第6章~キング級ハンター草凪澄人侵略開始~

草壁澄香の試験終了~打ち上げ~

【第6章~キング級ハンター草凪澄人侵略開始~】導入です。

草壁澄香視点での話になります。

お楽しみいただければ幸いです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 8月末日。

 私と夏はそれぞれの試験に合格することができた。


 今日は平義さんが合格祝いということで食事に招待され、ドレスコードのあるレストラン【GazonガゾンCalmeカルム】へ来ていた。


 私は昨年度末の表彰式の時に着たネイビーのワンピース風ドレスを身に付けており、この様な場所に初めて来たので落ち着かない。


 夏はドレスを持っていなかったため、昨日淡いオレンジのものを買ってきた。


「香さんこんなお店に来たことありますか?」


「初めてよ……それにここ……貸し切りなのかしら?」


「そんなわけ…………あるんですかね……」


 薄く化粧をしている夏は、きょろきょろしながら他に客がいないなぁとつぶやく。


 草根市の一等地にあるため繁盛していないようには思えず、ウェイターの仕草一つ一つも洗礼されている。


(どうしてこのレストランなのか聞きたいけど……時間過ぎているのに)


 草凪市内で一番有名なレストランで待ち惚けを受けるとは思っておらず、ウェイターさんたちの視線が痛い。


 私たちを招待した本人は時間になっても現れず、スマホにも連絡がない。


 ウェイターさんへ3杯目のドリンクを頼んだとき、ようやく平義さんが現れる。


「来たけど……様子がおかしいわね」


「平義にいもギクシャクしてますね」


 濃いシルバーのジャケットを着た平義さんもお店を見回し、緊張しているような面持ちだった。


 タイをきちんと付けている平義さんがウェイターさんに案内をされて椅子へ座る。


 ウェイターさんが頭を下げて離れたタイミングで、テーブルへ軽く身を乗り出す。


「本当にこんなところへ来てよかったんですか?」


「平義にい、私たちへ見栄を張らなくてもいいのにどうしたんですか? 結婚相手を私たちへ紹介するとか?」


 案内された席がもう一席開いており、メニュー表やナイフとフォークが用意されているので、誰か来る予定なのは間違いない。


 今までそんな話を聞かなかった平義さんにそんな相手がいたことなど知らなかったので、夏が目を輝かせる。


「そんなわけないだろう、俺の横に座るのは会長だ」


 その期待を一蹴し、何事もなかったかのように平義さんがウェイターを呼んで飲み物を頼む。


「会議が長引いたから、遅れるそうだ。もう少し待っていてくれ」


 8月の最後の日だというのに、平義先生と祖父はハンター協会で会議をしていたようだ。


 定例会とは違う時期の開催なので、緊急の案件があったと思われる。


「それって、皇……関連の内容ですか?」


 夏は会議の議題に心当たりがあるのか、眼鏡の奥から真剣な眼差しで平義さんを見つめる。


 平義さんは夏と目を合わせ、眉をひそめながらコツコツとテーブルを指で数回叩く。


「漏れないようにしているんだが、夏澄はどこでそれを知ったんだ?」


 平義さんも夏がかまをかけるような真似をしないのはわかっている。


 そのため、夏がなにか情報を持っている上で質問をしていると平義さんも判断したのだろう。


「特級観測員の試験に皇の関係者がまったくいなかったのでそう推理しました。香さんの方はどうでしたか?」


「そういえば……そうね。ギルド管理者の試験にもクッソむかつく皇の連中はいなかったわ」


 皇は草凪流剣術を邪道と敵視してきているため、私に対する風当たりが強い。


 今回の試験もそれが一番の障害だと考えていたので、スムーズに合格できたことが不思議だった。


「どうなんですか平義にい」


 私の話を聞いた夏が、問い詰めるように言葉を投げかけた。


 しばらく2人が見つめ合っていると、平義さんが大きくため息をつく。


「今月行なった交流戦で皇立高校が大規模な不正をしていたことが判明した。余罪がまだあると判断され、皇立高校はもちろん、皇ギルドに関連するあらゆるところへ調査が入ることになったんだ。すべてが判明するまで皇系列のハンターは活動が禁止されている」


 グラスを傾けて飲み物を飲み干した平義さんが周りの目を気にすることなく、会議の内容を喋り出す。


 しゃべり始めた平義さんの口は止まらず、頬杖を付いて空になったグラスを難しい顔で見つめていた。


「それぞれの試験に皇がいなかったのはその影響だな……まあ、長引いたのはこの議題じゃなかったんだが……」


 そんなことを言ってもいいのかと驚く半面、皇以上の議題があったのかと興味も湧いてくる。


「どんな議題だったんですか?」


 夏も同じ気持ちなのか、私が質問をする前に口を開いた。


 平義さんはここまで言ったら同じかとうっすらと笑う。


「それは――会長がいらっしゃった」


 何かを言おうとしていた平義さんが立ち上がり、入り口の方を向く。


 今回の会を開いてくれたので、一応私たちも祖父が来るのを待つために立ち上がった。


 しかし、私は入店してきた祖父の姿を見て、頭が真っ白になる。


「おじいちゃん……なんでアロハシャツなの……平義さん、ちゃんとここのことを伝えたんですよね?」


「会議ではジャケットを着ていたんだが……わざわざ着替えに帰ったと思う……」


 このガゾンカルムのことを調べた時、祖父のような恰好で料理を楽しんでいる人は1人もいなかった。


 ウェイターさんも予想外だったのか、祖父の姿を見た瞬間奥へ引っ込んでしまう。


 それでも初老の女性ウェイターさんは動じることなく祖父へ近づき、頭を下げていた。


 じっと祖父の姿を観察していた夏が眼鏡をクイッと上げる。


「赤いアロハに着替えて登場とか……澄広さんボケちゃったんですかね」


「……会長は60になったばかりだぞ……そんなはずは……」


 平義さんも夏の指摘を怒りきれず、歯切れが悪い。


 祖父と女性ウェイターさんのやり取りを眺めていたら、何事もなかったかのように席へ案内を始めた。


 その格好で良いのかと言いたくなるのを我慢して挨拶をする。


「師匠、今日はこのような会を開いていただきありがとうございます」


「堅苦しいあいさつはよい。座ってくれ」


 私たちのことを気にすることなく祖父が着席し、いつものを頼むと上機嫌に注文をしていた。


 祖父がこのレストランの常連なのかと聞こうとした時、ウェイターさんと入れ替わるように半袖のコックコートをきた初老の男性が現れる。


「草壁さん、ようこそいらっしゃいました」


「いつもすまないね。今年は来ることができたよ」


 祖父と同年代に見える男性のコックさんは、このガゾンカルムの料理長だった。


 雑誌やテレビでも紹介されている料理人で、このレストランを三ツ星に導いた巨匠。


 そんな方がアロハシャツを着た祖父と旧知の仲のように語り合っていて訳が分からない。


「今日も腕によりをかけて作りますので、ごゆっくりお楽しみください」


 2人の話が終わり、テレビで見た印象とはまったく違う物腰柔らかに調理場へ戻る。


 戸惑っている私たちの服装を見た祖父はニヤリと笑う。


「この店はわしが正澄さまと良く通っていたところでな。草凪ギルドの暑気払いの場所としてものすごくお世話になったんだ」


 祖父は店内を見回し、懐かしむように目を細めた。


 その姿は普段見ているような気張った祖父ではなく、年相応にくたびれているように感じた。


「この格好も正澄さまが、みんなが気兼ねなく楽しめるようにとあえて着ていた……っと、昔話はあとでするとして、平義、2人へどこまで話をしたんだ?」


「えっ……ええっと……」


 急にシャキッと表情を変えた祖父に質問をされた平義さんがどもってしまう。


 平義さんのこんな光景を見るのも珍しいので黙っていたら、祖父が私たちの方を向く。


「澄香、ハンター協会から清澄ギルドのマスターであるお前へある要請が所望される」


「……なにをすることになるんですか?」


 師匠がとても言い難そうにしながら言葉を選んでいた。


 その間、平義さんは腕を組み、言いたいことを我慢するように奥歯を噛み締める。


「清澄ギルドに所属している草凪澄人へ脱退勧告を出してほしい」


 私は目の前のテーブルを蹴り上げて祖父へつかみかかるのを我慢するために、深く深く長い時間をかけて深呼吸を行なった。


「このっ!!」


「夏、止めて」


「香さんどうして!?」


 ハンター協会の会長へ飛びかかろうとする夏の初動を抑え、強引に椅子へ座らせる。


 力一杯握りしめた拳を左手で包み込み、感情を押し殺す。


「澄広さん、ギルドを脱退させるということがどういうことかわかっていていながら、協会が私へ強制するんですか?」


「……あくまでも所望だが……そういうことだ」


「このっ!!!!」


 私はテーブルを蹴り上げ、祖父へ襲い掛かる。


 食器やテーブルナプキンが宙を舞い、豪快な音を立ててテーブルが床に落ちる。


「どうして止めるんですか平義さん!!??」


「できれば最後まで会長の話を信じて欲しい」


 味方だと思っていた平義さんが祖父を守るように私の拳を受け止める。


 音を駆けつけたウェイターさんたちが女性のウェイターさんから近寄らないように言われていた。


 そんな状況知ったことではないので、私はつかまれていない腕で平義さんの胸ぐらをつかむ。


「聞けるわけないでしょう!! 草根市のギルドを脱退させるってことは、この街にあるすべてのギルドへ所属できなくなるんですよ!? 境界にだって入れなくなるのに!! それを知っている平義さんがどうして私を止めるんですか!!??」


「詳しくは話せん。だが、澄人のためなんだ」


 それを聞いた祖父は何も言わず、じっとこちらを見つめていた。


 この2人はろくな説明もしないないまま、私にこの街から澄人を追放させようとしている。


 また、言わせようとしているのが澄人の後見人である祖父と見守っていた平義さんであることが余計に腹が立つ。


(そんなこと絶対に聞いてやるもんか!!)


 どんな理由があれど、正澄さまの作った私たちの清澄ギルドから澄人を追い出す行為はしたくない。


 私は平義さんのタイを掴んだまま祖父を睨みつけた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

もしよければ、感想、フォロー、評価、待ってますので、よろしくお願いいたします。

大変励みになります。


次の投稿は7月9日の夕方頃行います。

次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

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