響で、日本だけでも百カ所以上の地点が登録されてしまった。
海外にも行けたため、ワープで移動できない場所は今のところ確認できていない。
「あっ!? ごめん!」
「ギュー!!」
枝の上にいたシマリスのようなモンスターを枝が揺れた衝撃で地面へ落としそうになる。
落ちる前に手でキャッチして、地面を蹴りあげて木の上へ戻る。
――カサカサカサカサ
俺が地面に衝撃を与えたことにより、手のひらほどの昆虫型モンスターが群がってきた。
この森で俺が注意を払わなければならないのは、この黒い肉食昆虫モンスター。
地面のあらゆるところに潜伏しており、長い触角を相手に巻きつけて、トゲのある手足で固く捕獲し、岩を砕くアゴで捕食してくる。
「怖い思いをさせてごめんな」
「ギューギュー!!」
俺の手から離れたリスのモンスターは鳴き声を上げながら器用に木の上を渡っていく。
この木々は昆虫モンスターを寄せ付けないのか、木の上に登ってくることはない。
逆に、サラン森林の地表にはこの昆虫モンスターしか生息していなかった。
「この数で襲われたらひとたまりもない」
剣で倒そうとしても黒い甲殻が固く、アダマンタイトの剣で傷が付かなかった。
最初こそ雷で昆虫を撃退しながら走っていたが、次から次に現れて魔力の消費が激しくなるため、相手にしないことにしている。
3時間程走ってから、新しく探索したところの詳細を地図で確認する。
「んー、まだ森林の終わりが見えないな……それに、新しく目的地が追加された様子もない……か」
異界でも特定の場所を通れば地図に名前が表示される。
今回も新たな文字の追加はなく、森林の表示範囲を広げるだけで終わった。
「後半の突入が始まるから、そろそろ向こうに帰ろう……異界ミッションも達成できそうにないしな」
この森に終わりがあるのか不安になり、異界ミッションも行き詰まっている。
【異界ミッション5】
《アリテアス》を発見せよ
成功報酬:???
アリテアスというものを探す手がかりはこの名前だけで、他に何のヒントもない。
必死にこの木々や存在するモンスターの名前を鑑定したが、どれも該当しなかった。
結果、なんなのかもわからない状態で探すのは無理と判断したため、今は目に付いたものだけ鑑定を行うようにして、森の探索を優先している。
「帰ろう。ワープ」
ワープで草根高校の屋上へ移動し、ハンタースーツに着替える。
部室へ向かおうとした時、グラウンドに救急車が止まっているのが目に付いた。
(誰か倒れたのか? 今日も暑いし、熱中症かな?)
異界探索ではよほどのことがない限り、天草先輩の治療で事が足りる。
この暑い中活動していた運動部の生徒が倒れたのかと思い、屋上の扉を開けた。
なぜかミス研の部室に近づくにつれて、自分が喧騒へ向かっているような気がしてくる。
(これは……)
嫌な考えが頭に浮かんでしまったため、自然と小走りになってしまう。
胸のざわつきを感じながら部室の前に着くと、異界へ向かう扉が開け放たれたままになっている。
「先生!! もう来ています!!」
扉が閉まらないようにしている部長が張り裂けそうな声で先生を呼ぶ。
周りにいる部員も扉の奥を心配そうに眺めているので、何があったのか知っているのだろう。
その中に突入していたはずの立花さんを発見したため、駆け寄って声をかけることにした。
「立花さん、なにがあったの?」
「異界を探索している時、白間くんがいきなり倒れたの」
俺と立花さんが話をしている横を、白間くんを背負った平義先生が駆け抜けていく。
(体力の減少速度が朝よりも早くなってる……それに……見間違えか?)
一瞬見えた白間くんのステータスを覗き、体力が尋常じゃない速度で減っていたのを見てしまった。
先生が通ったあと、異界への扉は元部長に手によって閉じられた。
「先生が不在のため、後半の突入は中止だ」
元部長の言葉を聞いて、全員が暗い表情で納得しながら部室や更衣室へ向かい始める。
立花さんもこの場を後にして更衣室へ向かっていく。
(さすがに今日は行けそうな雰囲気じゃないもんな)
俺も着替えるために校舎へ入ると、天草
「天草先輩。白間くんが運ばれた病院ってわかりますか?」
「わかるけど……お見舞いに行くの?」
「そのつもりです。教えていただけますか?」
「いいけど……お見舞いは先生の連絡待ちなんだ。澄人くんだけじゃなくて、他の人も行きたいって言っているからね」
更衣室の前で天草先輩が立ち止まり、周りにいた部員へ目を配った。
「わかりました。連絡よろしくお願いします」
「ミス研のグループメッセージで先生の連絡を伝えるから見逃さないようにね」
「はい」
天草先輩へ頭を下げ、男子更衣室に入る。
翔が先に着替えを行なっており、その横でハンタースーツから制服へ着替える。
(天草先輩から連絡が入るまで境界でも探しに行こうかな)
ロッカーを閉め、帰り支度を整えながら空いた時間をどう過ごすが考える。
ただ、その最中にも先生の背中で満足そうに目を閉じていた白間くんのことが忘れられなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ご覧いただきありがとうございました。
もしよければ、感想、フォロー、評価、待ってますので、よろしくお願いいたします。
大変励みになります。
次の投稿は7月14日の夕方頃行います。
次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
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