他校交流戦⑬~神格5の澄人による全力~

澄人が今の能力で全力を出します。

お楽しみいただければ幸いです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 草薙の剣は神気が回復していないので、神の一太刀を放つことはできない。


 おそらくだが、この人たちも神の一太刀を望んでいなさそうなので別の方法を取る。


(競技場を覆っている結界を破壊……俺は大丈夫でも他の人が危ないな……)


次に威力の高いグラウンド・ゼロを使おうにも、破壊する対象が見当たらない。


(それじゃあ雷で……なにをする?)


 キング級の男性を相手にすればそれだけでも証明になるのだが、結界があるためこの人が競技場へ上がれない。


 力を示すのも楽じゃないと思いながら、期待を込めた目で見ている人たちへ目を向ける。


 すると、女性の方が着ている半袖のワイシャツがポツポツと小さい水玉で濡れ始めた。


「雨だ」


 まだ雨脚は弱いが、雨雲が急激に発達してゲリラ豪雨になると困ってしまう。


 それに、俺の力を見たいと言った集団はこの場を一歩も離れようとしない。


(そうだ! あれ・・だ!)


 俺は上を向いて、消し去る目標を見つけることができた。


 それを雨が強まらないか不安そうに待っている人たちへ伝える。


「今からあの雨雲を消したいと思います」


「あ、雨雲を!?」


「はい。みなさんその恰好で濡れるのは嫌ですよね。すぐに掃います」


 唖然としてしまった人たちをよそに、競技場の中央へ向かって空を見上げる。


 積乱雲がみるみる発達して周囲が暗くなり、今にも大雨をもたらしそうだ。


(あれを消し去るには上空へ羽ばたいて、雲の中心でグラウンド・ゼロを行なうしか――)


 成長していく積乱雲を眺めながら消し去る方法を思い描いていたら、俺の悩みを解決するように画面が現れた。


【スキル情報解禁】

 知力がS以上になったため、グラウンド・ゼロで遠距離攻撃が可能です


(それなら話は早い。早速使おう! えっと……魔法用の杖は……)


 いつか魔法を披露する日がくると思って、用意をしていた杖をアイテムボックスから取り出す。


 30センチのオリハルコンとアダマンタイトで作った杖が手に馴染む。


(あとはこれを開いておいて……っと)


 グラウンド・ゼロで最大の威力を出すためには5万も魔力を消費するため、あらかじめアイテムショップで回復薬のページを開き、魔力を回復する準備をしておく。


 杖の先端を上に向けてグラウンド・ゼロを使おうとしたとき、さらに新たな画面が表示された。


【能力解禁】

知力SSのため、詠唱によるスキル威力向上が可能です

 実行しますか?

 はい  いいえ


 詠唱という単語に惹かれるものがあり、威力向上もどれほどのものなのか確かめたくなってしまった。


 迷うことなく【はい】を選択すると、俺の全身から白い光が溢れ、魔力の消費が始まる。


 俺を包む光が赤みを帯びてきたとき、魔力の消費が止まり、警告するように赤い画面が出現する。


【スキル発動を中断しました】

 続ける場合は詠唱を始めて下さい


(俺が何も口にしないから止まったのか!? 詠唱ってどんなことを言えば……)


 何をどんなふうに言えばいいのか困っていると、警告の画面が切り替わる。


 そこには俺を助けるように文章が並んでいた。


(これなら!!)


 上へ放てるように雷の翼で羽ばたいて地面へ背を向け、杖を正面で構える。


 どれだけの威力になるのか期待を込めて口を動かす。



集まりし奇跡の輝きよ

万象を等しく無に帰し



 詠唱を始めると周辺に魔法陣のようなものが浮かび上がり、魔力の消費が再開する。


 こんな風に魔法を使うのは初めてのため、気持ちが高揚してきた。


(もう少しで発動する……ん?)


 あと少しで終わる詠唱を口にしようとした時、競技場へ誰かが現れた気配を複数感知した。


 その人たちを気にすることなく、俺は意識を集中させてグラウンド・ゼロを発動させた。



終焉を誘う力を我が元に

破滅よ!!

天を穿て!!

グラウンド・ゼロ!!!!



 詠唱が終わると同時に全身を覆っていた赤い光が杖に集まり、天に向かって解き放たれる。


 高速で打ち出された光の線は赤い光を散りばめながら、この建物に張られていた2枚の結界を貫いた。


 そこを中心に結界が崩壊し、キラキラと虹色の粉が競技場へ降り注ぐ。


 宙を漂いながら光の行方を追っていた俺は競技場に降り立ち、赤い光の行方を目で追う。


 赤い光が雲へ吸い込まれて見えなくなった瞬間、爆発音が空気を揺らす。


――ドゥン!!


 はるか上空から聞こえてきた爆発音は積乱雲を吹き飛ばし、青空を赤い閃光で満たす。


 衝撃波が地上に届き、競技場全体を揺らした。


 赤い閃光が消えたあとの空には青空が広がり、雲一つ見当たらない。


(これは最高だ。知力を2段階上げるとこんな威力になるのか……詠唱って自分で考えても大丈夫なのかな?)


 これだけの威力のある魔法を放ったので、力を見せてほしいと言ってきた人たちの反応がどのようなものか気になる。


(あれ? ……反応がない?)


 俺に頼んできた人たちは空を見上げたまま固まり、数人が俺から顔をそらす。


 期待に応えられなかったのか、俺が近づいても声をかけられない。


 観客席に座っていた人たちも物音1つ立てずにこちらを見ていたため、肩透かしをくらったような気分になる。


(とりあえず、交流戦を進めよう)


 誰かが競技場へ上がってくる間の時間つぶしのために行っていたことなので、自分の役割をまっとうするべくマイクを持つ。


 鬼ごっこを勝ち抜いてきた人を紹介しようとしたとき、なぜか鬼役である聖奈がここに来ていた。


 ただ、聖奈は頬を赤く染め、チラチラと俺の方を見てきている。


(どうしたんだ? 聖奈の様子がおかしいな)


 聖奈が勢い余って水晶に触ってしまった恥ずかしさを隠しているのかと判断し、横に立つ女性へ目を向けた。


 長い髪をポニーテールのように後ろでまとめ、きりっとした目付きから気が強そうな印象を受ける。


 その目がなぜかきつく俺を睨み、今にも襲いかかってきそうな雰囲気だった。


「平義さんから言われた通り、私の力を証明しに来ました」


 その女性は持っていた銀色の剣を俺に向ける。


 俺は話でしか聞いていなかったが、聖奈の横に立つ女性は師匠や平義先生が草根高校へ転校させたいと言っていた人なのだろう。


 あの2人が何と言ったのかはまでは伝えられていないため、流れに身を任せる。


「たどり着けてよかったです。始めたいんですが、結界が壊れてしまったので――」


「構いません。それとも、あなたが怖いですか?」


 鋭い目つきで俺のことを見据える女性はそう言い切り、剣を構える。


 そんな中、横でソワソワしていた聖奈も同じように剣を手にする。


「お兄ちゃん、二人一緒でもいいよね? あんなの見せられたら我慢できないよ!」


 聖奈はグラウンド・ゼロの威力にあてられたのか興奮しているようだった。


(最後だしこれでもいいか)


 結界を壊してしまい、これ以上この競技場へたどり着ける人はいない。


 俺は2人へ返事をする代わりに杖を振り、数百本以上の雷の剣を展開させた。


「かかってこい」


 声を出した瞬間に2人が俺との距離を詰めようと走り出してくる。


 20メートルほどの距離をそう簡単に詰めさせるわけにはいかない。


「さあ!! 防いでみろ!!」


 四方八方から無数の雷の剣を2人へ放った。


 逃げ道などないように次から次へと剣を生成してマシンガンのように打ち込む。


 2人は目配せをすることなく背中を合わせ、お互いの死角から飛んでくる剣を捌く。


 雷の剣が砕かれ、黄色い魔力が乱れ飛ぶ。


(なんでこの2人は息がピッタリなんだ!?)


 シンクロをしているかのようにお互いを補い合う2人を見て、俺はここに来てよかったと心から感じた。


 普段聖奈と訓練をする時とは違い、たくさんの人の前で戦うのは気持ちが昂る。


(交流戦……良いイベントじゃないか!!)


 2人の熱量を近くで感じたくなり、俺はアダマンタイトの剣を取り出して2人へ肉薄した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



ご覧いただきありがとうございました。

このお話で【第5章~ライコ大陸の謎~】が終わりになります。


次の投稿は7月6日に行う予定です。

もしよければ、感想、フォロー、評価、待ってますので、よろしくお願いいたします。


次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです、

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