境界適応症①~2学期1年Aクラス~

澄人がキング級の能力を手にしました。

お楽しみいただければ幸いです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「転校生と編入生を紹介する」


 夏休みが終わり、2学期最初の登校日を迎えた。


 教室には新しく3つの机が置かれているので、2学期を8人でスタートすることになったようだ。


 8人になったため、初めて席替えを行ない、俺は二列目の一番窓側の席になった。


 前には聖奈が座っており、残りの3人も前列に座っている。


(俺の横が全部空いているから、今から入ってくる人たちが座るんだろうな)


 チラリと横を見ていると、平義先生がドアを開けて廊下へ顔を出した。


「入ってきてくれ」


 新しくクラスメイトになる人たちが平義先生に合図をされて、教室へ入室してくる。


(新しく編入してきたのが白間くんと天草さん。それと、転校生の立花さん……他の人は選考から漏れたのか)


 交流戦に優勝したため、Aクラスに所属していたミス研の部員はそのまま維持となり、残りの5席をBとCクラスに所属している生徒が争った。


 総合学科をまとめている草矢先生が一定のレベル以上の実力がなければAクラスに所属させないと言っていた。


(新しく入ってくる人が3人しかいないってことは、みんなもっと頑張れってことなんだろうな)


 見知った顔の2人と真新しい制服を着ている立花さんが教壇に並ぶ。 


「3人が新しくこのAクラスにくることになった……自己紹介は各自でしておくように」


 先生は3人へ空いている席へ座るように指示を出した。


 教壇から降りて席へ座ろうとする3人を眺めながら、交流戦が終わった後のことを振り返る。


 あれからすぐに立花さんは草根高校への転学手続きを行って、ミス研の一員となった。


 皇立高校に在籍していたのも両親が皇ギルドにいるだけという理由だったらしい。


(皇は立花さんのことを両親へ就職の斡旋と学費免除で皇立高校が釣ったらしいけど、扱いは酷かったようだ)


 聖奈と話をしているのを横で聞いていただけだが、あんなに強いのに立花さんは皇で荷物持ちや雑用などのことしかやらせてもらえなかったという。


 なんでも、立花さんが草凪流剣術を使うことを皇が気に入らず、戦わせることをさせなかったようだ。


(それにしても、今日は特に白間くんは体調が悪そうだな)


 白間くんの顔色が青白く、白い肌が病的に見える。


 席に座って間を置かずに鞄の中から回復薬を取り出して口にするが、誰も驚いた様子はない。


 彼は病気のせいで体力が減り続けてしまうため、死ぬまで回復薬を手放せない生活を強いられている。


(治す方法があればいいんだけど……こればっかりは……)


 境界適応症は体が境界に対抗するためになってしまう病気で、詳しいことはわかっていない。


 わかっている中で最も印象に残っているのは、かかった人がみな短命であることだ。


(協会にあった資料では、長くても30までは生きられない……神格が7であってもだ)


 年齢と共に体力の減少速度が上がり、末期には点滴のように回復薬を体へ流すように投与する。


 少しでも楽にしてあげようと、神格が4になるまで特訓したが、劇的にステータスが上昇するなんて都合の良いことは起こらなかった。


(何とかしてあげたいけど、状態異常や体力を完全回復するエリクサーも効かないみたいだし、なにをすればいいんだ?)


 このまま黙って仲間を見捨てるつもりはない。


 白間くんの体力が減少する速度が以前よりも早くなっているため、早急に治療法を見つけなければならない。


「澄人くん、これからよろしく」


 境界適応症のことを考えていたら、俺の横に座る天草先輩の妹さんがこちらを見て挨拶をしてきた。


 これで会話を交わすのが3回目くらいなので、同じ部活の仲間としてもっと話をしたいと思っていた。


「こちらこそよろしく、天草さん」


 俺が返事をすると、天草さんは苦笑いになる。


「私のことは紫苑って呼んでよ。他のみんなはそう呼んでるし、お姉ちゃんもいるから名字だと混乱するでしょ?」


 天草さんは、ねっ、と短い髪を揺らし、たれ目を細めて俺へ笑いかけてくる。


 確かに天草先輩もいるので、名字で呼んだ時に2人とも反応してしまうだろう。


「わかった。そう呼ばせてもらうよ」


「うん。お願い」


 紫苑さんと会話が終わると、始業式を行うために体育館へ向かうことになった。


 始業式では師匠から2学期には遠足や校外活動などがあるから気を抜かずに過ごせと、激励の言葉を聞かされた。


 式が終わったあとは、視聴覚室で学年集会を行なわれ、草矢さんの話を聞くことになった。


「じゃあ、これで終わりだ。気を付けて帰……これから全員部活だったな」


 今日予定されていた学校行事が終了し、平義先生が猫背になりながら教室を出る。


 俺は後半の異界探索に加わるので、一旦家に帰ろうとしたら聖奈が開放感満載の表情で後ろを振り返ってきた。


「やっと終わったね!!」


「話を聞くだけの半日で終わるんだから楽だよ。それより、俺のことはもう怒っていないのか?」


 思い出したかのように表情を変えた聖奈は、頬を膨らませて顔を背けた。


「そうだっ!! お兄ちゃんなんか大っ嫌い!! 真友、部室へ行こう!!」


「ちょっと、聖奈!!??」


 そのまま、こちらの様子をうかがっていた真友さんの手を取り、足音を立てて教室を出て行く。


 聖奈の後ろ姿に向かって手を振っていたら、リュックを背負った紫苑さんが俺のそばに立つ。


「聖奈さん、まだ澄人くんのことを許してあげてないの?」


「1人でレッドラインに入ったことを相当根に持っているみたい。家にいる2人は許してくれたんだけどね……」


 沖縄から帰るための飛行機の中で俺がレッドラインを単独突入したことを知った聖奈に激怒され、泣きながらもう口をきかないと言われた。


 お姉ちゃんからは涙ながらにお叱りの言葉を受け、夏さんには心配したと言われながらひたすら泣かれた。


 聖奈は1人で行ったことよりも、俺がその計画を黙っていたことに腹を立てているようだった。


(少し時間をおいてからご機嫌をうかがおう)


 聖奈が見えなくなった廊下から視線を外し、まだ俺の横に立っている紫苑さんを見上げる。 


「みんなは前半の突入でしょ? いってらっしゃい」


「う、うん……それじゃあ……またね」


 紫苑さんが部室へ向かうと、教室に俺だけが残され、窓の外には帰宅している生徒が多数見受けられた。


 帰ろうかと思ったが、周囲に人の気配を感じないので軽く運動をすることにした。


「ワープ」


 運動を行なう場所へ移動するためにワープを発動させると、俺の前に画面が飛び出してくる。


【ワープ可能地点】

[異界][日本][その他]


 行き先が増えたため、いつの間にかタブが追加されて目的地がわかりやすく整理された。


 この中の[異界]を選択し、行先地点を表示させる。


【異界ワープ可能地点】

 ●ライコ大陸

   G1地点

   G2地点

   G3地点

   マルコット山

   プルグ樹海

   クガン湖

 ●マルタ大陸

   サラン森林


(マルタ大陸の探索をしたいから、サラン森林にするか)


 再度、誰も周りにいないことを雷で確認をしてからワープを実行する。


 景色が揺れたと思った次の瞬間、俺はカラフルな森林の前に降り立った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

もしよければ、感想、フォロー、評価、待ってますので、よろしくお願いいたします。

大変励みになります。


次の投稿は7月11日の昼方頃行います。

次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

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